私はフィリピンで、ミス・ユニバースの決勝大会を見に行ったことがあるので、フィリピンがどれだけミス・ユニバースに本気なのか、身をもって知っているのですが、その本気ぶりをドキュメンタリー映画にしたのが本作です。フィリピンのミス・ユニバースは日本でいうと高校野球の甲子園みたいな感じで、各地域の代表として出場し、4か月という長期間を戦いぬかなければなりません。フィリピン代表を選ぶ過程が完全に1つのエンタメとして成立しており、多くの人がその過程を楽しみ、地域の代表を応援する文化があります。おそらく、世界中でミス・ユニバースにこんなに重きを置いている国はフィリピンだけじゃないですかね。フィリピンの面白さを世に発信する面白い映画だったと思います。

(Photo cited from IMDb)
「A Queen’s Runway」のストーリー
冒頭で、「フィリピンでは国民は3つのことに熱中する。1つはバスケ、2つ目はボクシング、3つ目は美人コンテストだ」と、誰かが語ります。これはうなずけます。フィリピンでは至るところで、小さなバランガイレベルでも美人コンテストをやっています。日本のフィリピンパブで働いている女の子に聞いても、何かの美人コンテストで優勝したという人は結構多いですね。
映画の舞台は2024年のミス・ユニバースのフィリピン大会ですが、25歳までという年齢制限がなくなったそうで、アラフォーなど多様な参加者がいたそうです。アラフォーの人が予選を勝ち抜いたのかはわからなかったのですが、海外を含む様々な地域から選ばれた53人が本選に進むことになりました。本選に残った人の1人が言っていましたが、他のミスコンで優勝して活動中は、ミス・ユニバースに出場できないらしく、多くの人が何らかのミスコンで優勝し、キャンペーンガールとしての契約期間を持っているので、タイミングが難しいらしいです。
また、優勝したあと、様々なイベントに呼ばれます。そのため、ただの美人コンテストではなく、自分がミス・ユニバース・フィリピン代表になったら、社会に対して何をしたいのか、というビジョンが非常に重要なのだそうです。だから、そんなに長い本選を戦わなければならないんですね。
フィリピン国内で場所を移し、水着コンテスト、フィリピンの伝統的な衣装を着るコンテスト、スポンサーのための仕事、様々な撮影をこなしていかなければなりません。また、本選出場者には、それぞれ衣装やメイクの専門家がついており、彼らも自分の作品の出来を競っています。特に伝統的な衣装を着るコンテストは最も重要だとのことです。それぞれが、デザイナーとアイデアをぶつけ合い、フィリピンのお祭りでよくある鳥のような衣装、花、蜘(!)などをモチーフにした衣装をまといました。
本選の決勝戦大会の前には、個別のインタビューがあります。そこで、出場者は、自分のビジョンや、長い本選の中で学んだことなどを問われ、ファイナリストとしての適性が評価されます。映画を見ていても、この長いレースの中で、すっかりモチベーションを落としている人と、自分のビジョンをはっきり持っている人にわかれているのがわかりますね。ただ美しいだけでは勝ち抜けない、人間性を見るために、4か月が必要というのはよくわかりました。
さて、いよいよ最終の決勝戦です。最初に53人から20人にふるい落とされます。この時点では異変が起こりません。すでにメンタルで負けていて、モチベーションを落とした参加者がふるい落とされました。次に水着審査です。ここで20人から10人に絞られました。見ていて思ったのは、アフリカの血が混ざった人が有利な大会ですね。多様性を尊重しているのでしょうが、フィリピンのオリジナルの人たち、西洋人とのミックスは明らかに不利な評価を受けているように思いました。とは言え、アフリカの血が入った人の方が、フィリピン社会で差別されてきたので、このコンテストにかけるモチベーションが高く、それがミス・ユニバース・フィリピンを選ぶ過程では有利に働いているとも言えそうです。結局、さらに5人から、クイーンを決める過程でも、ほとんどアフリカ系の人になり、クイーンもアフリカ系の人が勝ち取りました。一応、この2024年の大会で初めて、アフリカ系の人がクイーンになったのだそうです。運営側の人が語っていましたが、これまでフィリピンは植民地化された影響で、色が白ければ白いほど美しいと考えられていたが、新しい美の基準が打ち立てられたとご満悦でした。そうかもしれないけど、世界的にアフリカ系有利の大会になっているような気がしますね。しかし、この作品を通して、フィリピン社会の価値観というものが、よく見えたと思います。面白いドキュメンタリー映画でした。
「A Queen’s Runway」の作品情報
オリジナルタイトル:A Queen’s Runway
公開年 2025年
監督 Erik Sopracasa, Tom Sys
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)