フィリピンの歴史上でも最大級の台風ヨランダが直撃したのは、2013年11月のことでした。この台風は甚大な被害をもたらし、レイテ島のタクロバンでは6000人を超える死者が出ました。また、台風のあとも商店の襲撃や救援物資の略奪が相次いだため、ベニグノ・アキノ大統領が非常事態宣言を出したことでも知られています。ブリランテ・メンドーサ監督は、被災から1年後の現地の姿を、本作品の中におさめています。ブリランテ・メンドーサ監督らしく、ドキュメンタリー風に作られています。オリジナルタイトルがTaklub、英語タイトルがTrapです。日本語タイトルの「罠」は、オリジナルタイトルの直訳ということになりますね。現在、日本の動画配信プラットフォームでは見ることができませんでしたが、Youtubeにて英語字幕で見ることができました。権利者がアップロードしたのかは不明でした。
ストーリー
(ネタバレではあります)映画サイトでは3人の視点で物語は進行すると書いてありますが、そのうち1人は印象がなく、実際には50歳くらいの男と女の視点で、被災地を映し出します。最初のシーンで、避難所が火災になり、「テントに閉じ込められた(Traped)」と避難民が語ります。どうやら、避難所だけでなく、被災地にとどめ置かれている状態がタイトルの意味のようです。ならば、タイトルの和訳は「罠」ではなく「抑留」みたいな単語の方が良かったのではないかと思いました。
女の行動を見ていると、どうやら離れ離れになった夫と息子を探しているようです。ただし、夫の生存は確認できている模様です。寄付を募って届けたり、配給所で20kgの米を受け取ったり、息子の捜索のためDNA検体を取ったりします。そうやってウロウロすることで、街の様子、市井の人々の様子が見えてくるといった構造です。印象に残ったのは、被災地のテントで、灯油を使わないようにと、役所の人がアナウンスしている場面です。どうやら、灯油ランプが、火事を引き起こしてしまったようです。
男の方は、ふだんサイドカー付きの自転車で人を運ぶ仕事をしています。奥さんを亡くしたようで、毎週、十字架を背負って街を練り歩く活動に参加しています。見るからに抑うつ感が強く、今にも消えてなくなりそうです。自分の信仰が足りなかったから、妻を亡くしたと考えているようです。
また、中盤になると台風がやってきます。立て直したぼろい家に住んでいる者、体育館に避難している人たちは不安な夜を過ごします。津波が来るという噂もありましたが、それはガセネタでした。
貧しい人たちがバラックを立てていた場所は、定期的に来る巨大台風の被害を最小化するために、建築禁止地区に指定されました。貧しい人たちは、ぼろ屋に戻ってわずかな家財を持ち出します。その際に、屋根のトタンを盗んでいる奴がいて、ボコボコにされます。
いよいよ終盤ですが、夫が戻ってきて「もう息子を探すのをやめよう。神のもとに行ったのだ」と妻に言います。また、役所が作成した慰霊碑のリストに息子が入っていなかったことに、女は激怒します。役所から帰る足取りは、ついに張りつめていた緊張感が切れたように見えました。
男は、台風による土砂崩れで、さらに叔母を失います。いつものように、十字架を背負って街を練り歩くのですが、途中で何かがぷっつり切れたように、行進からフラフラと離脱します。そして、エンディングです。
監督、出演者情報
本作は、2012年に制作された「汝が子宮」以来の、ブリランテ・メンドーサ監督と、名女優Nora Aunorのコラボです。まるでドキュメンタリー映画を見ているように、市井の人のそのままを演じてくれるNora Aunorは、メンドーサ監督と相性が抜群ですね。夫を演じたJulio Diazも、「ローサは密告された」で、メンドーサ監督とコラボしています。似たような役で、社会の流れに無力に翻弄される役を演じています。
作品情報
オリジナルタイトル:Taklub
公開年 2015年
監督 Brillante Mendoza(GENSAN PUNCH)(ローサは密告された)(Feast-狂宴-)(アルファ、殺しの権利)(リプレイス 絡みあう欲望)(囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件)(あの夏の欲望)(ヴァージンフォレスト 愛欲の奴隷)(汝が子宮)
主なキャスト Nora Aunor(汝が子宮)
Julio Diaz(ローサは密告された)
Aaron Rivera
視聴可能メディア Youtube(英語字幕)