母親が、自分の2人の息子の1人しか助けられないとしたら、どちらを選ぶか? 母親か恋人のどちらかしか助けられないとしたら、息子はどちらを選ぶか? という究極の選択が物語の柱にありますが、そこにレイプ犯を殺す悪霊の物語があり、女を奪われたと思って殺しまでする不良グループの話があり、母親は長いあいだ妄想の中に生きていたりと、話を混乱させる要素が多すぎて何がなんだかわからなくなっている作品です。本作の監督であるTopel Leeさんの作品を見るのは3本目ですが、いつもこんな感じで、あまりに多くの要素を詰め込み過ぎてゴチャゴチャになるのが作風のようです。日本で言えば、唐十郎みたいな人なのでしょう。作品に光る部分もあるので、この人の作品はこんなもんだと覚悟して、楽しむ作品でしょう。私は、見るのは凄く疲れますが、フィリピンらしくて好きな作風です。

(Photo cited from IMDb)
「Amorosa: The Revenge」のストーリー
若い母親(ローザ)と2人の息子が仲良くしているシーンです。2人の息子のうち1人(アミエル)は、後からわかることですが、彼は目が見えなくなる病気らしく、最後に母の顔を目に焼き付けようとしていました。そして、アミエルは目隠しをして、もう1人の息子(ロメル)と家の中の動く練習をし、ピアノの演奏します。その時、ロメルはたまたま出会った少女(アマンダ)に鳩をプレゼントします。
そして、一気に10年ほど時が進みます。その時には、アミエルはすでに視力を失っており、白い杖を持っています。詳しくは語られませんが、ローザは夫とは別れたようです。ギャンブルがどうのこうのと言っていました。しかし、さっそく交通事故にあってしまいます。車から放り出された母親が意識を取り戻すと、車は崖から転落しそうなところを、周囲の人たちが必死で食い止めている状況でした。後部座席には、息子たちが乗っています。人々は、「1人なら助けられる、どちらか選んでくれ」と叫びます。
しかし、次のシーンでは、2人の息子はいずれも健在でした。ローザは、マニラの家を売るしかなくなったため、かつて住んでいた叔母の家に戻ることを決断しました。しかし、ロメルは、以前の家に戻ることには反対です。ロメルは全体的に母親に対して冷淡で、また母は息子に対して、過干渉になっているように見えました。アミエルは、「なぜロメルの態度が変わったの?」と母親に聞きます。
結局、叔母の家に戻った3人ですが、街では連続殺人事件が問題となっています。街の噂によると、殺されたのは、いずれもレイプ犯で、レイプされた女の悪霊が男たちを殺してまわっていると言われています。警察官も、この件を語り、街から離れたほうがいいと伝えに来るほどです。
この時点で事故のシーンがロメロによって回想されます。「助ける方を選べ」と言われた母親が選んだのは、「メガネの男の子」、つまりアミエルだったのです。そのために、ロメルは母に選ばれなかったと不貞腐れていたのです。そんな彼ですが、過去に鳩をあげたアマンダに再会し、2人はあっという間に親密な仲になりました。その時に、アマンダが27歳だと言っていたので、息子たちも同じくらいの年齢でしょう。しかし、本作では3人の親子が仕事をしているシーンはなく、どうやって生計を立てているのかわかりません。
ここから話がさらに混迷を深めるのですが、母親はレイプのシーンを夢に見て、奇妙な経験、悪霊の姿を目撃するようになったため、家の歴史を知る男を尋ねることになりました。そこで、男は「あなたは守護霊に守られている。その男を解放してあげなさい」と言われます。また、その家で起こった過去のレイプ事件を語り、息子と関りがあるようなことを仄めかすので、母親は怖くなって、やっぱりマニラに戻ろうと息子たちに言います。
そんな母親にロメルは苛立ちます。そして、母親が話しかけているアミエルは、事故でなくなっており、生き残ったのは自分だけだと、母にぶちまけます。どうやら、事故後もずっとアミエルが生きているかのように振舞う母親を見て、ロメルは自分が見捨てられたという思いを強くしていたようです。母はようやく正気を取り戻し、アミエルが死んだことを受け入れました。この設定はいいのですが、事故から30分は経っています。引っ張り過ぎでしょう。その間の話のどこが本当に起こったことか非常に曖昧になってしまいました。私は、すっかり混乱していました。
また、唐突ですが、ロメルとアマンダが恋人になったことを良く思わない男が登場します。彼は、自分の手下を使って、2人を拉致しました。さらに、母親のもとに、司祭が訪れ、彼は「息子が危ない」と伝えに来たと思えば、拉致のシーンを声色で再現し、しかも消えてしまいました。
ロメルは、アマンダを助けようとした際、ナイフで刺され、アマンダも森から逃げ出せたのかわからない状況です。しかし、ロメルは負傷しながらも家に帰ってきました。「何があったの?」と問うローザに対して、ロメルは、事故のときに自分の名前を呼ばれなかったことを、ここで蒸し返します。母は、アミエルが失明したことに責任を感じていたのだ、ロメルを見捨てたわけではないと詫びます。結局、事件のことがわからない状況で、警察がローサの元を訪れます。警察は、ロメルを犯人だと疑っていました。しかし、レイプ犯は悪霊によって殺されており、ロメルもいずれ死ぬだろうと語ります。また、警察は勝手に家の中に入って、捜索しましたが、ロメルの姿を見つけることができませんでした。日本の映画やドラマでは、警察の捜査により、犯人がじわりじわりと追い詰められていきますが、フィリピン映画では、警察の捜査によって追い詰められるのは、たいてい犯人ではない人間です。
また、このあいだに、ロメルたちを襲った不良グループの2人が、悪霊によって殺されました。ローサは、警察が帰ったあと改めて、家の中を探すと、ロメルの姿を発見しました。ロメルによれば、アミエルの霊が守ってくれたとのことです。
さらに情報過多になってきますが、なぜかロメルを犯人だと追っている警察官は、過去に恋人をレイプで失った過去がありました。彼は、悪霊が殺しているのだと言いながら、自分が私的に殺してまわっているような素振りもあり、状況はますます混迷を深めます。
(ネタバレ)ともかく、ローサとロメルは、アマンダを探しに森に入ることとなりました。すでに、夜になっています。なんだかんだありましたが、ロメルはアマンダを発見しました。彼女は生きていました。彼に起こされ、意識を取り戻しました。1日も意識を失っていたのでしょうか? しかし、動けない状態のようで、「私を置いて逃げて」と言います。いやいや、普通そんなこと言わないでしょう、と思いました。 そんな彼女を引きずって森から脱出しようとしているところに、ちょうど警察官たちがやってきました。ロメルとアマンダは救出され、救急車で病院に運ばれます。
ロメルと別れてアマンダを探していたローザは、不良グループのボスと出くわしてしまいます。ボスは、ロメルを探しており、執拗にローザを追います。家に逃げ帰るローザですが、ボスは、彼女を追い続け、拳銃をうち、ローザを殺そうとさえします。ここも意味がわからないのですが、なぜ彼はローザを殺さなければならないのですかね? 自分たちがロメルを刺し殺そうとしたことが、彼の口からバレないようにだとしても、すでに逃げられて1日経っていますから、もうバレているか、ロメルが死んでいるかと考えるのが自然な気がします。そこに、ロメルから電話がかかってきました。彼は、アマンダが無事だったことを伝えるのですが、今度は母親が危機にあることを知ります。そして、救急隊員に「家に戻ってください」と叫ぶのですが、「いや、彼女も危ない。母親を助けるか、恋人を助けるかどちらかだ」と、救急隊員は絶叫します。救急隊員が、この場で、2者択一を迫るというのが無理がありますね。当然ですが、救急車は病院に向かいました。
そして、ローザが絶体絶命というときに、かつて彼女をレイプ魔に殺された警察官が突入してきました。危ういところで、警察官はボスを射殺し、救われたかのように見えましたが、なぜかボスは復活。逆に、警察官は刺し殺されてしまいました。今度こそ、ローザの絶体絶命というところで、彼女を救ったのは、家に巣くう悪霊でした。ボスは悪霊により絶命させられます。
そして、最後は生き残った親子と恋人が平和な日常生活を取り戻したシーンが映し出され、エンディングです。
読んでもらった人には伝わったと思いますが、とにかく整理されていないシナリオです。母親が妄想の中を生きているシーンが30分もあり、どこまでが現実なのかわからなくなっている上に、息子の危機を知らせに来る謎の司祭の幻影や、登場人物たちの不合理な行動原理がかさなって、何が何やらわからなくなっています。事故で亡くなったアミエルが守護霊というのは何だったのでしょうか? そして、警察官が失った恋人が悪霊になったような感じでしたが、その割には、彼は守ってもらえず、可哀そうでした。
「Amorosa: The Revenge」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたTopel Leeさんは、多くの要素を詰め込み過ぎて整理されずに混乱した作品を作る監督さんです。この混沌とした作風は癖になりますね。非常にフィリピン的な気がします。主演のAngel Aquinoさんは、苗字がAquinoですが、政治家のアキノファミリーとは関係なく、Carlo Aquinoさんとは関係ないようです。
「Amorosa: The Revenge」の作品情報
オリジナルタイトル:Amorosa: The Revenge
公開年 2012年
監督 Topel Lee(Ouija)(Bloody Crayons)
主なキャスト Angel Aquino(A Very Good Girl)
Enrique Gil(Alone/Together)(I Am Not Big Bird)(My Ex & Whys)
Martin Del Rosario
視聴可能メディア Youtube(英語字幕のみ)

