ドキュメンタリー映画な上に、非常に政治的なテーマなのでレビューしずらいのですが、今回紹介したいのはドゥテルテの麻薬戦争をジャーナリズムの視点で描いた映画です。本作の主人公は、2021年にノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん。彼女は、CNNのフィリピン・マニラ支局とインドネシア・ジャカルタ支局の開設、運営などに携わった後、フィリピンのテレビ局ABS-CBNのニュース部門を率いました。その後、2012年に、フィリピンでニュースサイト『ラップラー』を創設し、ドゥテルテの麻薬戦争を痛烈に非難しました。
ストーリー
ドキュメンタリーなので、ストーリーというストーリーはないのですが、最初はそれほど迫害的ではなかったドゥテルテ政権ですが、徐々に公衆の前で、彼女のラップラーへの非難を高めます。「彼女のサイトは、フィリピンの資本ではない。西洋資本によるものだ。私たちの100%フィリピン資本のメディアを信じるように」と言ってみたり、「彼女のサイトは私の政権を非難することでお金を得ている」と直接的な非難も出てきます。やがて、ドゥテルテの支援者が、彼女の逮捕を求めるようになり、彼女に対しての抗議行動を自主的に行ったり、避難や嫌がらせメッセージを絶えず送ってくるようになります。そして、収監まではされないにせよ、「国家の安全を危険にさらした」みたいな罪で、実際に逮捕までされてしまいます。
映画としては、ドゥテルテの麻薬戦争を正面から扱ったものではなく、それを報道していたら、政権によるフェイクニュースやSNSを使った扇動で、いかに世論が作られていくかといったことに焦点を当てた作りになっていました。正直、そこは残念な気がしましたね。映画全体として、自分たちがどんなに非難されたかみたいなことが中心になっており、麻薬戦争で殺された売人や、薬物中毒者にもっと焦点を当てれば、もっと違った受け止められ方をしたんじゃないかと思います。麻薬の売人や薬物中毒者に対して、大衆は同情的ではありませんが、彼らがそうならざるを得なかった背景などを取材で深堀りできていれば違ったのかなと思います。映画からはそういう深堀り報道は感じられなかったですね。人権、報道の自由を叫ぶのでは、大衆に伝わらないだろうなと思ってしまいます。
現在、日本のプラットフォーム、日本語字幕で見る方法がありません。私が見たのは、Dailymotionという報道系のサイトにフルムービーがアップされていたので、そこで見ました。おそらく公式によるアップだと思いますが、確証がなかったのでリンクは貼らないでおきます。検索してください。英語字幕は、それはタガログ語やわかりずらい英語の時にだけ表示されます。なので、英語のリスニングが必須となり、現在のところ視聴のハードルが高いのが問題ですね。
作品情報
オリジナルタイトル:A Thousand Cuts
公開年 2020年
監督 Ramona S. Diaz
主なキャスト Maria Ressa
Rodrigo Duterte
Pia Ranada
視聴可能メディア Dailymotion