巨大台風後の無秩序さを描く「たとえ嵐が来ないとしても」

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非常に不思議な映画です。映画としての作りも不思議です。巨大台風が通過して、すっかり廃墟になった街の中で、人々の無秩序さを見るという構造です。また、フィリピン人の行動が不思議です。なぜ、この状況でそんなことをするのか、と思わされる人がたくさんでてきます。また、フィリピン人の性格も不思議です。非常に敬虔深い人かと思えば、頑固で、人に向かって唾を吐きかけたりします。何もかもが、あまりにも日本と違うなということを再確認し、フィリピン人って、我々から見ると、不思議な行動をするな、相反する性質が同居するな、ということを再確認させてくれる映画だと思います。

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ストーリー

台風ハイエンというフィリピンの歴史上でも最大級の台風が襲ったあとのタクロバンが舞台です。主人公は、母と息子、そして息子の彼女です。息子と彼女は、死体が散乱しているがれきの中を徘徊し、金目のものと、食べるものを物色します。ある家に入ったところ、まだ生きている老人がいて、彼女はいきなり銃をぶっぱなし、家畜の鶏を強奪します。鶏を持ち帰ると、母がすっかりうろたえており、神に祈ったり、父の状態を心配するばかりです。彼女は、そうした態度にあからさまに苛立ちます。彼らは救援物質をもらいに配給所にいきますが、母が行った場所は適当な対応をするので、母は怒って、兵士が持っているものを勝手に取り上げてしまいます。息子と彼女がいった配給所では、兵士が「もう台風は来ないので安心してください」と告知していますが、兵士たちは安全じゃないから撤退すると告げました。「あとは自分たちで頑張ってくれ」と言い残して。悲惨な状況かと言えば、そんな深刻な雰囲気でもありません。死体はいたるところに散らばっているのですが。踊ったり歌ったりしている人たちもいます。キラキラしたもので飾り付けるのに夢中になっている人もいます。また、すっかり信仰心が刺激され、キリスト教のアイテム(マリア像とか)を持って街を練り歩いている人たちもいます。そこで、本作最大の謎のシーンがおきます。このガラの悪い彼女が、たまたま倒れていた犬を拾い上げ海水で洗ってあげていると、犬が起き上がります。それを見た信者たちが、彼女のことを救世主だと言い始め、そのまま大きな十字架に乗せて運び去ります。彼女はそれを当たり前にように受け入れます。また、母は夫の様子が心配で、避難所の中の救護エリアに入りたがっています。しかし、けが人しか入れないというので、息子に石で殴打することを頼みます。当然、拒否するのですが、あまりに熱心に頼むので、ついに息子は母親を石で殴りつけます。しかし、そこまでやらなくても・・・と思う程、ひどく殴りつけます。ずっとこんな調子で、人々は矛盾に満ちた行動をしており、この混乱がいったいどうなるのだろうか?というところで、解決の無いまま映画は終わりを迎えてしまいます。

我々から見ると、非常に矛盾に満ちた不可思議な行動をとるフィリピン人ですが、どのシーンを見ても「そんなことするわけないだろう」とは思いませんでした。「まあ、そういうところはあるな」と思わせてくれます。フィリピン人の優しさと暴力性、宗教心の篤さと他人への配慮の欠如、緊急事態なのに、なぜかのんびりとしているところ、そういう矛盾をあらためて見るという映画なんじゃないかと思います。

作品情報

オリジナルタイトル:Kun maupay man it panahon

公開年 2021年

監督 Carlo Francisco Manatad

主なキャスト Charo Santos-Concio

Daniel Padilla(The Hows of Us

Rans Rifol

視聴可能メディア Amazon Prime Video、Rakueten TV、Lemino(レンタル)(日本語字幕)

作品トレイラー