戦時中のフィリピン大統領、マニュエル・ケソンがホロコーストを逃れるユダヤ人のために、国内の反対、アメリカの反対を押し切って、ユダヤ人にビザを発給した実話の映画化です。正直、Quezonという大統領も知りませんでした。これがメトロマニラ最大の都市、Queson Cityの由来なのですね。いろいろ新たな発見があって有益な映画体験でしたが、本作には致命的な問題があります。
現在、主要なプラットフォームではAmazon Prime Videoのレンタル(400円)でしか見ることができないのですが、なんと自動生成の日本語字幕しかありません。非常に質の悪い字幕で、日本語にない文字さえ表示されるレベルです。内容を把握するには、ある程度英語リスニング能力が必要です。タガログ語で話されるパートについては、どうにもなりません。自分はある程度、タガログ語もわかるので何について話しているかくらいは把握できましたが、そうでないと厳しいです。こんなレベルの日本語字幕ならば、英語字幕の方がましですが、字幕を変更することもできません。正直なところ、商品として成立していないレベルです。もし、この映画を見たいという方がおりましたら、ちゃんとした英語字幕で見れるプラットフォームでの視聴をお勧めします。
マニュエル・ケソンって何をしたひと?
マニュエル・ケソンは1878年生まれのフィリピン人です。アメリカからの独立運動に参加するためサント・トーマス大学法学部を中退してエミリオ・アギナルド(彼については、下記のリンクで紹介しています)の革命軍に参加します。1903年に卒業、司法試験に合格して弁護士活動を1年間行っています。その後、政治の世界に転身し、知事、国会議員、駐米委員、上院議長などを経て大統領に選出されています。大統領時代に、日本軍がフィリピンに侵攻してきたため、マッカーサーの勧告に従って、政府をマニラからアメリカに移転、1942年に渡米し亡命政府を樹立しました。アメリカ在住中に持病の結核のため亡くなり、祖国の独立を見届けることはできませんでした。また、1937年にタガログ語をフィリピンの国語と定めたことから「フィリピン語の父」といわれています。
ストーリー
序盤に大統領としての公務の様子を見せてから、ケソン大統領は、比較的早い段階でユダヤ人の亡命について嘆願されます。というのも、少し前に上海からユダヤ人亡命者を受け入れており、その亡命者が大統領に嘆願したのです。彼らがどのような迫害を経験して生き延びてきたのかを聞いて、彼は受け入れを決断します。ちょうどその時にフィリピンの滞在武官だったアイゼンハワー(のちにアメリカ大統領)が、非常に話の分かる人で、多少の反対はありましたが、内部の意見をまとめることができました。それでは、ドイツ・オーストリアのユダヤ人に移民希望数を確認したところ1万人がフィリピンへの移民を希望することがわかりました。ところが、フィリピンはアメリカから年間の移民受け入れ数を500人に制限されています。すでに受け入れていた移民がいたため、200人しか受け入れることができません。また、エミリオ・アギナルドがアメリカと結託して、フィリピンの独立を遅らせる代わりに権力の座につくことを画策しています。在フィリピン・ドイツ大使にお願いしたり、いろいろ手を尽くすのですが、最終的にアメリカの在フィリピン国務長官が移民の受け入れを拒否。理由は、彼らはユダヤ人でもあるが、ドイツ人でもあるので、ここでフィリピンに受け入れることが、アメリカの深刻なリスクになるというのです。結局、残り200人の枠さえユダヤ人亡命者に使えなくなってしまいます。もはやこれまで!と、自暴自棄になったわけでもないのでしょうが、ケソン大統領は、ユダヤ人亡命者を受け入れることが、フィリピンの独立に結び付くという信念で、国民に向けてラジオ演説を行います。結局は、これがアメリカを動かすことになり、200人+1000人の移民を受け入れることができたのです。
今のイスラエルの状況を見ていると、感動も減ってしまうというものですが、良い映画体験でした。ただのお涙頂戴になっておらず、フィリピンの独立を結びつけているところが良かったです。ちなみに、ケソン大統領が発給できたビザの数1200人分は、有名なシンドラーが救い出せたユダヤ人と全く同じ数です。ドイツ人とフィリピン人と言う違いは大きいですが、ケソン大統領の功績がもっと知られるべきですよね。さらに言えば、日本の杉原千畝さんは、少なくとも6000人のユダヤ人にビザを発給して命を救ったとされています。
作品情報
オリジナルタイトル:Quezon’s Game
公開年 2018年
監督 Matthew E. Rosen
主なキャスト Raymond Bagatsing
Rachel Alejandro
David Bianco
視聴可能メディア Amazon Prime Video(レンタル)(自動生成の日本語字幕のみ)