本作は、なかなか意地の悪い作品でした。クリスマスイブに、家族でお出かけして、幸せの絶頂にあるかのように見えた家族が帰宅すると、家が何者かによって荒らされていました。しかも、普通の物取りが盗みそうもないものがなくなっています。また、警察の調べにより、家族の秘密も明らかになり、家族はお互いに疑心暗鬼になっていくという構成です。タイトルの「Bisperas」は、「前夜」という意味で、クリスマスイブなら「Bisperas ng pasko」で、大晦日は「Bisperas ng Bagong Taon」です。クリスマスイブに起こる事件なので、「Bisperas ng pasko」とタイトルになりそうですが、あえて「Bisperas」だけにしたことで、これから起こる家族の崩壊を予想させますね。意地が悪いです。
(Photo cited from IMDb)
「Bisperas」のストーリー
クリスマスイブの風景です。皆がロウソクを持って、街中を讃美歌を歌いながら練り歩き、教会に到着すると、聖夜礼拝が行われます。フィリピン人が待ち望んだ日です。家族は幸せの絶頂の中、自宅に帰ってきました。ところが、家の中が何者かにあらされていました。
まず、お手伝いさんが、便器にぶちまけられた下痢便です。その後、息子の部屋から彼が姉から借りパクしていたMac Book、冷蔵庫の中からビール、長女のパスポート、それから家の権利書が消えていました。次女と母は、権利書がなくなったことから、父親が家の権利を質入れしたのではないかと考え、父親を問いただしましたが、当然、父親は否定します。
また、警察の取り調べてわかったことなのですが、銀行に預けるために母親が息子に預けていたお金も無くなっていました。そんなお金のことを知らなかった父親は激怒します。母親は、ギャンブラーである父親を信じていなかったのです。また、長女は、お金を借りてアメリカに行っている夫がおり、彼女はアメリカに行こうとしています。それを家族がよく思っていないことも明らかになりました。
（ネタバレ）どうも、父親が最も怪しいという雰囲気になってきますが、それでもお手伝いさんの服や、息子の大学のジャージが盗まれているのも奇妙です。息子のスマホがなくなっていたのも、なぜ家に置いていたのかという疑惑を呼びました。ともかく、家族は非常に険悪になってしまい、裕福に見えた家族ですが、借金が増えた理由をお互いに押し付け合い、非難します。
結局、確かなことはわかりませんが、翌朝になって、クリスマスのミサが始まります。父親を除く、家族はミサに出席し、多くの参加者と同じように聖体拝領を受けました。そこで、息子は、自分のジャージを着ている男を発見しました。その男を追ったのですが、見失ってしまいました。その男は、知り合いに気前よくお金をあげます。彼の財布には、大量の札束が入っていました。そこでエンディングです。
結局、誰の犯行だったのかわからないままでした。父親が最も怪しかったのですが、最後のシーンの意味を考えると、単なる物取りだったのでしょうか？ 最後まで見てもはっきりした答えが得られないのがフィリピン映画らしいですね。
この映画とは関係ありませんが、私はフィリピンのクリスマスミサで、聖体拝領を受けたことがあります。単に、みなと一緒に列に並んでもらったのですが、これはクリスチャンでなければもらえないもので、しかも、離婚した人は、カソリック的には罪を犯したことになるので、もらえないほど厳格なものだそうです。しかし、日本のカソリック教会は、フィリピン人によって支えられており、その多くが離婚しているので、可哀そうだということになり、教区によっては、離婚したフィリピン女性にも聖体拝領をしているという話を最近聞いたところです。それを聞くと、カソリック教徒でもないのに、私が聖体拝領を受けたことがあるというのは、例外的なことだったのだなと、本作を見ながら思い出しました。
「Bisperas」の監督、出演者情報
本作の監督を務めたJeffrey Jeturianさんは、初めて作品を見ましたが、かなりベテランの監督さんです。おそらく「Ekstra」が最も有名な作品じゃないかと思います。たくさん映画作品もあるので、今後、彼の作品を見る機会はありそうです。俳優の方は、みなさん無名と言うわけではありませんが、大きな役を演じるほどではない人たちでした。
「Bisperas」の作品情報
オリジナルタイトル：Bisperas
公開年 2011年
監督 Jeffrey Jeturian
主なキャスト Tirso Cruz III
Raquel Villavicencio
Julia Clarete
視聴可能メディア Youtube（英語字幕）
