余命数か月の男が不死の怪物になって命を長らえるが・・・「Nay」

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フィリピンでは、アクション映画を撮っている監督さんでも、コメディ映画を撮っている監督さんでも、一生に1回はホラー映画を作ることになっているのか、いつも疑問に思っています。そんな1回の機会で、傑作を生みだす監督さんも稀にはいますが、ほとんど平凡なホラー映画になって2度目はありません。本作は、現実の社会問題をうまくドラマ映画に落とし込むことを得意としているKip Oebanda監督さんが、1本だけ撮ったホラー映画です。しかし、多くの他の監督さんと同じように、ホラー映画としては凡作になっています。なぜ、フィリピンでは、ホラー映画をホラー専門の監督さんに任せないんですかね? それでも、本作の面白い点は、不死の怪物になるという点にフォーカスし、余命いくばくもない男と、不死の怪物になったが死にたいと思っている女によるドラマにしたところです。それでも様々な点で消化不良のシナリオになってしまっています。

(Photo cited from IMDb)

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「Nay」のストーリー

両親が海外で仕事をしている病気がちの13歳の男の子が主人公(マーチン)です。かなりのお金持ちで、家にハープが置いているような家に、家政婦さんと2人で住んでいます。ある夜、外をうろついている怪物を目撃しました。典型的な、フィリピンのアスワングです。家の床は血で汚れています。その血の跡をたどっていきましたが、誰もいません。家政婦さんを呼びますが、返事もありません。その後、家に侵入してきたアスワングに無理やり、何かを飲まされました。・・・という夢を見たような気がして、朝目覚めます。最後まで見ると、いったい何だったのか、と謎の残るシーンです。

その後、マーチンは健康な青年に育ちました。おそらく10年くらい経ったようで、家政婦さんも中年の姿をした女優さんに変わっています。10年くらいなら大人の役者は同じ人が演じれば良いのに・・・と思いましたが、この役者の交代は後半の演出と関わっています。

しかし、マーチンはすい臓ガンが発覚し、余命数か月しかないことがわかります。絶望するマーチンに対して、家政婦が口から虫のようなものを吐き出して、それをマーチンの飲ませました。そして、家政婦は「これであなたは不死のアスワングになった。私は死にたいと思っていたから、ようやく肩の荷が下りる」と語ります。もちろん、マーチンは自分がアスワングになったことなど認めません。すると、家政婦はいきなりマーチンをナイフで刺します。やがて、傷がふさがる自分の身体を見て、マーチンはアスワングになったことを認めざるをえません。また、家政婦によれば、この力はマーチンの母に与えられたと言います。

家政婦は、すぐに死んでしまうことはなく、マーチンに人の狩り方を教えます。マーチンは人を食べることを拒否するのですが、悶絶するほどの空腹感に襲われ、やむなく人を食べることにしますが、それでも殺すならば悪人にしたいと思っています。それに対して、家政婦は、アスワングは人よりも上位存在なので、人間が牛を食べるのと同じである、なるべくトラブルないように、貧民街からうまくお金で誘い出して人気がない場所で食べるべきだと教育します。

家政婦は狩った人間を食べると一時的に若返ります。結局、どういう意味のある演出かわかりませんでしたが・・・。さて、マーチンには、仕事を一緒にしているいとこがおりました。マーチンは、従妹には、家政婦さんがアスワングであることを伝え、シンガポールに逃亡することを提案されていました。しかし、マーチンにとって、家政婦さんとは実の母親よりも強い絆で結ばれており、その提案に乗れません。そもそも自分がアスワングになっていますし・・・。

(ネタバレ)ある日、会社の同僚がマーチンのために、彼の家に勝手に入って、彼の誕生日のためにサプライズパーティを行おうとしました。そんなとき、マーチンと家政婦が人を食べながら帰ってきたので、大変なことになります。家政婦はあっという間に、同僚たちを食い殺し、その際、同僚たちがかけた電話で、いとこは、マーチンもアスワングだったことを知ります。いとこは、来なければいいのに、マーチンの家にやってきて、嘘をついたマーチンをなじります。そんなマーチンに、家政婦は、いとこを殺しなさいと命じます。しかし、マーチンはいとこを殺すことができません。そして、家政婦に痛めつけられたいとこに、口から虫のようなものを吐き出し、いとこをアスワングにしようとしましたが、すでに、いとこは家政婦によって、顔から下が切り裂かれていました。マーチンは、家政婦に「なぜ、自分をアスワングにしたんだ。自分はこんなことを望んでいなかった」と喚きますが、家政婦は「あなたはもっと前からアスワングだった。私はその能力を開花させただけ」と答えます。少年時代に何か飲まされたシーンがありましたが、その時点でアスワングだったというのでしょうか?ここがわかりません。

しかし、アスワングの能力を渡した家政婦に、ようやく死期が訪れます。床に倒れて、徐々に活力がなくなっていく家政婦に対して、マーチンは「自分はこんな風に生きられない」と言って、口から虫のようなものを吐いて、家政婦に飲ませました。そして、マーチンはそのまま息を引き取りました。

最後は、再び若返った家政婦が、(おそらくマーチンの肉を食べながら)「彼は私のお気に入りだった」と独り言をいうシーンで終わります。

うーん。なぜ、家政婦は人の肉を食べると若返るのでしょうか? なぜ、虫をマーチンに移した家政婦はその後もしばらく生きられたのに、マーチンはすぐに死んでしまうのでしょうか? もともとアスワングだったとはどういう意味なのでしょうか? マーチンの母に、この力を与えられたとはどういう意味なのでしょうか? 説明不足なことが多すぎて、しっくりきませんでした。

また、生きたいマーチンと死にたい家政婦、殺すならば悪い人だけを殺したいマーチンと、人を単なる餌と考え効率的にリスクを減らして殺したい家政婦など、対立構造があったはずですが、後半は単なる惨劇になってしまい、その構造も活かされることがありませんでした。

「Nay」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたKip Oebandaさんは、まだ作品数は多くありませんが、「Balota」や「Liway」など非常に印象的な作品を残している監督さんです。今後、国際的に注目される監督さんだと、私が思っています。しかし、本作は凡作でした。ホラー向きではないのでしょう。これはやむを得ないですね。役者で注目すべきは、若い時の家政婦を演じたMadeleine Humphriesさんです。フィリピンでは珍しい、フランス系フィリピン人です。時々、得意のフランス語を作中で披露して、フィリピン映画にヨーロッパテイストを与えてくれます。

「Nay」の作品情報

オリジナルタイトル:Nay

公開年 2017年

監督 Kip Oebanda(Balota)(Liway

主なキャスト Enchong Dee(アルター・ミー: 心に耳を傾けて

Sylvia Sanchez

Madeleine Humphries(Smaller and Smaller Circles

視聴可能メディア Bili Bili(英語字幕のみ)

「Nay」のトレイラー

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