最近は、国際共同作品も多く、何をもってフィリピン映画とするのか、何をもって日本で撮影されたとするのか曖昧ではありますが、ここでは「監督を中心にフィリピン人スタッフによって撮影された」、「ほとんどのシーンが日本で撮影された」映画を扱いたいと思います。
日本人にとってフィリピン映画は、そんなに馴染みのあるものではありませんし、フィリピン映画を1本も見たことがない日本人がほとんどですから、馴染みのある日本の風景の中で、フィリピン人が何を感じるのか、ということが見える「日本で撮影されたフィリピン映画」から始めてみるのも良いんじゃないかと思います。
日本で撮影されたフィリピン映画と言えば、佐賀県フィルム・コミッションの話から始めなければならないでしょう。実に、ここで紹介する7本の映画のうち4本が、佐賀県のフィルム・コミッションの協力で撮影されています。
フィルム・コミッションとは?
フィルム・コミッションとは、地域活性化を目的として、映像作品のロケーション撮影が円滑に行われるための支援を行う公的団体です。具体的にはロケ撮影に際して、映像制作者と地域社会(自治体、施設所有者など)との間にフィルム・コミッションが入り、各種連絡・交渉などの調整係の役割を果たすします。このほかエキストラの募集、パンフレットの製作や配布、エキストラ用の食事の手配なども行うこともあります。
また、映像作品は撮影時や上映による経済効果が大きいため、フィルム・コミッションが映像作品の誘致活動などを積極的に行うこともあります。佐賀県だけにあるわけではなく、小さなものも数えると、日本全国に何百ものフィルム・コミッションがあると言われています。特に海外チームによる撮影の場合、様々な許可の申請、協力団体のあっせん、エキストラの募集などを英語で手助けしてくれるフィルム・コミッションが必要不可欠だと考えられています。
1.「This Time」
本作は、佐賀県で撮影され、2016年に公開された作品です。佐賀県フィルム・コミッションの協力を得て撮影された初めてのフィリピン映画です。本作は、1億2000万ペソの共興収入をあげ、フィリピン国内的には中ヒット作品となっています。
ストーリーとしては、夏休みのあいだだけフィリピンで会える幼馴染の女の子のアヴァと男の子のコビーがいます。特にアヴァは、コビーに惹かれているのですが、大きくなるにつれ、会える時間も少なくなってしまいます。しかし、アヴァが交換留学生として日本に行くことになり、ちょうどそのタイミングでコビーもおじいさんの昔の恋人探しのために日本に行くことになります。日本(佐賀)で再開したふたりは急速に接近していきます。
現在、日本の主要な動画配信プラットフォームからは見ることができないようです。また、日本の映画インデックスサイトFilmarksにも登録されていないことから、日本で撮影されたにも関わらず、日本で公開されたことはなさそうです。しかし、正規アップロードかがわかりませんが、Youtubeにて公開されていますので見ることができます。残念ながら字幕は英語のみです。
2.「Hanggang kailan?」
本作、佐賀県で撮影され、2019年に公開された作品です。本作は全シーンが佐賀県で撮影されています。前作「This Time」でフィリピン人スタッフが自信を深めたのでしょうね。共興収入的にはふるわなかったようで、フィリピンの映画共興収入リストには入っていません。残念ですね。
ストーリーとしては、やや苦いラブストーリーです。若いカップルのキャスとドニーは、付き合って2年になります。そこで、お祝いに3泊4日の日本旅行(佐賀県)に出かけることになります。2人は佐賀の名所を楽しく旅行するのですが、実はドニーには本命の彼女がおり、キャスもそれをわかって付き合っています。キャスとしては、この旅行を最後に、ドニーと別れようと考えるのですが、これまでの楽しい思い出がよみがえり、また旅行中は楽しく過ごそうとしているのですが、どうしても辛い気持ちになってしまいます。ちなみにタイトルの「Hanggang kailan?」は、「いつまで?」という意味です。主人公の辛い気持ちがあらわれていますね。観光旅行をしているという設定なので、外国人から見た佐賀県の観光地の印象がよくわかります。
本作も、現在のところ、日本の主要な動画配信プラットフォームからは見ることができないようです。また、日本の映画インデックスサイトFilmarksにも登録されていないことから、日本で撮影されたにも関わらず、日本で公開されたことはなさそうです。しかし、フィリピンの動画配信サイトiWantTFCで見ることができます。基本プランが1か月800円とお値打ちで、フィリピン映画をたくさん見ようという人には必須のサービスです。そんな人がいるのかはわかりませんが・・・。
3.「Kintsugi」
本作は佐賀で撮影された3本目のフィリピン映画です。2020年に公開されました。本作もほとんどのシーンが佐賀県で撮影されています。また、佐賀4部作(勝手に命名)の中で、唯一日本人がメインキャストとして出てくる作品です。フィリピンらしく、本作もほろ苦いラブストーリーです。私は、フィリピンにいる時代に、映画館で見ました。その時のことは、リンク先に書いてあるので良かったら見てください。
物語としては、日本の工房に職人としてやってきたフィリピン人男性が、社長の娘と恋仲になってしまいます。しかし、彼には隠していたことがありました。実は既婚者だったのです。彼女は怒り、お別れすることになります。また、恋愛にかまけていたせいで、仕事も中途半端になっており、日本での仕事も失うことになってしまいます。
本作は佐賀4部作の中で唯一、日本で公開されたことがある作品です。第16回大阪アジアン映画祭にて上映されました。しかし、現在のところ日本から視聴する方法はなさそうです。せっかく日本語字幕があるのに残念ですね。比較的新しい映画なので、そのうちYoutubeなどで無料公開されると思います。
4.「The Missing」
同名のタイトル映画がたくさんあり紛らわしいですが、2020年に公開された映画の方です。本作はホラー映画で、やはり佐賀県で撮影されています。自分はまだ見れていないのですが、佐賀フィルム・コミッションのサイトによれば以下のようなストーリーだそうです。
主人公アイリスは、妹を目の前で失って以来、幻覚症状に悩まされていました。そんな中、元恋人・ジョブから、日本・佐賀で行われる建築物の修復作業に誘われ、彼女は心機一転、新しい環境に身を置く決意をします。その建築物は、彼女たちの大学時代の教授、渡辺リクが所有する築100年以上の古い家で、山手の町、唐津にあります。修復作業に取り掛かって間もなく、アイリスは家の中で怪奇現象に襲われ、度々幽霊を目撃するようになります。ジョブはいつもの幻覚症状だと言って取り合わず、彼女をなだめます。アイリスが腑に落ちないまま仕事を続けていると、地元出身の同僚フミオから、日本に古くから伝わる「人柱」の儀式について聞かされます・・・。
本作も、現在のところ、日本の主要な動画配信プラットフォームからは視聴できません。しかし、海外のAmazon Prime Videoでは視聴できるので、VPNでNetflixで見るという方法があります。海外版Amaon Prime Videoなので字幕は英語のみと思われます。
5.「インビジブル」
本作は、福岡県と北海道で撮影され、2015年に公開されました。佐賀4部作と異なり、在日フィリピン人の生活という思いテーマをドキュメンタリー風に扱っています。本作は非常に評価の高い作品で、見るべきフィリピン映画としてよく名前のあがる映画です。監督は、上で紹介した「Kintsugi」でも監督を務めたLawrence Fajardo監督です。
ドキュメンタリー風の作品なので、ストーリーというものは、はっきりしないのですが、みなさんお金に困ったり、プライドが邪魔をして、うまく日本社会に適応できなかったり、不法滞在になってしまったりと、様々な問題を抱えています。日本におけるフィリピン人の生活を知るという意味で、非常に興味深い作品だと思います。
現在のところ、日本の主要な動画配信プラットフォームからは視聴できません。しかし、正規アップロードかがわかりませんが、Youtubeにて公開されていますので見ることができます。残念ながら字幕は英語のみです。
6.「キタキタ」
本作は北海道で撮影され、2017年に公開されました。全世界で3億2000万ペソ(8億円)の共興収入をあげ、フィリピンのインディーズ映画としては歴代最高記録となりました。日本で撮影されたフィリピン映画の中では最もヒットした作品です。
本作はネタバレしてしまうと面白くないので、最初の導入だけ紹介します。北海道で観光ガイドをしている主人公ですが、その時に婚約していた日本人男が裏切って、他のフィリピン人女性と付き合い始めるというショックなことがあります。そのせいで一過性に視力を失ってしまいました。その主人公の前に現れたのが、もう1人の主人公です。彼は、なにかと彼女のところにやってきては、あれこれとちょっかいを出してきます。最初のうちは彼を拒絶していた彼女ですが、だんだん彼の優しさに心を許し、北海道の様々なところに出かけて親密な関係になっていきます。
本作も、日本の主要な動画配信プラットフォームからは視聴できません。しかし、正規アップロードかがわかりませんがDailymotionという海外のプラットフォームで無料で見ることができます。海外のサイトなので、残念ながら英語字幕のみです。
7.「クロスポイント」
本作は東京で撮影され、現在(2025年6月)劇場で上映中の映画です。本作が、他の日本で撮影されたフィリピン映画と異なるのは、フィリピンでの大スター、Carlo Aquinoが出演していることです。すでに、フィリピンを含むアジアの国ではNetflixで視聴できるようです。
内容としては、フィリピンのかつてのスターが、もうすぐ妻に子供が産まれるというところで仕事を失い、日本のフィリピンパブで闇営業することになります。一方、日本側の主人公は娘が婦女暴行の被害にあった父親が、会社の倒産の危機にあります。その2人が日本の連続殺人鬼を捕まえて報酬金を手にしようという話に巻き込み、巻き込まれるというお話です。
現在、日本では劇場公開中なので、動画配信プラットフォームからは見ることができません。しかし、アジアの国では、Netflixで見られるようですので、自分の街には、本作が来なかったという人にはVPNでNetflixで見るという方法もありますね。私が見たのは日本の劇場なので日本語字幕がついていました。
番外 「Chameleon カメレオン」
現在、フィリピン映画界の巨匠、Brillante Mendoza監督の指揮下で、「Chameleon カメレオン」というタイトルの映画が製作中です。撮影は終わったようなので、近々公開されるのではないでしょうか。注目ですね。日本で撮影された映画なので、2025年の東京国際映画祭あたりで、初上映となるのではないかと思っています。今後注目していきましょう。
まとめ
日本で撮影されたフィリピン映画7本と制作中の1本をご紹介しました。しかし、いずれも現在のところ日本のメジャーなプラットフォームから視聴できるものがありません。せっかく日本で撮影されたのに残念ですね。とは言え、英語字幕のみではありますが、工夫しだいでたいていは視聴することができますので、トライしてもらえると幸いです。