本作は、普通に見るだけでは全く内容がわからない作品です。あまりにわからないので、映画のタイトルから検索をかけ、複数のサイトを見て、作品の背景を理解したことで、何を描いていたのか薄っすらわかってきました。どうやら、フィリピンの特に南部では、フィリピン共産党の武装勢力(NPA)が支配するエリアがあり、そこでは税金はNPAに入り、NPAが行政サービスを行っているとのことです。また、政府軍との戦争は苛烈ではないものの長引いています。本作は、NPAの勢力下にある村落が、巨大台風の影響で壊滅し、共同体を維持することが困難となった状況を描いたと思われます。ある者は、政府支配下の市街地への移住を決め、またある者は、政府と取引のある商人や、仲間であるNPAの食料倉庫から略奪を行います。そうして、少しずつNPA勢力下の村落が崩壊していく様を描こうとしたのではないかと思います。とは言え、作中で背景情報や人間関係について説明がないので、私の理解で正しのか、正直わかりません。タイトルの「Iisa」は、「1つの」という意味です。ある1つの集落の物語という意味でしょうか。

(Photo cited from IMDb)
「Iisa」のストーリー
大雨の中、森の中ぬかるんだ地面に足をとられ、もがいている兵士たちのシーンから始まります。兵士たちは、近隣の住民から支援を要請され、何とか駆けつけるも、集落のほとんどが土砂崩れによって流されてしまいました。
村人と兵士たちで、救助活動を行うものの、生存者は少なく、おびただしい死体が並べられました。生き残った女の話によると、自分たちは教会に避難したので生き延びることができたとのことです。なるほど、教会は大抵石造りですし、地盤の良いところに建てられているので、フィリピンの田舎で大雨に遭遇したら、教会に避難するというのは良さそうですね。
生き残った人たちは、今後の食料、薬、死体の埋葬について議論します。議論に参加していない一般住民のほとんどは茫然自失という感じです。何をするわけでもなく呆けています。
おそらく、主役らしい夫婦に焦点があたってきます。夫は、ちょっと両親の元に行ってくると言うと、妻は「あなたは危機のときにいつも両親の元に行く」と言って不満を漏らします。また、妻は「離婚届けにサインして欲しい」と言いますが、夫は「まだやり直せるはずだ」と言って応じません。
しかし、このシーンの直後に、夫が殺されているのが発見されます。なぜ、夫が殺されたのかは、最後まで説明されません。河原で埋葬しようとしましたが、夫の両親の元に運ぶことを妻が主張して、バイクにのって遺体を運びます。ところが、その先のシーンには夫の遺体の姿はありませんでした。妻が、夫の両親の元を訪ねると、母親はライフルを構えて妻を威嚇します。妻が、夫の死を伝えると、母は泣き崩れます。両親の元に、夫婦の子供がいることもわかりました。結局、全く状況がわからないので、この段階でネットで背景の情報を調べました。
ここでようやくわかったのは、夫婦が住んでいた集落が共産党武装集団の支配地域であったこと、夫の両親は息子が武装集団組織に入っていることを良く思っていないこと、両親は政府相手にビジネスをしていることです。そりゃあ、嫁にライフルを向け、子供を引き取りますね。また、最初に登場した兵士たちは、災害の救援に向かったものだと思っていましたが、武装集団の兵士でした。途中から、同じ顔の男が普通の恰好で村民として振舞っていました。さらに、妻にはアメリカへの亡命許可が出ており、航空券も渡されています。それでも、妻がグズグズして亡命できていないようです。
崩壊した集落に、救援部隊が入ってきます。食料が配給され、遺体はトラックに乗せられて運ばれていきます。この支援は政府系のもので、町長が現場を訪れます。その市長に対して、コミュニティーのリーダーであるシスターが、お金を渡し、犠牲者を弔う記念碑を建造して欲しいと頼みます。町長は、彼女の顔を見ることもせず、秘書に「とりあえずお金は受け取っておけ」と指示します。
(ネタバレ)村民は、シスターを囲んで今後のことについて話し合います。一部の村民は、このままでは食うことができないと言って、政府が管轄している市街地に出ることを決意しました。残った住民は、住居の再建と芋畑の再開に向けて動き始めました。しかし、すぐに芋ができるわけでもなく、十分な食料がありません。そこで、同じ組織であるNPAの倉庫に十分な食料があることを聞きつけ、村民で略奪を行いました。しかし、倉庫を守るNPAの兵士によって、妻が射殺されてしまいます。この妻はNPAでもきっと大物だったのでしょう。射殺した兵士も茫然としています。その後、兵士と村民で、妻の遺体をかついで、どこかへと行こうとします。風景が遠景になり、音楽が流れてエンディングです。
よくわからない部分も多いですが、NPAの支配地域と言っても政府は救援活動を行いますし、被災地には町長も現れるような関係なんですね。どうやら、政府はこうした支援というかたちで、少しずつ、武装勢力の力を奪っていく方針のようです。一方で、NPAの方も食料をため込んでいたり、支配下の村民に略奪を受けるなど、十分な信頼を得ているわけではなさそうです。このあたりの、微妙なニュアンスを描いた作品だったのでしょう。また、アメリカが共産党武装ゲリラの幹部を亡命で受け入れるというのは意外に思いました。中国が受け入れればいいのにと思いますが。
全体的に、説明がなさすぎて、予備知識がなければ全くわからないのは、映画作品としては大問題です。本作は2015年公開の映画です。その後10年経ちましたが、現在はどういう状況になっているのでしょうか?
「Iisa」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたChuck Gutierrezさんは、本作が唯一の長編映画監督作品です。普段は、優秀な編集マンのようで、多くの有名作品に編集で関わっています。編集マンならば、もう少しわかりやすく作品を作って欲しかったですね。主な登場人物は、けっこう有名なベテラン俳優たちが参加しています。フィリピンの映画界では、商業映画に出ている俳優さんたちも、こうした商業性の全くない映画によく出演していますね。そこは凄いなと思います。
「Iisa」の作品情報
オリジナルタイトル:Iisa
公開年 2015年
監督 Chuck Gutierrez
主なキャスト Angeli Bayani
Rio Locsin
視聴可能メディア Youtube(英語字幕)

