実は、私も3人兄弟の長男で、父親が会社をやっていたため、会社を継ぐことを期待されて育ったのに結局裏切ってしまった身分なので、本作品はいろいろ感じるものがありました。本作では、主人公が相続するのは、田舎にあるバロット農園です。主人公は都会で(売れてはなさそうですが)ミュージシャンとして働いており、彼女もおります。当初は、事業を引き継ぐ気持ちなど全くなく、土地を売却するつもりでした。しかし、地元に帰って農園のスタッフの働きぶり、生活ぶりを目の当たりにすると、そう簡単にはいきません。徐々に、農園を売らずに事業を継続する方向に心変わりする様子を描いた作品です。
映画作品としては、都会に出て行った子供が田舎の親の事業を継ぐか否かという普遍的なテーマに、親の事業をバロット農園というフィリピンにしかない事業にしたことで、外国人にとっても非常に興味深い作品になりました。また、本作はYoutubeで視聴可能ですが、綺麗なフォントの英語字幕が入っており、非常に読みやすいです。画質もYoutubeとしてはかなり良い方なので、ストレスなく見ることができると思います。

(Photo cited from IMDb)
「バロットの大地」のストーリー
最初の時点では説明されていませんが、主人公の男(ジュン)がキャンダバというパンパンガ州の街に帰ってきました。街では、お祭りが催されており、地元の人々は鳥の格好の仮装しています。また、住民が立ち退きに反対してデモをしています。ジュンのバロット農園には、従業員は1家族しかおりませんので、これはジュンの土地の話ではなさそうです。パンパンガは、そこそこマニラに近いですから、土地が買収されて農民が追い出されることが良くあることを示していたのでしょうか?
実家に到着すると、叔母さんが既に買い手を見つけてくれています。まずは、農園の様子を見て回りまると、非常に素朴な生活を送っている一家が住んでいます。彼らは、ジュンの父親には良くしてもらったのでと、特に文句を言う訳でもありません。
ようやく買い手が、農園に見学に来ました。彼はすでにバロット農園を所有しているのですが、事業を拡大したいと思っており、ちょうど良い機会だと思われたのです。基本的に彼は前向きで、現在農園で働いてくれている一家の働きぶりも高く評価してくれて、継続雇用してくれそうです。すごく良い話なのですが、フィリピンなので手続きにやたら時間がかかります。それを待つために、農園で働く一家との交流が、本作のメインパートです。その中で、少しずつ彼らの生活に惹かれていきます。
しかし、田舎の生活は良いことばかりではありません。ある晩、農園でアヒルが盗まれました。農園の従業員は、誰が盗んだかわかるというので、ジュンは警察に通報しようと言うのですが、ここでは悪い人を逮捕してはいけないと言います。なぜなら、彼らは殺すからとのことです。田舎でもフィリピンの治安は悪いみたいですね。
バロット農園の仕事は、興味深いものでした。アヒルは屋根のある藁をひいたところに卵を産む習性があるようですが、それ以外のところにも産むこともあります。その卵を旧式のインキュベーターと呼んでいましたが、温めるかごみたいなものに置いて、定期的に太陽の光に透かすことで、ちょうど良いバロットの状態を見つけて出荷しているようでした。見せてくれるだけで、説明があるわけではないので、私の想像も含んでいます。エサはカタツムリだと言っていました。しかし、どうやってエサのカタツムリをそんなに用意できるのかはわかりませんでした。
やがて都会で待たせている彼女が、訪れてきました。彼女はオーストラリアでの仕事に応募したいと思っています。ちょうどバロット農園を売ったお金で、オーストラリアに小さな家を買おうと提案します。彼女は、結婚の話ができると思ってジュンの実家に来たというのですが、彼から良い返事をもらえないどころか、「まだ、結婚はできない」と答えてしまいました。彼女は無言でバスに乗り込み、去っていきました。
最後は、子供たちと自然保護区で野鳥を見るシーンです。素晴らしいシーンなのですが、もっと天気の良い日に撮影できないかなと思いました。ラストのシーンですからね。どんよりとした空ではなくて、何日か粘って最高の風景を撮って欲しかったです。野鳥の卵からヒナがかえるシーンを、主人公が笑顔でのぞきこんで、エンディングです。
私は、自分が主人公だったらどうするだろうと思いながらずっと見ていましたが、やっぱり農園事業を継続する選択はしないと思いました。日本でも地方と都会の格差はありますが、フィリピンではものすごい格差です。また、(たぶん)売れていないとは言え、音楽の仕事をしていて、まだ若いのに、そこであきらめる必要はないんじゃないかと思いました。こうやって、フィリピンの素朴な田舎の風景で繰り広げられるドラマに、自分を投影しながら見れるのはとても良い映画体験でした。
「バロットの大地」の監督情報
本作の監督をつとめたPaul Sta. Anaさんは、本作が4本目の監督作品です。しかし、この映画を撮って10年が経過していますが、その後は1本も映画を撮ることなく、テレビドラマの監督だけをつとめています。フィリピンのテレビドラマは1週間に5話放映するようなタフな現場ですから、そういうにぎやかな職場を好む人なのでしょう。
「バロットの大地」の作品情報
オリジナルタイトル:Balut Country
公開年 2015年
監督 Paul Sta. Ana
主なキャスト Rocco Nacino
Ronnie Quizon
Vincent Magbanua
視聴可能メディア Youtube(英語字幕)