本作は、日本のNGOがフィリピンのパナイ島で水道を引く事業を行った実話をもとに作られた作品です。大学生がスタディツアーで、現地の様子を知り、知らなかったことを知るという構成になっており、若い人には意味のある作品だと思います。しかし、フィリピンに住んだことがある、フィリピンの行政と仕事をしたことがあるという人にとっては、あまりに表面的、浅い理解で描かれていると感じられ、モヤモヤした印象だけが残る映画でした。海外のことを知らない人が撮ったという印象が強すぎるので、もう少し支援の現場のことを下調べしてから、撮って欲しかったですね。

(Photo cited from 映画.com)
「セカイイチオイシイ水 マロンパティの涙」のストーリー
女子大学生(明日香)が、友達にフィリピンへのスタディツアーに誘われるシーンから始まります。友達によれば、他の大学生との出会いの場でもあり、就職にも有利とのことでした。ビーチでのパーティもあると言っていましたが、そんなシーンはありませんでした。スタディツアーの実際を描くことも、支援の現場を知るには重要なので、ここはカットしないで欲しかったですね。
しかし、フィリピンへの渡航の当日になって、友達がインフルエンザになり、明日香は1人でフィリピンに行くことになりました。場所はパナイ島のパンダンというところだそうです。
パンダンは、地下水に海水が混ざるため飲み水に適していないので、日本のNGOが、10km離れたところの水源から水道を引く事業を行っていました。明日香が参加したのは、その体験ツアーでした。明日香は、フィリピン人家庭にホームスティすることとなりました。その家庭に住んでいる少女が、塩分の多い水のため腎臓病となり、父親が水道プロジェクトの発起人となったのです。
翌朝から、明日香は現場にいって作業を手伝います。スコップで地面を掘り、水道管を敷設していくという地味な作業でした。「なぜ重機を使わないのか?」と問う明日香に対して、現地の日本人スタッフは、「敷設しても、メンテナンスは現地の人がやらなければならない。だから、なるべく現地の人が関わるように、手掘りで行っている」とのことでした。しかし、フィリピン人の参加者は多いとは言えず、多くは日本人のボランティアに頼っている現状のようでした。しかし、他の参加者との交流は描かれませんでした。作品をコンパクトにまとめるために、そこは触れないことにしたのでしょうね。ちなみに、水源は町から10km離れていました。
また、このプロジェクトは、町長の母親によって監視されています。その理由は「戦争の記憶があり、日本人は何をするかわからないから」だそうです。現地の日本人代表は、頻繁に町長の元を訪れ、支援を要請しますが、「支援できない、ボランティアでやってくれ」と断られ続けています。このシーンも不思議なシーンでした。水源の利用や水道管の敷設のため、町長の許可は得られているはずなのに、この日本人は何の支援を求めているのでしょうか? もし、純粋に資金的なサポートならば、熱意の問題ではありませんから、頻繁に訪れる意味がわかりません。日本人に対して悪い印象を持っている人は、もちろんいるでしょうが、こんなにあからさまに罵る人が、しかも町長の母親という立場で、そんな人いるかなと、個人的には思いました。フィリピンなら、海外の支援で動いているプロジェクトは、たくさんありますからね。
このプロジェクトを実施しているNGOは、もともと様々な国で井戸を掘っていたようです。ある日、日本の事務所に支援要請の電話がかかってきて、現地の様子を確認したところ、塩分のため井戸水に適さず、団体として初めての水道プロジェクトが計画されたと言います。見積もられた予算は6000万円。団体としては、その規模の予算は用意できないから無理という判断でしたが、のちに現地代表者となる男の熱心さにおれて、プロジェクトは承認されたと言います。確かに、アジアなら井戸を掘るのに50万円くらいですから、その規模のプロジェクトをやっていた団体に6000万円は大きすぎる予算です。しかし、その割には豪華な会議室で役員会を実施しています。(なぜか役員を演じているのは格闘家ばかりです)。また、JICAや大使館の草の根のスキームの話が出ないのも不自然です。そうした公的資金を獲得せず、会員からの寄付だけで運営している団体なのでしょうか? 結局、偉い人の生命保険を使って実施することとなりました。確かに、最近生命保険の受取にNGOを指定することが増えてきており、数千万のお金が入ってくることはありますね。ならば認定NGOでしょうか? 団体の設定があやふやなのが気になります。
(ネタバレ)やがて、副題のマロンパティの涙の意味がわかります。マロンパティとは、現地の民話のワニの物語で、ワニが流した涙が泉になったというものです。このワニの物語にちなんで、明日香は小学校で、ワニの折り紙を教えました。このシーンも、とりあえず折り紙という安直な感じがしましたね。また、ワニは、フィリピンでは、不正を行う政治家や役人を意味していますから、水道事業とワニという組み合わせだと、あまり良いイメージにならないですね。明日香が帰国するころには、町長の母親もボランティアに参加するようになっていました。うーん、ともかく展開が安直です。
1週間のツアーを終えて、明日香は帰国します。その後は、再びフィリピンに行くためにバイトに明け暮れます。明日香は、その後頻繁に現地に行ったようです。3年後、ついに水道が開通しました。足掛け、9年のプロジェクトだったそうです。安全な水を待ち望んでいた少女ですが、病態が悪化して入院していました。明日香が、開通した水道から出た綺麗な水を届けると、少女は「美味しい」と言って微笑みます。そしてやがて息を引き取りました。明日香は、少女からもらった手紙を読んで泣きます。そしてエンディングです。エンディングでは、実際のプロジェクトの写真が多く使われ、少し雰囲気がわかりました。
おそらく、大学の教材として使ってもらえるように90分以内にまとめたかったのでしょう。そのため、非常に表面的なドラマになってしまいました。それでも、開発の現場のリアル、ドロドロとした部分も少しは描いて欲しかったですね。
「セカイイチオイシイ水 マロンパティの涙」の出演者情報
日本人監督、出演者については、本サイトで扱う必要がないので、フィリピン人俳優に注目すると、作中で印象的な少女を演じたMiel Espinozaさんは、フィリピンでは有名な子役です。すでに25本の出演作があり、フィリピン映画では良く見かける子供です。こんな田舎に住んでいるにしては、不自然に綺麗な英語を喋っていましたね。
「セカイイチオイシイ水 マロンパティの涙」の作品情報
オリジナルタイトル:セカイイチオイシイ水 マロンパティの涙
公開年 2019年
監督 目黒啓太
主なキャスト 辻美優
赤井英和
Miel Espinoza(Pan de salawal)
視聴可能メディア U-NEXT、DMM TV(見放題)(日本語)
Amazon Prime Video(レンタル)

