
本作は、映画の最初に説明がはいるように、現実の事件をもとに制作された映画です。物語としては、クラスで暴君をして振舞っている金持ちの息子を、虐げられている4人の生徒で誘拐し、身代金を要求しようとするたくらみです。こうした映画だと、犯人たちと警察の知恵比べというスリルがあるのですが、本作では犯人たちがバカすぎて、どこで破綻してしまうのかと別の意味でスリルがありましたよ。フィリピンの場合、失敗がすなわち死を意味する場合が多いですからね。
「デッド・キッズ」のストーリー
主人公らは、金持ちが通う私立高校の学生です。その中でも特別金持ちの息子(サントス)が暴君として振舞っています。とは言え、4人の中でそんなにひどい目に遭っているのは1人だけで、彼(サンタマリア)の視点でドラマが進行します。不思議に思ったのは、主人公は、なぜかサンタマリアという苗字で呼ばれています。なぜ彼だけ苗字?しかもサンタマリア?
サンタマリアは、他の3人に誘われるかたちで誘拐事件に関与します。誘拐計画というのは、サントスは毎週木曜日に、違法の風俗店にひとりで通っています。その風俗店で誘拐することにしました。誘拐自体はうまくいきましたが、驚いたことに、お金を受け取る方法さえ考えられてないことが判明。また、誘拐したサントスを閉じ込めていた場所も、サンタマリアが借りている倉庫みたいなところでしたが、家賃をちゃんと払っておらず、大家に乗り込まれる始末です。また、致命的なのは、風俗店に入るところを、他の同級生に写真を撮られていました。それを見た、3人組の1人の彼女が激怒。理由を説明しないと怒りがおさまらないので、なんと、この誘拐計画のことを彼女に喋ってしまいます!!あまりの馬鹿さに、怒りに震えましたよ。
(そろそろネタバレ注意)結局、ディスコで金を受け渡すことにして、多くのヘマがありましたが、奇跡的に金を受け取ることができました。しかし、その際に1人がサントスの父親を射殺してしまいます。もはやこの事件の行く末がどうなるのか、本人たちにもわかりません。適当なところで、サントスを開放。その後、普通に学生生活を過ごしていましたが、ある日警察官が乗り込んできました。その後、フィリピンらしいショッキングなことと、あきれることが起こり、エンディングを迎えます。
劇中のシーンで、フィリピンらしいなと思ったのは、彼らが事件の計画を立てているところでの会話です。1人が「でも、失敗したら警察に殺されるかもしれない」と言ったら、「大丈夫だ。やつらが殺すのは貧乏人だ。俺たちが貧乏人に見えるか?」といったやりとり。また、身代金の要求に電話をかけたときに、被害者側も「もし、息子に何かあれば、お前たちの脳天をかちわってやるぞ」と、逆に脅してくるところです。ちなみに、身代金は3000万ペソ(約7500万円)でした。この金持ちは、違法ドラッグの販売にも関わっているらしく、そのくらいのお金がすぐに出せると、学生たちにも知られているところもフィリピンらしいですね。
フィリピンはお金があれば何でもできる社会ですから、金持ち息子が学校で暴君として振舞っているのは想像がつきますね。逆に、貧乏人が通う公立の学校に行っていれば、彼らのストレスがなかったのかもしれません。
私はフィリピンでテニスをしていたのですが、たまにフィリピン人の若い人とやることもありました。当然、フィリピンでテニスをするのは金持ち階層の人たちです。そこで気づいたのですが、彼らはボールを拾いに行くこともありません。年上の日本人が拾いにいくのに、自分の近くに転がっても拾いにいかないのです。フィリピンでは、普段テニスをするときに、ボールボーイを雇うのが普通ですから、フィリピン人はボールを拾いに行くという発想すらありません。しかし、日本人がテニスをやるときには、ボールボーイを雇っていないにも関わらずです。ああ、この社会は闇が深いなと思ってしまいました。
「デッド・キッズ」の監督、出演者情報
監督さんは、「アリサカ」「Block Z」でも監督を務めたMikhail Redさんです。アクションもスリラーも撮れる人ですが、本作ではその力を発揮していたとは言えなかったですね。元ネタの事件があったので、大きくストーリーを変えられなかったのだとは思いましたが、このたくらみが成功するか、失敗するか、というスリルがありません。絶対失敗する要素しかないので、彼らがフィリピン警察や金持の私兵に殺されるんじゃないかというスリルはありますが・・・。
主人公のサンタマリアを演じたのは、「Missed Connections:あなたを探して」でもオタクっぽい少年を演じていたKelvin Mirandaでした。あと、誘拐事件には関わらないのですが、学園パートで頻繁に主人公に絡んでくる女子学生をSue Ramirezが演じていました。彼女の可愛さだけが、本作のやすらぎでした。
「デッド・キッズ」の作品情報
オリジナルタイトル:Dead Kids
公開年 2019年
監督 Mikhail Red(アリサカ)(ミッドナイト・アサシンズ)(Block Z)(カトリックスクールの怪異)(Nokuturo)
主なキャスト Kelvin Miranda(Missed Connections:あなたを探して)
Sue Ramirez(Love Lockdown)(母の面影が語ること)
視聴可能メディア Netflix(日本語字幕)