表題がネタバレになってしまっているのですが、あまりの衝撃で書かざるをえませんでした。これは驚くべき映画です。最後のエンドテロップで、作中の少年が監督の少年時代だと明かされたときには、驚きのあまり、口があんぐり開きましたよ。みなが生活している場所が政治犯が入れられる収容所であることが徐々に明らかになり、そこで生まれた子供が外の世界を知り、外の世界ではマルコス・シニア大統領が徐々に追い詰められるものの、政敵迫害の事実を隠蔽するために、全員が殺されるのではないかと収容所の中の雰囲気はますます緊迫していきます。彼らが殺されるのが先か、マルコスの退陣が先かという先の見えない展開にハラハラしました。これは見るべき傑作です。

(Photo cited from IMDb)
「Liway」のストーリー
最初に、この作品は実話を基に制作されていますとテロップが表示されます。貧しそうなエリアで、若い両親と子供が、他の人たちと一緒に生活しています。後にわかることですが、ここは政治犯が収監される収容所でした。時は、マルコス・シニアの治世の最晩年です。この収容所では、男女で別れておらず、子供たちも一緒に生活しています。驚くべきことに、看守の監視下においてですが、夫婦でセックスする部屋さえあります。
この生活の中で、夫婦は「Liway」という魔女の話をします。あまりに念入りに、両親が魔女の話を語りますし、まだ状況説明がない段階だったので、ホラームービーかと思って見ておりました。両親は、刑務所で生まれ、外の世界をしらない息子(Dakip)に外の世界を教えてあげたいと思っています。子供を親戚に預けることにすれば、子供は外で生活することができるのですが、一度外に出してしまうと、もう2度と会えないのではないかと、妻(ディ)が心配しています。実際、親戚に預けた他の子供は、自分のことを親だと思っていません。
ある日、息子はシスターに連れられ、収容所から出る機会がありました。彼にとって、デパートのマネキンなど初めて見るもので興奮します。この外出は、反マルコスグループの集会でした。この時はじめてわかるのですが、両親は反政府活動のゲリラを率いていたのです。そのため、集会では、リーダーが刑務所の中で産んだ子供を、抵抗のシンボルとしてとらえており、幼い彼にスピーチを求めました。
(ややネタバレ)またある日、夜分に「Liway司令」と呼ぶ声があります。看守にディが呼ばれます。驚くべきことに、この収容所は外部とフェンス1枚でしか隔てられていないところがあり、外から文句を言いに来た男が、ディを呼んだのです。彼は、ディを人殺しだと罵ります。そこから始まる回想シーンで、ディの教会での活動が反政府的とみなされ、ディと夫は逮捕の恐れがあったため山に逃げ、いつしかゲリラに転じていたのです。そこで、ディはゲリラを束ねるリーダーとなっていて「Liway司令」と呼ばれていたのです。何と、タイトルは母親のコードネームだったのですね。彼ら夫婦は、反政府ゲリラとして名前が知られていたので、プロパガンダを目的に逮捕され、他の仲間は殺されてしまいました。
(ネタバレ)外の世界では、マルコス大統領が追い詰められているというニュースが入ってきますが、収容所の人たちはかえって不安になります。と言うのは、ナチスも戦争終結時直前に、証拠隠滅のために収容所の人を皆殺しにしたことを知っていたからです。実際、収容所にいる人たちから、ときどき処刑も行われています。悪い予感は当たりました。これまで比較的穏当に収容所を運営していた長官に変わって、新しい長官が派遣されてきました。彼は、まず男女別々に暮らすこと、子供も性別によってわけられることを宣言します。また、3人以上で集まることを禁止し、体罰で収容された人々を管理します。そうして隔てられた家族を、密かに支えたのが収容所の前所長です。新所長に見つからないように、密かに家族のあいだで手紙のやりとりを助けました。
ある夜、一同は新所長の声によって叩き起こされます。こんな夜中に集められ、自分たちにどんな運命が待ち受けているのだろうと、緊張感が高まります。しかし、それは意外にも一同の解放を宣言するものでした。マルコス大統領は、ハワイに亡命し、政権が倒れたのです。家族は外の世界に出ても何も持っていませんが、表情は晴れやかです。彼らを訪れたディの祖父が、孫を紹介します。その娘の名前は「Liway」でした。ディは、自分が収容されたあとも家族に信頼されていたことを知ります。そしてエンディングです。そして、本作が事実に基づいて作られたこと、収容所で生まれ育った少年「Dakip」はやがて改名され「Kip」になったこと、そして、この少年が本作の監督であったことが示されます。
「Liway」の監督情報
私もこれまでフィリピン映画を見続けてきてわかったことですが、やはり映画祭で賞を取った作品、DVDになった作品は良い作品が多いなということです。つまり、これまで既に評価された作品を中心に見てみたのですが、そろそろフィリピン映画オタクとして、まだ日本に知られていない監督さん、作品を紹介したいなと思っていました。すぐに思いついたのが「Balota」を撮った本作のKip Oebanda監督です。そして、この作品を見て、このサイトでも推していくべき監督さんと確信しました。今後も、Kip Oebanda監督の作品をおいかけていこうと思います。
「Liway」の作品情報
オリジナルタイトル:Liway
公開年 2018年
主なキャスト Glaiza De Castro
Dominic Roco
Kenken Nuyad
視聴可能メディア Youtube(英語字幕のみ)

