フィリピン映画愛好家の中でも、よく名作としてあげられるのが本作です。タイトルは「普通の家族」ですが、いくら主人公たちがストリートチルドレンだとしても、さすがにこれはフィリピンでも普通ではありません。ストリートで子供を産んで育てる若いカップルの話です。とは言え、そんな心温まる話でも、悲惨な話でもなく、それなりに暖かく助けてくれる人もいれば、ストリートの人たちをさらにだまそうという人たちもいたり、相変わらずしょうもない警察官がいたり、と彼らの視線でフィリピンの社会を映し出します。
ストーリー
ストーリー重視の作品ではないですが、やはりラストが気になる話なので、一応、途中までのストーリーにとどめておきます。ストリートで生活する若いカップルは、産まれて1か月のあかちゃんを抱えています。主人公の女性は、このあかちゃんに本当に執着しており、生活が苦しいとか、そんなことは問題となっていません。夫は窃盗で金を持ってくるのですが、あかちゃんのためにもっとお金を盗むように言うくらいです。あかちゃんを抱えて路上にいると、見知らぬ人がそっとお金を置いていくことも多く、むしろ安定した生活ができるようにさえ見えました。ところが、トランスジェンダーのおばさん(元おじさん)が、なぜかストリートで暮らす主人公に、ローンを組むようにとしきりに勧誘してきます。もちろんローンなど組まないのですが、誘われて一緒にオムツを買いに行った際、そのトランスジェンダーにあかちゃんを盗まれてしまいます。そして、若いカップルの2人は、いろんなところを駆けずり回ってあかちゃんを探すという話です。
ストリートで暮らす主人公なので、警察の扱いはひどいものです。一方で、2人のことをテレビ番組にしてくれて捜索を助けてくれる人もいます。関係ないトランスジェンダーがストリートピープルから袋叩きにあったり、犯人の母を名乗るものが、赤ちゃんを取り返してあげるから、1万ペソを払えと要求してきたりします。この話は当然詐欺だと思いますが、お金を払ったところで終わり、その後の話は映画の中では描かれませんでした。全体的にみると、良い人と悪い人がいるな、という映画です。
印象の残ったのは、誰かのお通夜のシーン。男の方の主人公が「お通夜のあいだは、ギャンブルは合法だから」と言ってギャンブルで稼ごうとするシーンがありました。たしかに、フィリピンでは私的ギャンブルは違法ですが、葬式の費用を稼ぐために喪主は賭場を開催することが認められていると聞いたことがあります。
フィリピンの通夜とギャンブルについて
フィリピンでは、お通夜の日数が長く、遺族や周囲が夜通し故人を見守る風習があります。この間に「sakla」(スペイン起源のカード賭博)や麻雀、ビンゴなどの賭け事が行われることが多く、その収益の一部が葬儀費用に充てられるという習慣があります。
お通夜の間にギャンブルをすることが法的に認められているかについて、改めて調べてみました。しかし、ただ伝統的にそうしてきたというだけで、お通夜のあいだのギャンブルを認める法律はないようです。また、マニラ首都警察などは、通夜中の賭博禁止を度々指示していますが、実際の取り締まりは緩く、特に地方では「文化・伝統」として黙認されているだけのようです。
作品情報
オリジナルタイトル:Pamilya ordinaryo
公開年 2016年
監督 Eduardo W. Roy Jr.
主なキャスト Ronwaldo Martin
Hasmine Killip
Moira Lang
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)