表題を見ても、フィリピン社会のことを良く知っていないと、意味がわからないかもしれません。フィリピンでは、地域の政治家が少年犯罪の撲滅などに力を入れている場合、私兵(Death Squad:DS)を用いて、少年ギャングや麻薬中毒者を超法規的に殺してまわっているということがあります。日本人には、ちょっと想像するのは難しいと思いますが、フィリピン人は、治安が良くなるので、ある程度そういうギャング的な政治家を受け入れているところがあります。本作では、美容サロンを営むゲイの少年が、なぜか行政が作った麻薬中毒者のリストに載っていることを知ります。彼の住む町では、そのリストに載った者は、全員DSに殺されているという現実があり、あわてて各所に陳情に駆け回る一夜を描くお話です。深刻なテーマではありますが、主人公らが訪れる行政関係者がことごとくいい加減で、ブラックなジョークになっています。本作は2021年のマニラ映画祭でグランプリを受賞した作品です。このブラックジョークは、日本人にも笑えるので、いつか日本でも日本語字幕付きで上映してもらいたい作品です。

(Photo cited from IMDb)
「Big Night!」のストーリー
夜間10時以降の外出禁止を呼びかける車が、町のなかを走っています。これは、Death Squad(DS)がいる町の典型的な風景で、さっそく何者かが殺され、殺し屋は2人乗りのバイクで逃走しました。典型的なDSによる殺人です。とは言え、明るい音楽が流れ、主人公の登場です。主人公は、小さな美容サロンを経営しているゲイの少年で、ダルナを名乗っています。ダルナとは、フィリピンで人気あるコミックの女性スーパーヒーローの名前です。
ダルナの日常生活が少し描かれたのち、彼の友達が、ダルナが麻薬中毒者のリストに載っていることを知らせます。これは行政が作ったもので、警察に送付されたのち、監視されることになるのですが、この町では、リストに載ったものはDSによって皆殺されています。ダルナは麻薬などには手を出していないので、びっくりします。ちなみに、このリストは友達が行政関係者と寝た時にもらえたとのことです。
そんなリストに載っていては命が危ないということで、ダルナは、自分のお客さんでもあり、行政関係者であるマダムを訪れました。マダムは忙しく、殺されるということに「あれは単なるうわさだ」とまるで取り合ってくれません。やむなく、3か月の無料サービスを提案したところ、リストを制作した男を紹介してくれました。
次は、その男を訪れて、嘆願するも「監視カメラが見ているのだ」と言うばかりで相手にしてもらえません。しかし、翌日には、このリストは警察に送付されることを知り、命の危険を感じたダルナは、この男を追い回し、その間色んなこと(叔母が無資格でやっている助産所で出産を助けるシーン、公務員なのにゲイバーのオーナーになって楽しむマダム、なぜか化けて出てくる母親など、コミカルなのか深刻なのかわからないシーンがあります)もあったのですが、何とか男がマッサージを受けているところに突入して、さらなる情報を得ました。というのは、ダルナの名前は、自分が住んでいる町ではないところの、麻薬中毒者を告発する投書箱によって、名前が出てきたのだというのです。
(ネタバレ)次に、ダルナは、紹介された地方政治家を訪れます。政治家は、ダルナの申し出により、投書箱の中を見せてくれます。確かに、自分の名前が書かれた紙が何枚も出てきました。政治家は、これだけ名前が告発されると、リストに名前を乗せざるを得なかったと言います。それでも、何とかしなければ命の危険があります。そこで、政治家から取引を持ち掛けれます。持ち掛けられた仕事というのは、病人のふりをして救急車に乗ることでした。後にわかるのですが、その救急車は麻薬を運んでおり、麻薬検問を突破するために、誰かが病人を演じるという必要があったのです。なんと、えん罪なのに麻薬中毒者のリストから外してもらうために、政治家が麻薬を売る手伝いをさせられることになってしまいました。不満ですが、命には代えられません。結局、ゲイ仲間の2人で仕事をやりとげ、悪徳政治家の手駒になってしまいました。仕事ののち、マダムから電話がかかってきます。それは、政治家は裏で麻薬を売っているから近づかない方がいいという警告の連絡でした。だから、自分は詳しいことを言いたくなかったのだと、彼女はいいます。しかし、時すでに遅し。最後にシーンでは、ダルナがすっかり裏家業に染まっていることを暗示させるショットで終わります。
全く身に覚えがない上に、勝手にリストに乗せられ、自分の無実を晴らそうとするもいい加減な対応しかしてくれない行政、さらには、コンプライアンスはどうなっているんだと思わせるシーンが続いたのち、最後にもっと悪い悪党が出てくるという構成が良いですね。しかも、リストに載ると殺される可能性が高いという、フィリピンでしか成立しない危機を主軸に置いたのも上手いですね。さすが、その年のグランプリを受賞する作品だと思いました。DSのことは、作中では説明されないので、フィリピンのことを知らない人には、意味がわからないところもあり、そのため海外に輸出されていないのかもしれません。
「Big Night!」の監督、出演者情報
本作品で監督をつとめたジュン・ラナさんは、「ダイ・ビューティフル」「ある理髪師の物語」などで国際的評価も高い監督さんです。近年では、フィリピンの喜劇王、ヴァイス・ガンダさんと組んでますます絶好調です。ジュン・ラナ監督の作品は、英語字幕が付いていることが多く、ほとんど見ることができるので、今後も少しずつ見て行こうと思います。俳優陣では、強烈な芸風で知られるEugene Domingoが、マダムを好演して印象に残りました。
「Big Night!」の作品情報
オリジナルタイトル:Big Night!
公開年 2021年
監督 Jun Lana(ダイ・ビューティフル)(Ten Little Mistresses)(Haunted Mansion)(Bwakaw)(Call Me Mother)(そして大黒柱は…)(Kalel, 15)(Barber’s Tales)(Becky and Badette)(The Panti Sisters)
主なキャスト Christian Bables(ダイ・ビューティフル)(The Panti Sisters)
Nico Antonio
Eugene Domingo(Ten Little Mistresses)(悪キャラ養成アカデミー)(Ang babae sa septic tank 2: #ForeverIsNotEnough)(Barber’s Tales)(Becky and Badette)
視聴可能メディア ロシアの怪しいサイト(英語字幕のみ)

