フィリピンでは、2016年6月30日ドゥテルテが大統領に就任した後の演説で、なんと国民に犯罪容疑者や麻薬中毒者を殺害するよう促しました。また、警察には彼らを射殺するよう命じ、麻薬の売人の遺体に報奨金を出すと述べたことから、大規模な殺戮が行われ、その被害は政府発表で6229人。人権団体の発表では、1万2000人、あるいは2万人を超えるとも発表されています。
当時の映画人にとっては、衝撃的な出来事だったでしょう。もともとフィリピン社会も、昔の日本のヤクザ映画みたいな社会でしたが、それ以上のことが現実で起きてしまっているのですから。その後、様々な監督が麻薬戦争をテーマに映画を撮影しています。しかし、当時のドゥテルテ政権は強圧的な政府ですから、監督たちも、それなりに現実と距離を取りながら穏便に、あるいは徹底的に娯楽に寄せてアクション映画に仕立てたりと工夫したのだろうと考えると興味深いですね。
今回は、現在日本で視聴できる麻薬戦争をテーマにした映画5本と、番外1本を、私の基準でお勧め順に発表したいと思います。
1位 「アルファ、殺しの権利」
本作が唯一、フィリピンの麻薬戦争を真正面から扱っているので、お勧めの第1位になります。内容も極めて硬派。フィリピン警察の全面協力を得て、タレコミがあってからの、警察署内の会議、作戦の立案、突入から銃撃戦、証拠の押収、殺害された警官に対する警察葬など、細かなところまでリアルに荘厳に描かれています。また、1人の警察官が、この突入から麻薬と現金をネコババするという要素を加えたことで、ストーリー的にも面白くなり、麻薬の密売人たちが、いかに検挙を逃れていたか、逆に警察がどのように日常の取り締まりを行っていたかを垣間見ることができます。監督は、フィリピン映画界の巨匠Brillante Mendozaです。
2位 「ローサは密告された」
2位も同じくBrillante Mendoza監督の「ローサは密告された」です。本作は、直接警察と麻薬組織の殺し合いを描くのではなく、その背景にあっただろう小さな事件に焦点を当てます。物語は、サリサリストアを営むローサですが、ある日警察の摘発を受け、麻薬密売の容疑で逮捕されます。実際、子供の学費を稼ぐために少量の麻薬を売っていたので、濡れ衣というわけではないのですが、警察が求めているのは麻薬の無い世界などではなく、これを機に庶民から金を巻き上げることでした。
3位 「バイバスト」
上の2つと違って、社会的な背景には深入りせず、ひたすらアクション映画に全振りしたのが本作です。とにかく、この麻薬戦争というテーマで大量の死体の山を築いてやろうという意気込みで撮った感じの映画です。映画の予告を見ても、スタントマン309人、15,321発の銃弾、251kgの火薬を使った大迫力!という宣伝です。これはこれでアリな手法ですよね。監督も上記のBrillante Mendoza監督ほど国際的に認められた巨匠ではありませんし、政府に睨まれないように、アクション映画に全振りするというのはわかります。「何人殺すんだよ・・・もういいよ」と思ってしまうくらい、アクションシーンが長すぎではありますが、監督も役者さんも本当によく頑張っています。
4位 「A Thousand Cuts」
4つ目に紹介するのは、視点を変えてドキュメンタリー映画です。当時のドゥテルテ政権が、麻薬戦争を非難するメディアに対して、どのような対応をしていたのかを告発する映画です。時にフェイクニュースを使い、時に大衆を扇動して、自分たちに都合の悪い報道を行うメディアを追い詰めていきます。これも麻薬戦争の1つの側面でしょうから、やはり見ておく必要がありますね。
5位 「ミッドナイト・アサシンズ」
5位にあげるのは、「ミッドナイト・アサシンズ」です。正直、作品の根底となる背景が語られておらず、主人公たちの行動原理も推測するしかない作品です。邦題のスタイリッシュさと正反対で、ただひたすら暗く、殺しが積み重なっていく救いのない作品です。まあ、救いがないと言えば、ここに挙げた映画のすべてに救いはないですが・・・。その中でも最も暗い映画だと思ってください。
番外 暗きは夜
現在、視聴する方法がなく、私は見ることができていないのですが、ネット上での評価が高く、見るべき映画だと思われます。第18回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映されたようです。トレイラーを見るに、麻薬に手を染めていた庶民が、どのように麻薬戦争を体験したかを真正面から描いたものに見えますね。何らかの機会に上映されたらぜひ見たいですね。
番外その2 AMO
映画ではありませんが、Netflixはフィリピンの麻薬戦争での虐殺を舞台にしたドラマシリーズ「AMO(アモ)」を買収しました。このドラマシリーズは、全12話で構成されており、政府の麻薬密売撲滅運動における国家警察の働きと、その論争を描いています。注目されたのは、このドラマシリーズが、ドゥテルテ政権を支持してきた監督によって制作されたということです。海外からの人権弾圧という視点とは別に、フィリピン人から見た麻薬戦争の正当性という視点も得られる興味深いドラマだと思います。
Netflix(日本語字幕あり)
まとめ
以上が、私が個人的に推す、フィリピン麻薬戦争をテーマにしたおすすめ映画5選+2です。このテーマは、海外からの注目を集めているためか、4位のドキュメンタリー映画を除いて、日本語吹き替えか、日本語字幕でU-NEXT、Netflixなどで見ることができます。詳しくは、それぞれの映画に関する記事でご確認ください。