DV夫を持つ2人の女が、夫を殺して一緒に逃避行する物語です。おそらくですが、人生の末期に、しかも刑務所行きがほぼ確定している女たちが、人生の最後に欲望に忠実になろうとするドラマなんだと思います。おばあさんの生々しい欲望がグロテスクに、ファンタジックに描かれるところが本作の醍醐味でしょう。私は男なので、これがリアルなのかわかりませんでしたが、中高年の女性が見ればきっと全く異なる印象を受ける作品なんだろうと思います。

(Photo cited from IMDb)
「Chedeng and Apple」のストーリー
家で暴君と振舞っていた夫が朝になると急死していました。妻(チェドゥン)は毒を食事に混ぜている描写があったので、毒殺したものと思われます。チェドゥンは、夫の葬儀を終え、レズビアンとしての自分に正直に生きることを誓います。チェドゥンは、元恋人(リディア)の住むセブを訪れることにしました。そんなころ、チェドゥンの親友(アップル)も夫を殺害しました。しかし、彼女は夫の首を切ったため、あたりは血まみれです。混乱したアップルは、自分も一緒にセブに連れて行ってくれと懇願しますが、チェドゥンは犯罪者と一緒に行動できないと拒みます。しかし、夫によってアーティストになる夢が奪われていた、ずっとDVを受けていたと語るアップルに同情してしまい、結局夫の死体をバラバラにして、胴体を森で焼却して、2人で陸路と海路でセブを目指すことになりました。不思議な設定ですが、アップルは夫の頭をバックに入れて、ずっと肌身離さず持って移動します。
セブで聞き取りを行ったところ、リディアはチェドゥンと別れたあと、男と結婚して子供をもうけたことがわかりました。しかし、彼女の居場所を知るものはどこにもいません。そこで、チェドゥンはラジオの人探し番組にでました。ラジオのMCは、おばあさんであるチェドゥンが会いたい元恋人が、女性であることに困惑した表情を見せました。放送のあと、リディアを名乗る人が、チェドゥンを訪れます。それは、おなべのような女で、あまりに変わり果てた姿にチェドゥンは困惑し、部屋に閉じこもるようになりました。それでも気を取り直して、その女にあったところ、偽物であることがわかります。その女はリディアの元恋人で、チェドゥンの話を良く聞いていたので、リディアに成りすましたのでした。バレたあとでも、チェドゥンにキスを迫る、やばい感じのおばあさんです。というか、本作ではやばいおばあさんしか出てきませんが・・・。
しかし、その女からリディアの娘の住所を得ることができました。その頃、アップルは指名手配になっていました。チェドゥンは、もう付き合いきれないとアップルを置いていきます。その際に、「60代にもなって後先を考えずに行動するからだ」「60代にもなって、レズの元恋人を訪れるなんて馬鹿げている」と言い合って喧嘩になりました。しかし、結局、チェドゥンは戻ってきて、2人でリディアの住む町を目指します。
(ネタバレ)夜遅く目的の町に着いたところ、宿がいっぱいで泊る場所がありません。親切な若い男が相部屋を申し込んでくれました。そして、その夜、アップルの方から積極的に迫り、男とセックスしました。もう、この頃には、2人とも刑務所に行く前に欲望に忠実になろうという雰囲気が漂ってきました。そして、リディアの娘の家を訪れると、そこは(おそらく違法の)武器工場でした。しかも、リディアの娘は、複数の夫と一緒に工場を経営しています。彼女は事も無げに「いっぱいいた方が便利だから」と語ります。
2人は、リディアの娘から教えてもらった住所に、ジプニーで向かいますが、ついに警察に包囲されてしまいます。アップルは、チェドゥンを人質に取るかのように振舞い、1人で逮捕されることを選びました。しかし、チェドゥンは翌日アップルの入っている留置所を訪れます。そこで、チェドゥンは夫を殺そうと毒を購入していたこと、そして毒を入れた食事を出そうとした朝に、夫は死んでいたことを告白します。つまりは、2人は同じように夫を殺したと言いたかったのでしょう。しかし、「結局、あなたは夫に毒を飲ませてないんでしょ?」と言うアップルに、「その毒は、警察に飲ませた」と驚きの告白。まわりを見ると、警察官たちが倒れています。チェドゥンはアップルを連れて、再び逃避行を始めます。
そして、ついに海岸で働くリディアのもとにたどり着きました。彼女は、あまりに老けて、生気がありません。チェドゥンは、そんな彼女に声をかける勇気がありません。それでもアップルに促されて、声をかけたところ、お互いにお互いを認識しているも、もう話すことは何もないことがわかりました。チェドゥンとアップルは、町でウエディングドレスを購入しました。「死ぬときはウエディングドレスを着て死にたいね」と途中で言っていたことが思い出されます。2人は、ウエディングドレスを着て、外に飛び出すと、リディアの娘と夫たちが、彼女らに向けて「アポリネール(フランスの詩人の名前)」と絶叫します。その隣には、警察官たちがいましたが、ちょうど集団結婚式の新婦たちの波にのまれ、そのまま2人は集団と共に逃亡します。そして、2人で幸せそうにジャンプして、エンディングです。
最後のアポリネールが何だったのかわかりませんでしたが、ホテルで同室になった若い男が、詩人になりたいと言っていたことと関係あるのでしょうか? しかし、フィクションとは言え、フィリピンでは殺しに対する心理的ハードルが滅茶苦茶低いですね・・・。夫殺しがメインのテーマではないのはわかりますが、容易に夫を殺し、友達を助けるために、警察官まで殺す一般のおばあさんというのが、日本人には違和感があり過ぎて、物語に入っていけません。かなり人を選ぶ作品だと思います。
「Chedeng and Apple」の監督、出演者情報
本作で監督をつとめたRae Redさんは、監督というよりは脚本家として多くの作品に関わっている人です。苗字のRedが示すように、ミカイル・レッド監督の親族で、従姉妹に当たる人だそうです。ミカイル監督の作品のいくつかにも脚本家として関わっています。チェドゥンを演じたGloria Diazさんは、多くの作品でおかあさん役を演じている名女優です。最近、フィリピン人の英語の先生から聞いて驚いたのですが、1969年のミスユニバース世界大会優勝者です。そう言われてみれば、年の割にはお綺麗ですね。

「Chedeng and Apple」の作品情報
オリジナルタイトル:Si Chedeng at si Apple
公開年 2017年
監督 Rae Red、Fatrick Tabada
主なキャスト Gloria Diaz(Untold)
Elizabeth Oropesa
視聴可能メディア Bili Bili(英語字幕のみ)

