フィリピンでは、街中で頻繁にゲイカップルを見かけます。日本人は人前でやらないだけで、数としては同じくらいいるのかも知れませんが、少なくとも見かける数は圧倒的に多く、その辺の公園で、あるいは喫茶店で抱き合ったり、キスをしているところを見ることが全く珍しくありません。日本よりも社会で受け入れられているのかと思いきや、本作は他の映画でもそうですが、年配世代にはまだまだ拒否感が強いようで、親が日本よりも激しい拒否感を示すことがあるようです。一方で、レズの方はというと、フィリピンに限らず、東南アジアでは若い女性が手をつないだり、腕を組んで歩いくことは普通のことなので、それがレズカップルなのかはわかりません。しかし、人前で女性同士がキスをしているのは見たことがないです。なぜなのでしょうね?
さて、私自身は、トランスジェンダー傾向が全くないので心情的には理解できないのですが、本作はゲイに生まれた男が、トリシャとして女に生まれ変わり、死んでなお自分の生きざまを周囲に見せつけ、いつの間にか大きなムーブメントになっていくというお話です。そのための仕掛けがなかなかトリッキーで、死んだあと7日間の通夜のあいだ、毎日違う有名人のメイクをするようにと遺言を残していました。毎日変わる有名人さんのそっくりさんメイクが、話題を呼び、芸能人などを巻き込み、大きな話題になっていきます。トリシャの一世一代のパフォーマンスが恰好良かったです。また、父親に最後まで受け入れられなかったこと、愛されていると思ったら、それは幻でしかなかったことなど苦い思い出の数々、ひきとった養女とのかけがえのない時間などが、回想されます。東京国際映画祭をはじめ、様々な国際映画祭で多くの賞を受賞した作品でもあります。

(Photo cited from IMDB)
「ダイ・ビューティフル」のストーリー
最初のシーンが非常に混乱をまねくのですが、小学生くらいの綺麗な女の子が、様々なミスコンに出場して賞をもらいます。主人公の子供時代かと思ったら、中盤にわかりましたが、それは主人公が引き取った養女でした。主人公は、自分がミスコンに出るだけでなく、娘もミスコンに出させていたのです。
さて、本当の物語の始まりは、主人公(トリシャ)が亡くなって棺に入れられているシーンから始まります。トリシャは何らかの癌だったのですが、化学療法のお金が払えないこと、仮に払ってしまうと、養女にお金を残せないことから、化学療法を受けることを拒否していたことがわかります。しかし、直接の死因はクモ膜下出血だとのことです。念願のミス・ゲイ・フィリピンを受賞して、スピーチをした直後に倒れて、そのまま亡くなったとのことです。トランスジェンダーの友達は、トリシャの遺言にしたがって、毎日異なる有名人のメイクを7日間続けることを語ります。フィリピンの通夜が長いことは知られていますが、暑いフィリピンでどうやって、そんなに長く遺体を痛めないで保持しているのでしょうか? 映画の知識ですが、貧しい人のお通夜も長く行われていることがあり、エアコンも効いていないのに不思議です。
その後、トリシャがまだ男性だった時代の回想となります。父親は激怒しており、外出の禁止を命じますが、その日も外出し、ついに彼は家を出る決意をします。その後のシーンは通夜のシーンと、トリシャの人生のいろいろなシーンとが行ったり来たりなので、ストーリーを追うのが難しくなります。目立ったエピソードを拾い上げると、最初のボーイフレンドのシーンです。ボーイフレンドは、男性のストリッパーでした。トリシャは、彼に鼻を高くする整形代を払ってあげてモノにしたようです。この映画のトランスジェンダーの登場人物は、全員鼻を高くしていました。日本では整形と言えば、とりあえず目を大きくすると思いますが、フィリピンでは鼻を高くすることから始めるようです。若い男は、トリシャと結婚するなどと言っていたのですが、他のゲイと浮気したようで、すぐにお別れとなりました。
養女との出会いのエピソードは重要だと思うのですが、作中では説明されていません。出生届も出されていない子供だと語られています。トリシェが死んだときには、彼氏のところにおり、実は妊娠しています。トリシャに伝えることができないまま、トリシャが亡くなってしまいました。ミスコンに出されることについては「嫌いだ」と言いますが、トリシャを愛していることは明らかです。
お通夜のシーンでは、次々と有名人が訪れます。フィリピンでは、遺体と一緒に写真をとったり、他の訪問客と一緒に写真を撮ってSNSにあげることは普通なので、どんどんトリシャの死は拡散していきます。それがまた次の訪問客、次の有名人の訪問へと繋がっていきます。有名人の1人は、トリシャをもっと綺麗にするために自前のウェディングドレスを持ち込み、それを(カットしないと着せれないので)ハサミでカットして、トリシャに着せたりもします。
(ネタバレあり)トリシャのとっての苦しいシーンも回想されました。それは、彼がまだゲイに目覚めたころのことです。はやく初体験を済ました方がいいと言われ、男友達に挿入されるのですが、4人に次々と入れられることとなり、トリシャにとってはレイプと感じられました。
ある時バーで素敵な男と出会います。すぐに2人は恋人になるのですが、ある日、彼の妻から呼び出されます。どうなることかと思ったところ、実は彼は白血病が再発して余命いくばくもないというのです。そして、重大な告白を彼から聞きます。彼はトリシャの初体験のときの4人目であり、そのことでずっと罪悪感を持っていたのです。そのためトリシャを見守っていたという告白します。トリシャは、彼が苦い体験と結びついていたことよりも、愛されていたのではなく、彼の罪悪感のために優しくされていたということにショックを受けました。その男はのちに亡くなりました。ところで、お通夜のシーンで夫には連絡したが来ないと、友人たちが言っていましたが、誰のことだったのでしょうか? まだ、他にも恋人のシーンがあって、そこはカットされたのでしょうか?
最後に遺体の問題です。当初、トリシャの遺体は、家族のもとに引き渡されました。しかし、おっぱいがついている遺体に、父が激怒。これをもとに戻すための整形師に頼むといって、出て行った隙に、トリシャに同情する姉が、ゲイ仲間に連絡して遺体を盗み出したのです。SNSでトリシェの通夜が拡散することで、父に見つかるのではないかと心配していましたが、父がやってくるようなシーンがありませんでした。
そして7日目。トリシャのメイクは、トリシャ自身でした。彼女は多くの人に囲まれて、最後の7日間を過ごしたのでした。
SNSで拡散することで大きなムーブメントになるのは、素晴らしいアイデアだと思いましたが、もっと大きなムーブメントになっても面白かったかなと思いました。最後は数万人が訪れるような。あと、同じようにトランスジェンダーに悩んでいるひとたちが、みんな押し掛けるような描写があれば、そして、それをみた父親が少しでも息子の生き方の価値を認めてあげるようなシーンがあれば、もっと感動的になったんじゃないかと思いました。
「ダイ・ビューティフル」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたJun Lanaさんは、監督作品だけでもテレビドラマを含めて53作品もある、超ベテラン監督さんです。私の見たことのある作品や、他の作品のタイトルからみると、ややコメディよりのドラマ作品を得意としている監督さんのようです。本作の主演をつとめたPaolo Ballesterosは、ゲイではありませんが、ドラァグクイーンなのだそうです。他の作品「Barbi: D’ Wonder Beki」でもゲイ役の主人公を演じています。男性自任なので妻も子供もいるようです。
「ダイ・ビューティフル」の作品情報
オリジナルタイトル:Die Beautiful
公開年 2016年
監督 Jun Lana(そして大黒柱は…)
Christian Bables
Joel Torre
視聴可能メディア TSUTAYA DISCAS(日本語字幕)