ちょっと前まで、フィリピンでは上映期間を終えた映画フィルムをちゃんと保管しようという発想もなく、貴重なフィルムの多くが失われています。しかし、海外の映画祭に出品された作品は、そこでしっかりと保存されていました。本作も、失われたと思われていた作品が、福岡で発見され、フィリピンでデジタル修復されて再上映となった作品です。そのため、本作には日本語字幕が付いています。70年代のフィリピン映画で、日本語字幕付きで見られるものは、ほとんどないので貴重な作品ではないかと思います。監督をつとめたIshmael Bernalさんは、フィリピン映画で最高傑作とも呼ばれることも多い「奇跡の女/Himala」を撮った監督さんです。そういう意味でも見ておきたい作品ですね。内容としては、マニラ近くにある大きな湖、バイ湖に浮かぶタリム島の人々の生活を描いています。日々、湖が汚染されて魚が取れなくなり、人々の生活は対岸の町に依存しています。若い人は、みんな島の外に出たいと思っており、そんな閉塞感を描いた作品です。オリジナルタイトルの「Nunal sa tubig」は、そのまま「水の中のほくろ」という意味です。作中で、「足の裏にほくろがあるのは流れ者」「この村は、水の中のほくろだ」という会話があったので、おそらく、行き場のない人たちが、湖の中の島に流れ着いた様子をあらわしたものだと思います。

(Photo cited from IMDb)
「水の中のほくろ」のストーリー
ストーリーというよりも、村に散発的に事件が起こるのを淡々と描いた作品です。
バイ湖に浮かぶタリム島のサンタフェというバランガイが舞台です。若くて美人の女(チェデン)が、島の対岸にある町の助産師学校に通っています。そして、もう一人の若い女性(マリア)は、湖で取れた魚を加工する手伝いをしたり、家事をして過ごしています。また、人々を対岸に運ぶ小舟を所有している男(ハミン)は、島では裕福なほうで、マリアと付き合っていますが、チェデンにもちょっかいを出しています。
チェデンの母は、無資格の助産師です。チェデンは、助産学校で学んでいる手前、そんなことを先生に言うことができません。一方で、母親から伝統的な堕胎薬を学んだりと、最新の医療だけでは貧しい人々を救えないとも考えています。そんなある日、チェデンの父が事故(海難事故?)で亡くなります。その後、ハミンとチェデンの関係が親密になっていきます。
さらに悪いことが続き、養殖していた魚が大量に死んでいるのが発見されます。村人はどうしようもないので、その死んだ魚を引き上げ、大量に日干しにして中国人に売りに行くと言っていました。少し後の出来事ですが、政府から人がきて、禁漁区と禁漁期間を定めました。これにより、稚魚を乱獲することを防ぐのだそうです。
ある日、村に国の統計局の人がやってきました。調査をしようと、ちょうど目の前にいた女に話しかけると、それは精神病の女でした。村人は、それに気づいて統計局の人を追い払います。
(ネタバレ)ハミンは、チェデンが助産学校を卒業するのにあわせて、島を出ていく計画を立てます。彼は、南洋航路の船員になりたいという夢を持っており、その資金として、父から受け継いだ村に1つのボート用エンジンを売り払いました。結局、チェデンもしばらく町の助産所で働いていたのですが、島に戻ってきました。その頃、マリアは妊娠していました。それが、ハミンの子供だと言うことを悟ったチェデンですが、特に何を言うわけでもなく、助産師として、あかちゃんを取り上げるために尽力します。しかし、結果は死産でした。マリアはそれから茫然として過ごすようになり、いたたまれなくなったのか、チェデンも再び村を出ました。そんなころ、ハミンが船員の恰好をして意気揚々と帰ってきます。マリアを訪れると、薬草をいぶした煙を下半身に当てています。そして、茫然としたマリアの顔を見て、ハミンは起こったことを悟ったものと思われます。ハミンは、マリアの側にいることにしました。子供たちが小さな船に乗って、湖へと漕ぎ出すシーンで、エンディングです。
映画としては、ずっと、村の陰鬱な風景が描かれるというものでした。一応、ハミンがマリアとチェデンに対して二股をかけていますが、それが発覚したからと言って、女が騒いだりということはありません。貧しい村の比較的裕福な男が、若い女2人にちょっかいを出すなど、特別なことではないのかなと思います。現在のバイ湖と言えば、もはや湖面がピンクになっているほど汚染された湖ですから、50年前はまだ漁業が成り立っていたんだなと、むしろ感心しました。
「水の中のほくろ」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたIshmael Bernalさんは、リノ・ブロッカ監督と並んで、フィリピン映画の第1期黄金時代を作った人です。まだ2作しか見ていませんが、リノ・ブロッカ監督が人間ドラマを描くのに対して、Ishmael Bernal監督は、大衆を描くことを目指しているのかなと思いました。
「水の中のほくろ」の作品情報
オリジナルタイトル:Nunal sa tubig
公開年 1976年
監督 Ishmael Bernal(奇跡の女)
主なキャスト Elizabeth Oropesa(Chedeng and Apple)
Daria Ramirez
George Estregan
視聴可能メディア Youtube(日本語字幕)

