「Ulan」とは「雨」を意味するタガログ語です。本作は、雨に関するフィリピンの民間伝承や迷信をテーマに、ラブストーリーに仕上げた作品と言っていいでしょう。フィリピンは、雨が多く、台風も頻繁に来る場所ですから、ラブストーリーも悲恋になってしまいますね。また、民間伝承の神様が出てくるため、ファンタジックな作風になっており、それがほとんど降り続ける雨とあいまって、不思議な優しい雰囲気を持った作品です。

(Photo cited from Reddit)
「Ulan」のストーリー
主人公(マヤ)の少女時代のシーンから始まります。少女が祖母に「なぜ晴れている日でも雨が降ることがあるの?」と尋ねます。祖母は「Tikbalangのカップルが結婚したから」だと説明します。祖母によれば、Tikbalangは、神様につらなるもので、恋愛する権利を持っておらず、神に逆らったためだとのことでした。しかし、それでなぜ天気雨になるのか、わかりませんね。ちなみに、Tikbalangとは、馬の頭をしたフィリピン土着の想像上の生き物です。ミノタウロスみたいな感じです。その後も、頻繁に少女時代のシーンが挿入されます。
その後、成人時代のマヤが登場します。マヤは、3年間好いてる男がおり、彼の誕生日にケーキを持って男を訪れました。すると、彼には妻と子供がおりました。その日も雨が降っていました。マヤは、雨が常に自分の恋を阻むという考えを持っており、今回も雨を呪います。
マヤは出版社で編集の仕事をしています。ライターではなく編集アシスタントだと言っていましたが、矛盾したことに、編集長は、彼女にラブストーリーを書くよう求めてるシーンがありました。家族には、英語が得意なんだから、コールセンターで働けばいいのにと言われていました。日本なら、出版社の仕事の方が良い仕事だとみなされていますが、フィリピンではだいぶ違いますね。
その後、知り合いの結婚式で、式場でデザイナー(?)として働いている男(アンドリュー)に出会います。アンドリューは、結婚式に夢中にならない女を初めてみた、と言って、マヤに近づき、あっという間に2人は仲良くなり、一応、彼氏彼女の関係になったのですが、アンドリューには、美人で優秀な同僚がおり、3人で遊ぶことになるうえに、美人の同僚はいつでもアンドリューをものにできると自信満々です。これは勝ち目なしと、マヤは諦めます。彼女は、典型的な結婚に憧れる女性で、アンドリューと付き合うことになったあと、すぐに仕事を辞めますが、破局してから、元の編集の仕事に戻りました。編集長によれば、これまでに同じことが3回あったとのことです。
ここで、少女時代のシーンで印象的なエピソードを紹介します。祖母がマヤに、雨が降って欲しくない日は、木の根元に卵を捧げると雨が降らないという迷信を教えます。祖母は「洗濯の日には、いつも卵を置いているでしょう? そうしたら雨が降らないでしょう?」と語ります。これは、面白い迷信ですね。今度、英語の先生に聞いてみます。
(ネタバレ)マヤが作中で好きになる3人目の男(ピーター)の登場です。ピーターは、子供に勉強を教えるNGOで働いています。彼の善良さに惚れて、彼女もピーターのNGOでボランティアを始めます。すぐに、お互いを好きになる2人ですが、ピーターは神学生で、司祭コースに進むと結婚することできません。マヤは、また裏切られた気持ちになりますが、ピーターはともかく半年の研修を受けてから、進路を考えることにしました。そのあいだも2人は連絡を取り合っていました。そして、ようやく半年の研修期間が終わるころ、巨大な台風がやってきます。
嵐が訪れてからは、少女時代に出会った嵐の神様(?)とのシーンが大きな意味を持ちます。嵐の神様は失恋して、嵐を引き起こしているようです。そして八つ当たりで、フィリピンを襲うと言っていました。神様は、マヤに「将来、傷つくことになるだろう」と嫌なことを言っていました。
そんな嵐の中、ピーターは研修を終え、マヤの元を車で目指します。彼は電話で「自分は司祭コースに進まないことを決めた。自分にとって、一番大事なのは君だ」と告白した直後に、車ごと川に落ちました。濁流の中、車から脱出したシーンはありましたが、その後、ピーターの出番はありませんでした。雨の中、成人のマヤと少女のマヤが手をつないで踊るシーンを経てエンディングです。
神学生(しかも同じ俳優)とのラブストーリーを見たことがあったので、このラストは予想できていました。神学生が、司祭になることをあきらめ、愛を選んで幸せになるという物語は、フィリピンでは難しいような感じがしますね。
「Ulan」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたIrene Villamorさんは、女性の監督さんで、恋愛映画専門の監督さんと言ってよいでしょう。最近、Netflixに追加されたばかりの「Only We Know」の彼女の作品なので、近々見てみたいと思います。ヒロインを演じたNadine Lustreさんは、女優だけでなく、歌手やダンサーとしても活躍しています。多くの映画で挿入歌を歌っていることでも知られているようです。ピーターを演じたCarlo Aquinoさんは、国民的俳優です。当ブログでも、現在のところ登場回数がダントツで最も多い役者さんです。
「Ulan」の作品情報
オリジナルタイトル:Ulan
公開年 2019年
監督 Irene Villamor
主なキャスト Nadine Lustre(Nokuturo)
Carlo Aquino (Bata bata paano ka ginawa?) (Love You Long Time)(Seasons:めぐりゆく季節の中で)(クロスポイント)(セックスの才能)(Third World Romance)(The Missing)(GOYO 若き将軍)(Hold me close)(Whispers in the Wind)(I love Lizzy)
視聴可能メディア Bili Bili(英語字幕のみ)