本作はマニラのストリートチルドレンにスポットを当てた作品ですが、真の主人公は、彼らの泥棒被害にあったタクシー運転手でしょう。何とか泥棒の1人を捕まえたものの、警察も、行政も、実の親もあてにならず、どんどん巻き込まれたあげく酷い目にあわされます。作中でも、ストリートチルドレンの状況には同情する部分が大いにありますが、個人的に同情心を見せるとロクなことにならないということを教えてくれました。本作は国際的にも評価されている作品で、大きな賞はとっていないものの、様々な国際映画祭で主演女優賞などを獲得しています。タイトルの「Hamog」は「霧」という意味です。彼らの未来が一寸先も見通せない様を例えたのでしょう。

(Photo cited from IMDb)
「Hamog」のストーリー
ストリートチルドレンの話でした。街に置かれた土管の中で住んでいます。Pasing川だと思われる汚い川で泳いだりしています。彼らの仕事は、渋滞で止まっている車に嫌がらせをして、怒ったドライバーが子供たちを追いかけてきたところで、他の子供が車から貴重品を盗むという手口です。あとは、勝手にフロントガラスを洗い始めて、トラックから物を盗むという手口もありました。あの、勝手に窓ガラスを洗い始めてお金を要求する子供たち、本当に嫌ですよね・・・。
しかし、ある日、逃走中に1人の男の子が車に轢かれて死んでしまいました。しかし、運転手も未成年で、農民からドライバーに転職したばかりでお金を持っていません。埋葬するお金が欲しいという子供に、翌月の給料1か月分(5000ペソ)を支払うということになりました。フィリピンでは人の命の価値が本当に低いですね。しかも、いくらみなしごとは言え、他のストリートチルドレンが受けとるというのも不思議です。しかし、車の修理代を要求されたので、その5000ペソさえ払えないかもしれないと、ドライバーから電話がかかってきました。結局、行政に相談して、可哀そうに思ってただで埋葬できる場所を見つけてもらいました。この亡くなった子供を埋葬するために走り回っていた子供は、家があり、ムスリムの比較的ちゃんとした家庭の子供でした。
また、子供たちは同じ手口で車から物を盗みます。今度はタクシーのドライバーがうまく立ち回り、逃げ遅れた女の子を捕まえました。ドライバーは、女の子を警察に突き出しますが、未成年だから刑務所に入れられないと、盗まれたものを取り返すのは難しいと警察官は答えます。怒ったドライバーは、女の子を無理やり、役所に連れていきました。警察官の前で、窃盗の被害者とは言え大人が、少女を無理やりどこかに連れていくことができるということに驚きます。
役所ではユースセンターに入れるしかないと言いますが、彼女は断固拒否します。そこで、親元に電話しますが、母親は「灯油を買ってこいと言っただけ」と、自分の言いたいことを言うだけで、役所の職員の話を聞こうともしません。怒ったドライバーは、今度は女の子をスラムの実家まで連れて行きます。しかし、実家はひどいものでした。母親は「帰ってくるな」「出ていけ」と叫ぶだけで、全く話になりません。これを見たドライバーは、さすがに気の毒になり、女の子を自分の家に連れていきます。
しかし、何の相談もなく小汚い女の子を連れてきたことから、ドライバーの妻は大激怒です。ドライバーは、知り合いからメイドを置いてくれと頼まれたと説明します。この妻は、気分屋で女の子に親切な時もありますが、暴力を振るうこともあります。また、息子(?)は、彼女に性的ないたずらをします。しばらく何とかやっていましたが、女の子の境遇を見ていると、これでいいとは思えません。やはり、ユースセンターに行った方が良いのではないかと、彼女に提案します。しかし、彼女の説明によれば、ユースセンターは酷い環境で、いじめや暴力の果てに死ぬ子供もいると言います。これでは、どうにもなりません。ドライバーは、女の子を家に置き続けることにします。
(ネタバレ)家に帰ると、ドライバーの妻が、女の子に異常に親切になっていました。妻は、自分の不親切な態度が夫の不興を買っていると考え、女の子のご機嫌を取ろうとしたのです。その晩、女の子はかいがいしく、食事の準備をして、楽しい晩餐が始まったかのようでした。しかし、ドライバー家族一同は、食事を口にしたのち、苦しみはじめ息絶えてしまいました。どうやら、女の子が毒を盛ったようです。女の子は、家庭から金目のものを盗んで立ち去ります。そこで、エンドロールです。
どこで、女の子が家族を毒殺することを決意したのかわかりませんが、ストリートチルドレンに情けをかけてはいけませんね。どんなに悪い環境でも、プロに任せるのが正解で、ユースセンターに連れて行けば良かったのだと学びました。
「Hamog」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたRalston Joverさんは、どちらかと言えば、脚本家として映画に関わることが多い人です。有名なところでは、ブリランテ・メンドーサ監督の作品の脚本を書いています。一流どころと仕事をしていますし、本作の硬派な作風も良かったので、他の作品も見ていきたいと思います。2人の主要な子役は順調に出演作を増やしています。フィリピンも子役出身のスターが多く、この子役たちから、今後スターになる子がいるかもしれませんね。
「Hamog」の作品情報
オリジナルタイトル:Hamog
公開年 2015年
監督 Ralston Jover
主なキャスト Zaijian Jaranilla
Therese Malvar
Samuel Quintana
視聴可能メディア 怪しいロシア系サイト(英語字幕のみ)

