
本作のタイトル「Balota」は、投票用紙という意味です。つまり本作は選挙を描くということですね。フィリピンで選挙を描くということは、収賄と殺人を描くということですから、覚悟して震えながら見ることになります。非常にフィリピンらしい、フィリピンの社会が描かれている映画だと思うのですが、残念なのは、英語字幕でしか見れないということです。しかし、フィリピン社会に興味がある方は、頑張って見て欲しいですね。英語字幕で見れる方は、必見の映画です。
「Balota」のストーリー
主人公は学校の先生エイミー、非常に人望のある教育者で、しかも美人です。ああ、この人がひどい目に遭うんだなと思い、暗い気持ちになりました。ちょうど、選挙の時期で、フィリピンらしく、大っぴらにお金を配って収賄しています。政治家がマスコミに向かって「選挙でお金を配るのはニーズがあるからだ。あれは必要悪だ」と言える国ですから、収賄くらいならば誰も気にもとめません。選挙活動中に、女性が集会を開いていました。彼女の夫を入れて12人が殺された事件がありましたが、市長が彼女の家を訪れ、「金を払うからなかったことにしろ」と言ったそうです。彼女が金の受け取りを拒否すると、「じゃあ、この金を判事に渡すからな」と言われたとのことです。結局、11人の被害者の遺族が金を受け取り、殺人犯は不起訴になりました。だから、現市長を選挙で落選させようと、彼女は息巻いています。
エイミーは、学校の先生だったので選挙管理委員に選ばれます。投票所の前で、何かを渡しながら投票先を指示する人がいるなど、多少の不正はありましたが、無事に投票を終え、投票箱を政府に持っていく役割に、エイミーがあたります。途中ですり替えが起こらないように、厳重にカギをかけて、持っていく人の腕と投票箱が手錠で繋がれます。車で移動するエイミーですが、運転手が不穏なことを言い始めます。「その投票箱を2万ペソで売らないか?」と。嫌な予感しかしない展開に、エイミーは同乗者を逃がそうとするのですが、運転手がいきなり発砲。同乗者は射殺されます。エイミーに向かっても発砲したのですが、たまたま頑丈な投票箱を持っていたので、弾が跳ね返って、逆に運転手が死んでしまいます。そこから、彼女の逃避行がはじまります。しかし、大きな投票箱が手と繋がっており、自由に動くのも困難です。
追手は、彼女の家族に目を向けます。まず、警察が彼女の家を訪問。彼女の息子を逮捕します。また、彼女の母のところには殺し屋が向かい、母と甥っ子は殺されてしまいます。彼女の息子を使って、エイミーに揺さぶりをかける、警察と殺し屋たちですが、結局、エイミーの教え子だった警官のひとりが裏切ったため、息子は無事に救出されました。ホントに腹が立ちますが、警察官は麻薬の入った袋を取り出して、これを現場に置いとけば殺してもいいと、気軽に殺そうとします。
(そろそろネタバレ注意)どうやら、他の投票用箱もすべて奪われたらしく、市長は選挙無効を宣言。勝手に祝勝パレードを始めます。エイミーは、息子と裏切った警察官と相談して、市長の対立候補(エイドリアン)の家に駆けこむことにしました。親切にエイミーをもてなすエイドリアンですが、なんと投票箱を7万5000ペソで売って欲しいともちかけます。エイドリアンは、箱の中身を確認して、自分が勝てるように票を操作して政府に届けるというのです。エイミーは、どうやらこの襲撃を仕組んだのは市長ではなく、エイドリアンであったことを悟ります。とは言え、ここまで生き延びたエイミーですから、したたかさを身に着けています。時間稼ぎをしながら、市民の蜂起をうながし、エイドリアンの邸宅をかこむよう仕向けます。なんとか市民の助けを借りてエイドリアンの家からも脱出。エイミーに平穏が訪れます。重たい映画でしたが、ラストシーンには笑いを用意していました。次の選挙では、投票箱の奪取がおこならないように、電子投票システムが送られてきます。エイミーたちが、試しに使おうとするのですが、機械が壊れています。結局は、同じように手動で選挙を行わなければなりません。
フィリピン社会の腐敗と暴力性を、選挙というテーマで上手に引き出した映画でした。フィリピンの司法は本当にダメで、簡単に裁判官も金で判決を変えてしまいます。私は、借りていた物件のトラブルで弁護士から大家に手紙を送ってもらったことがあるのですが、大家も最初こそ善処するという態度に変わりましたが、結局最後まで賠償をしませんでした。と言うのは、民事裁判になっても、弁護士が出廷しないという戦法で、いくらでも裁判を引き延ばすことができるらしく、仮に双方の弁護士がそろっても裁判官が来ないなんてことも頻繁にあるそうです。もはや、こんな司法システムでは、外国人は戦うことはできませんし、フィリピン人にとっても同様で、簡単に暴力に頼ることになります。殺しを依頼した方がはるかに早くて、安いですからね。
興味深いシーンとしては、投票所のシーンです。投票した人は、投票用紙に母印も押さなければなりません。また、同じ人が投票できないように、爪にマジックみたいなもので、印を入れられていました。一応、不正が起こらないように、いろんな手段を講じてはいるのですが、政府や警察のレベルで腐敗しているので、こんな細々したことに意味あるのかなと思ってしまいました。
「Balota」の監督と出演者情報
監督のKip Oebandaさんは、まだ若く、大きなヒット作もありません。本作の着想を得たときに、主役は、Marian Riveraしかないと思ったそうです。とは言え、Marian Riveraは売れっ子の女優ですから、出演交渉は難航します。しかし、彼女が本作のプロットを読んで、テーマに共感し、全面的な協力を得ることができたため、本作が実現したとのことでした。Marian Riveraは、本作が公開された時点で、40歳。とてもそうは見えないですね。お美しいです。彼女はスペイン生まれのフィリピン人で、彼女の夫は映画監督のDingdong Dantesです。
「Balota」の作品情報
オリジナルタイトル:Balota
公開年 2024年
監督 Kip Oebanda
主なキャスト Marian Rivera(Rewind)
Will Ashley
Royce Cabrera
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)