私も、フィリピン映画をそれなりの数見てきましたが、フィリピン映画で推理ミステリー映画を見るのは2作品目です。1作目は、「Smaller and Smaller Circles」で、2人の神父が事件を捜査していました。本作は、お金持ちの誕生日会に招待された10人の愛人が容疑者で、2人のメイドが殺人事件を捜査します。数少ない推理ミステリー作品の主人公らが刑事ではないのは、フィリピン警察が信頼されていないからでしょうか?
本作はAmazon Prime Videoで偶然発見した作品です。Filmarksでは、日本語字幕がない作品は掲載されない仕様らしく、外部サイトを使っても日本語字幕がないフィリピン映画を探すのは困難です。また、Amazonでは、フィリピンのようなマイナーな国で映画を検索する方法がない上に、映画の詳細情報を見ても製作国情報がないので、フィリピン映画を探すのは関連映画を丁寧にたどっていくしかありません。本作は、偶然見つかったわりには拾い物の作品でした。

(Photo cited from IMDb)
「Ten Little Mistresses」のストーリー
オープニングはメイドたちの歌とダンスです。これはミュージカルなのかな?と思いましたが、歌と踊りは最初だけでした。メイドたちを仕切るメイド長が、本作の主人公(リリス)です。徐々に明らかになってきますが、この豪邸の主である男(ヴァレンティン)の妻が亡くなり、10人の愛人たちが、彼の誕生日に招待されました。そのため、女たちは次の正妻が発表されると考え、意気込んで乗り込んできたのです。10人の女たちは、非常に個性的です。占い師や美容整形外科医、インフルエンサーらが派手に着飾ってやってきました。仮面をつけたゲームのキャラクターみたいな人さえいます。女たちの醜い争いをひととおり見てから、ヴァレンティンの登場です。
この10人の中の誰が選ばれるのだろうと思って見ていると、実はヴァレンティンはメイド長とすでにできていました。この機会に、10人の愛人に高価なプレゼントを与えることで関係を清算し、メイド長との結婚を発表するというのです。豪華なプレゼントが発表し、会場が盛り上がっているところで、ヴァレンティンはいつものサプリメントを飲んだところ、死んでしまいました。しかし、奇妙なことに倒れたあと、会場の電気が消え、死んだことが確認された時とは、死体の向きが変わっているように見えました。また、ヴァレンティンには双子の弟(コンスタンチン)がおり、彼もパーティに招待されていました。これだけでトリックは予想できますが、ことはそうすんなり進みません。
しかも、いきなり犯人が自白しました。それは仮面の女でした。その女は実は男で、歌姫であった姉がヴァレンティンの愛人となってから歌わなくなったので、殺したと自白しました。犯人がわかってしまっては、捜査をする必要もなかったのですが、メイド長がいくつか不審なところを発見し、殺されたのは、ヴァレンティンではなく、弟のコンスタンチンであることが明かされます。また、金持ちの兄が、わざわざ弟を殺す理由がありません。体の小さな特徴だけでは、証拠が十分ではないと、女たちで話し合い、ヴァレンティンがアレルギーのあるピーナッツを食事に入れて反応を見ることとなりました。ヴァレンティンは、ピーナッツを食べると、喋れないほど口が腫れるのだそうです。
(そろそろネタバレ)また動機を探るため、女たちはヴァレンティンの日記を探します。携帯の中に書かれた日記には、父から相続した財産を、今頃になって弟が欲しいと言ってきたから殺すと、日記には書かれていました。またリリスとの結婚はダミーで、彼女に責任を負わせるつもりだというのです。また、ピーナッツで口が腫れた男をみて、リリスは怒りのあまり、ヴァレンティンを叩き殺してしまいました。
(ネタバレ)おいおい、2人とも死んでしまったぞ、どうなるんだ?と思っていたところ、ヴァレンティンの死体だと思っていたらコンスタンチンの死体だとわかった死体の身体的特徴が、偽装されたものだということがわかりました。つまり、最初に死んだのはやはりヴァレンティンだったのです。そして、この偽装ができたのは、リリスだけであるという事実にたどり着きます。女たちの追及に、リリスはあっさり白状します。リリスは亡くなった奥様に傾倒しており、自分が死んだあとに復讐して欲しいという依頼を受けていたのです。復讐の相手は、多くの愛人を持って遊んでいる夫のヴァレンティンであり、夫のふりをして自分を犯した弟のコンスタンチンであり、妻を軽んじている10人の愛人でした。
自分の罪を認め、晴れ晴れした表情で警察が到着するのを待っているリリスに対して、数人の女たちが告白しました。実は、自分もヴァレンティンの薬をすり替えて毒を入れたと。年老いた女たちは、このパーティで自分が選ばれないと思っていたので、発表される前に殺そうとしたというのです。リリスは、女たちに語ります。今日はわたしたち女が解放された日だと。そしてエンドロールです。
いつものように、倫理観について思うところもありますが、意外にもちゃんとした推理ミステリーでした。10人の女たちの個性も強く、コメディとしても優秀な作品でした。面白いなと思ったのは、自分たちで捜査して推理するのは、警察がすぐにはたどり着けない理由があるからです。本作でも台風のため警察が到着できないという割には、女たちはプールで遊び、芝生でヨガをして愉しみます。嵐の中の洋館に閉じ込められて、登場人物が疑心暗鬼にお互いを疑いあうというのは、フィリピンの国民性とあわないようです。
「Ten Little Mistresses」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたJun Lanaさんは、すでに多くの映画の監督をつとめています。「ダイ・ビューティフル」「そして大黒柱は…」などコメディ映画で有名な作品がありますが、「ある理髪師の物語」のように硬派な社会派映画にも代表作があります。今後の活躍が期待されます。フィリピンらしい推理ミステリー映画のスタイルを生み出して欲しいですね。役者さんもたくさん出ていて、なかなか大物が出ています。10人の愛人の中で、おそらく最も大物はAgot Isidroさん。日本で見やすい作品としては「パラサイティック」にも出演しています。
「Ten Little Mistresses」の作品情報
オリジナルタイトル:Sen Little Mistresses
公開年 2023年
監督 Jun Lana(そして大黒柱は…)(ダイ・ビューティフル)
主なキャスト Eugene Domingo
John Arcilla(メトロマニラ 世界で最も危険な街)(Fuchsia Libre)
Agot Isidro(パラサイティック/モーテル・アカシア)
視聴可能メディア Amazon Prime Video(英語字幕のみ)