フィリピン映画史上最高傑作と名高い作品「奇跡の女/Himala」

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フィリピン映画史上最高傑作と呼ばれているのは、実は、ブリランテ・メンドーサ監督やラヴ・ディアス監督の国際的に大きな賞を受賞した作品ではなく、本作であることが多いです。1982年公開の作品で、田舎の娘が聖母を見たことを機に、癒しの力を手に入れ、その力に群がる大衆に振り回されながら、大変な悲劇へと至る物語です。本作は、ベルリン国際映画祭のコンペ部門で上映された初めてのフィリピン映画でもあり、2008年に行われたCNNアジア太平洋映画賞で、世界中の何千人もの映画ファンの投票によって、アジア太平洋地域における視聴者が選ぶ史上最優秀映画賞を受賞した作品でもあります。また、フィリピンでは2012年から過去のフィルムを修復するプロジェクトを行っているのですが、その最初の修復作品に選ばれたのも本作です。さらに、フィリピンを代表する女優のノラ・オノールが主演している点でも重要な作品です。つまり、フィリピン映画の記念碑的な映画なので、ぜひ一度見てもらえればと思います。オリジナルタイトルの「Himala」は、タガログ語で「奇跡」の意味ですが、作中でもフィリピン人は「Miracle」を使っていましたね。古いタガログ語でしょうか。

(Photo cited from IMDb)

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「奇跡の女/Himala」のストーリー

若い女(エルサ)が荒野を歩くシーンから始まります。日蝕が起きているようで、人々は恐れていますが、エルサは丘に登り、恍惚の表情で祈りをささげたところ、聖女の声を聴いたような気がしました。家に帰宅すると、エルサの養母が不安げな顔をしています。どうやら、この地は雨に恵まれず、呪われた土地だと呼ばれているようです。確かに、荒野が広がっていますが、フィリピンにも雨に恵まれない土地があるんですね。その割には、家は高床式ですが・・・。

聖母を見たという話を養母にしたところ、雇い主の知るところになり、むしろ悪魔付きだとみなされ、悪魔祓いのために葉のついた枝で打ち据えられます。すると、手に聖痕があらわれました。

その後、エルサは自分に奇跡の治療能力があることを知り、治療院を始めました。すぐに人が訪れるようになりました。患者の中に額から大きなこぶをぶら下げた少女がいましたが、その子を癒したシーンはありませんでしたが、まだそんな大きな脂肪腫をぶらさげた人がいるのかと、個人的にはちょっと驚きました。

彼女の奇跡を聞きつけ、ドキュメンタリー映画を撮るために映画監督が来ました。これ以降のシーンは、多くが監督の目線で描かれます。監督のインタビューに、エルサは「最初は大統領夫人になりたかった。次に弁護士になりたいと思った。しかし、お金がないので、教師を目指した」と応えます。ほとんど恍惚の表情をしているのに、意外と世俗的な欲望を持っていたのですね。

その後、エルサの奇跡にあずかろうとする人たちが急増します。当初は、寄付だけに頼っていたのですが、それでは食料が買えないので、エルサの取り巻きが、エルサが清めた水を売ることにしました。その後、お土産物屋さんや、飲食店が立ち並ぶようになり、荒れた町は一気に発展します。町長は、エルサが清めた水に税金をかけることができるか、部下に調査を命じます。さらに、ナイトクラブまで出現して治安が悪化し、殺人事件まで起きてしまいます。

また、人が集まると、救えない命も目立ってきます。さらに、患者のひとりに明らかにコレラ罹患の者がいました。エルサの取り巻きの中でも、「医師を呼ぶべき」と言う者と、エルサが治療するものと考える者があり、エルサは困惑します。結局、エルサは医師を呼ぶことにしました。エルサは、お布施も取りたくないと言いますが、周囲の者たちは、それでは困ると主張します。徐々に、エルサの奇跡は、彼女の手を離れ、まわりの人々の欲望に振り回されるようになってきました。この頃には、当初、エルサの奇跡に懐疑的だった映画監督は、エルサに同情の眼差しを向けるようになってきました。

エルサの気持ちを決定的に砕いたのは、エルサが治療した子供が死んだと言って、彼女の家の前で騒いだ母親の事件のせいでした。いったん治療院は閉院となりました。エルサの取り巻きは、稼いだ金でリゾート地に投資したので、今止めてもらっては困ると主張します。エルサは、自分が本当に聖女を見たのか自信がなくなってきました。

治療院が閉鎖されると町はあっという間に廃れてしまい、エルサのことをバカにするものさえ現れます。エルサは、自分がどこで間違えたのかと自問します。

ある日、エルサが嘔吐しているところを、町の者が目撃します。エルサに男がいないことは、彼女の行動を見れば明らかなので、「エルサが処女受胎した」という噂が町の中を駆け抜けます。ちょうどそんな時、町に恵みの雨が降り注ぎます。町の人たちは「奇跡が戻ってきた」と喜び、再び大勢の人々が町に押しかけます。

(ネタバレ)エルサは、集まった人々を丘に集め、彼らに語り掛けます。エルサは語ります。「私は多くの人が癒され、また多くの人の死、疫病、犯罪を見てきました。人は悪いことが起これば、呪いだと言い、良いことが起これば、信仰を深め、それが奇跡だと言います。奇跡はありません。奇跡は、自分たちの中にだけあり、自分たちが作り出したものです。聖女は現れませんでしたし、処女受胎もありません」。すると、怒った群衆の1人が、エルサに向けて発砲します。エルサは胸に弾を受け、その場に倒れます。群衆はパニックとなり、障害者を踏みつけながら散り散りに逃げだします。また、一部には暴動も起こります。そんな中、エルサが監督たちに見守られながら最後の息を引き取ります。すると、群衆は、エルサに元に戻り、彼女の亡骸をもちあげ、行進がはじまりました。彼女の亡骸は車に乗せられ去ったのち、何者かが群衆を扇動します。「彼女のために祈りましょう」。群衆は、一斉にひざまずき、祈りを捧げます。そしてエンディングです。

最後のシーンは、こうやってキリスト教も生まれたんだろうなと感じさせるシーンでしたね。キリスト教国では、まあまあ際どい描き方ではないでしょうか? 結局、エルサに奇跡が起こったのか、は明らかにされませんが、もはやエルサのコントロールを離れて暴走する群衆に向けて、「奇跡はない」と訴えかけるしかないところまで、エルサは追い込まれていました。そして、その後の銃弾により、むしろ奇跡の象徴となってしまうという皮肉です。何というシナリオでしょうか。本作が、名作中の名作と呼ばれるのは、納得ですね。

「奇跡の女/Himala」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたIshmael Bernalさんは、リノ・ブロッカ監督と並んで、フィリピン映画の第1期黄金時代を作った人です。時代的に多くの作品に英語や日本語字幕がついていませんが、代表作には英語字幕が付いているので、今後見て行こうと思います。主演のノラ・オノールは、フィリピンでは伝説的な女優です。日本で言えば、原節子さんみたいな人です。

「奇跡の女/Himala」の作品情報

オリジナルタイトル:Himala

公開年 1982年

監督 Ishmael Bernal

主なキャスト Nora Aunor(汝が子宮)(罠~被災地に生きる

Spanky Manikan

視聴可能メディア Internet Archive(英語字幕)

「奇跡の女/Himala」のトレイラー

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