当然、私も本作を見るまで知りませんでしたが、マニラのトンド地区を根城のした伝説のギャングの親分、Asiong Salongaを描いたのが本作です。彼は、任侠派のギャングだったようで、貧しい人たちに金を配ったりもしていたようです。そのため、庶民の人気があり、「Asiong Salonga (1961)」「Asiong Salonga: Hari ng Tondo 1950 (1990)」など、何度も映画化されているそうです。本作は、その中でもおそらく最新作だと思われます。意外にも、フィリピン映画にはギャングものは少なく、その点でも本作は興味深い作品です。本作の時代は、1940年代後半ということもあり、当時の雰囲気を出すための演出なのでしょう。本作は全編白黒作品になっています。

(Photo cited from Angel Doing Critiques and Criticism)
「Manila Kingpin: The Asiong Salonga Story」のストーリー
主人公(アション)が、トンド地区に進出してきた他のギャングから拷問を受けているシーンから始まります。しかし、殺さなかったため、すぐに、アションは仲間を率いてカチコミをかけ、ライバルのボスをビビらせて引き上げます。その後、警察隊の突入がありましたが、警察官のアションの弟が逃がしてくれました。本作の構造を簡単に説明すると、アションのギャングチームと、トンドに進出しようとしている他のギャングチーム、そして警察の3つの勢力の抗争です。
その後は、彼の日常が描かれます。愛人との仲睦まじいシーン、遊興場にいって「protection money(ショバ代)」の要求、他のギャングチームにもショバ代を払っているようならば、そいつらをぶん殴り、金は部下や貧しい庶民に惜しみなく分配していきます。
アションの人気に目を付けた政治家が、アションに接触してきました。彼は、貧民たちの保護を条件に、支援者として自分の名前を使ってよいと約束しました。アションに対立するギャングたちにも、アションの肩を持つものもあらわれ、反アションの動きはなんとなく立ち消えになりました。
そんな中、どこかのギャングが海岸で密輸している現場に、警察隊が突入し、その組が壊滅的な打撃をこうむります。その後、八つ当たりなのか何なのかわかりませんでしたが、ギャングチームがアションのチームを襲撃。アションは、機関銃で相手を殺しまくったのち、ジョン・ウー映画に影響を受けた二丁拳銃で華麗に相手を倒しました。
また、別の政治家が支援を求めてきました。彼らは、アションにもっと大きな支援を約束しましが、「俺は裏切らない」と言って、彼らを追い返します。
アションに敵対するギャングチームは、いくつかあり、どれがどれやらよくわからないのですが、また別のチームが襲ってきました。しかし、すぐに警官隊も突入してきたため、アションたちは散り散りに逃げます。アションたちは、警察官には決して発砲しません。そのため、アションは警官に逮捕されてしまいました。彼は、殺人などの罪で、終身刑を宣告され、刑務所に入れられることとなりました。刑務所は、彼にとってはむしろ危険な場所で、服役していたギャングのボスに、毒殺されそうになったり、危険にさらされます。また、アションのチームは、彼の不在のあいだに襲撃され、ほとんど壊滅してしまいました。
しかし、アションのチームがいなくなり、トンド地区の治安は悪化しました。新しく進出したギャングは、警察官にも平気で発砲します。警官にはアションに同情的な勢力もおり、アションは一時出所して、母親の墓参りを果たすことができました。しかし、刑務所に戻ったあとは、刑務官の娯楽のために、他のギャングとナイフバトルをさせられます。辛くも相手のギャングを殺し、無事に生き延びることができました。
そんなアションに目を付けた政治家がいました。アションが最初に支援を約束した政治家とどういうつながりがあるのか、敵対する政治家なのかわかりませんが、アションを殺し屋として利用し、ライバルの政治家のパーティを襲わせました。エリック・マッティ監督の「牢獄処刑人」のアイデアは、この話に由来するのかもしれませんね。政治家は、結果に大いに満足し、アションはトンド地区の警察官に推薦されることとなりました。
この後の展開がイマイチわからないのですが、アションは家族に再会を果たします。その後、エルニングと呼ばれる若い男がギャングに襲われ、無残に殺さてしまいます。そして、その葬儀の行列を、ギャングたちが再び襲います。襲撃を予想していたアションの部下たちは、棺桶から武器を取り出して応戦。双方で凄惨な殺し合いとなりました。その殺し合いの中にアションの姿はありません。エルニングはいったい誰だったのか?最後の最後に肝心なことがわからず、終わってしまいました。
最後の最後がわからず、非常に残念でした。フィリピン映画では、その人がどういう人なのかわかるような演出が欠けていることが多く、消化不良で終わることも良くあることです。エルニングと呼ばれた男が、アションならば筋は通るのですが、どう見ても同じ人物に見えず、夜に襲撃されること、白黒映画であること、すぐに頭から袋を被せられることから確認が困難でした。どうして、こういう演出になってしまうのか・・・。フィリピン映画の悪い癖だなと思います。
「Manila Kingpin: The Asiong Salonga Story」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたTikoy Aguiluzさんは、公開当時63歳。すでに亡くなっています。長いキャリアの割には作品数は多くなく、12本しかありません。また、時代的に英語字幕がついている作品がほとんどないので、彼の作品を見ることは少なそうです。主人公のアションを演じたJorge Estreganさんは、1980年から90年代に活躍したアクション俳優のようです。本作撮影時に、おそらく50代。アションは27歳で死んだそうなので、さすがに無理のあるキャスティングでした。
「Manila Kingpin: The Asiong Salonga Story」の作品情報
オリジナルタイトル:Manila Kingpin: The Asiong Salonga Story
公開年 2011年
監督 Tikoy Aguiluz
主なキャスト Jorge Estregan
Roi Vinzon
視聴可能メディア Youtube(英語字幕)

