
オリジナルタイトルの「And The Breadwinner is….」のBreadwinnerという単語は、私がフィリピンに関わるまで知らなかった単語です。というか、今までフィリピン人からしか聞いたことがない言葉です。日本語で言うところの「稼ぎ頭」とか「大黒柱」で、稼いで家族を養っている人のことです。日本で働いているフィリピンパブ嬢なども例外なく、Breadwinnerですね。家族に仕送りをしているという話を聞いたことがあると思います。本作では、フィリピンの喜劇王バイス・ガンダが、Breadwinnerの大変さを描いた作品です。バイス・ガンダの普段の作風はナンセンスコメディですから、だいぶ作風が異なります。バイス・ガンダも年を取って、やや社会的なテーマを扱うようになったのでしょうか?とは言え、映画の大半はバカバカしいお笑いで構成されています。
「そして大黒柱は…」のストーリー
本作の主人公バンス・ガンダが演じるバンビは、台湾で働く出稼ぎ労働者です。必死で働いて貯めたお金を家族に送っています。家族からはいつもおねだりのメッセージが届き、お金を送ると、そのお金で〇〇を買ったよ!という喜びのビデオメッセージが届きます。バンビは大変な生活を送りながらも、やりがいを持って働いています。ところが、会社の人員整理が行われ、自分はクビにはならなかったのですが、クビになった同僚のフィリピン人が不憫になり、自分が代わりにクビになることを選びました。そして、ちょうど自分の誕生日を家族と祝おうと、こっそり帰国して家族のもとに戻ります。
ところが、家族から送られてきたような立派な家はどこを探してもありません。代わりにあるのが、古くさびれたかつての我が家です。不審に思いながら、その中に入っていくと家族がおりました。家族は、泣きながら、送ってもらったお金で事業を始めたが失敗した、自分たちは嘘をついていたと弁明します。自分の送ったお金で立派な家が建っていると信じていたバンビは、廃墟のような我が家にショックを受け、家を出ますが、その道中でバスが事故にあいます。たまたま、隣に座っていた男に、上着を盗まれたこともあり、警察に自分が死んだと認識されてしまいます。家族はショックを受けながらも、葬式の準備をし、弔問を受けているところに、何も知らないバンビが帰ってきます。驚きと喜びでバンビを迎える家族ですが、そこにちょうど保険屋さんがやってきて、1000万ペソの死亡保険を受け取ることができると言われて、また雲行きが怪しくなります。
家族は受け取った香典を返せないといい、この死亡保険がなければ家を手放さなければならないという、新事実を告白します。なんと、バンビが送ったお金で事業が失敗しただけでなく、家を抵当に入れて借金までしていたのです。その後、バンビが死んだことにして、保険金を受け取ろうとするドタバタコメディが始まりますが、当然のように失敗。そして、にっちもさっちもいかなくなった家族は、むしろ「家を抵当に入れてビジネスをして、失敗したが、それは自分たちが悪いのか?」と開き直ったり、「俺たちが苦労していたときに、お前はどこにいたんだ?」ど逆ギレする始末。また、若い甥っ子には、「バンビは愛を知らないから海外で働けるんだ。自分は愛をしってしまったからそれはできない」などと言われます。さすがにブチ切れたバンビですが、あまりに可哀そうです。
(ネタバレ注意)また、バンビは末期の癌であったことが、ここにきて初めて明かされます。だから、自分の家に帰ってきたと。ついに、自分たちの行動を恥じた家族は、バンビのために毎日パーティをしてあげて、バンビは安らかに眠りにつきます。日本人からすると、これでいいのか?という感じですが・・・。
我々がフィリピン人からよく聞く、ぶら下がり家族のものがたりでした。家族の感覚があまりに日本人と違うのがよくわかると思います。フィリピンの家族を理解するための教科書のような映画ですが、残念ながら英語字幕しかありません。大阪アジアン映画祭で上映したことがあるらしいので、日本語字幕はあるはずなのですが、Netflixさんは字幕を購入してくれないのでしょうか? 最後の最後も、結局パーティをしてくれるだけで、自らお金を稼ごうとしない家族でした。結局、本当にバンビが亡くなったので、死亡保険で借金を返したのでしょう。フィリピン人と交際されている方がおりましたら、震えながら、この映画を見てもらいたいですね。
「そして大黒柱は…」の作品情報
オリジナルタイトル:And the Breadwinner Is…
公開年 2024年
監督 Jun Lana
主なキャスト Vice Ganda(ホゴシャはつらいよ!)
Eugene Domingo
Maris Racal(Sosyal Climber)
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)(見放題)