「ダイ・ビューティフル」「ある理髪師の物語」などで国際的評価も高く、最近では「そして大黒柱は・・・」「Ten Little Mistresses」でも絶好調な監督さん、ジュン・ラナさんが、めずらしくホラー映画を撮ったというのが本作です。フィリピンでは1本はホラー映画を撮らなければならないという通過儀礼でもあるのでしょうかね? ホラー映画以外で名をあげた監督さんでも、キャリアの中で1つはホラー映画を撮っています。内容としては、ただ恐怖体験から逃れるだけでなく、霊を見る能力がある主人公が、霊と対話することで、怪異現象を引き起こしている悪霊を退治する行動をするというのが、面白いところです。とは言え、ホラー映画ですので、主人公がその能力を積極的に活用して事態の解決に動くのは最後の最後で、物語の大半がよくあるホラー映画になってしまっています。もうちょっと早く動き出したら、もっとスリリングな物語になったように思います。

(Photo cited from IMDb)
「Haunted Mansion」のストーリー
最後まで見ると、冒頭のシーンが何だったのかと思いますが、暗い闇の中、屋敷の中から女の叫び声が聞こえます。それは母親の叫び声だったのでしょう。少年が「お母さん」と呼びながら、母親を探します。最後まで見たときには、完全に忘れていましたが、この少年は物語の中で出てきているのではないかと思うのですが、誰だかわかりませんでした。
さて、本編の始まりです。高校が舞台で、主人公の女性(エラ)は、「狂人」と呼ばれています。かなり後半になって、その理由がわかるのですが、先にネタを明かしておくと、彼女は霊が見えるため、そのように呼ばれているのです。ちなみに、霊が見えるを英語で言うと「I have a third eye」と言うのですね。これは使えそうな英語です。
ですので、エラは時々学校の中でも恐怖体験にさらされているのですが、それ以上に問題は彼女が、そのためいじめられていることです。しかも、彼女のことを好きな男の子が2人おり、そのため、クラスの中心的な女子3人組に嫌悪されています。エラには、いつも一緒にいる友達がおり、その子が生き物係みたいな顔をしているのが印象的でした。
エラの家は普通の経済力ですが、学校がお金持ちの子息向けの学校です。理科の実験室も日本の学校みたいです。そして、リトリートイベントで、田舎のお屋敷に滞在することになりました。リトリートとは、フィリピンやアメリカ系の企業ではよくなるのではないでしょうか? 職員の親睦をはかるために、小旅行に行くイベントのことです。私は、スービックのビーチホテルに行ったことがあります。普通は、ビーチホテルで夜はカラオケでしょうと思うのですが、彼女の学校は渋いことに、田舎のお屋敷に滞在することとなりました。
説明によると、かつてはお金持ちのお屋敷だったのが、リトリート用に改装されたのだそうです。そんなこと言うなよとは思いましたが。主人公は、初日に屋敷で女性が首を吊るシーンを夢で見ます。屋敷の従業員によれば、お屋敷の奥様が従業員にレイプされて首を吊ったと聞いたと語ります。また、この屋敷に滞在した学生が死んだ話を始めます。そんなところに、リトリートで来るなよとは思いますね。
その後、お屋敷では様々な怪奇現象が起こります。しかし、そのうちの一部は学生たちの悪ふざけで、そのため悪ふざけに関わった学生と、そのターゲットになったエラと友達は、他の学生が帰ったあと、もう1泊屋敷に滞在するよう、先生に指示されます。
屋敷に付属する礼拝堂で働く司祭みたいな人(ファザーと呼ばれている)のもとで、反省会をしますが、その夜、また学生たちは霊の存在を確かめようと、懺悔部屋の中にスマホをしかけて、その声を録音しようとします。そして、そのスマホが霊の声を録音してしまったことから、大変な惨劇がはじまりました。その録音を聞いたものが次々に舌を抜かれて殺されていきます。どうやら、録音が怪しいと、みんなで聞いてみたところ、それは自殺した女の告白でした。
(ややネタバレ)女は屋敷の主人である2人姉妹の妹でした。彼女は、従業員の男と関係を持っていたのですが、姉はもっとお金持ちと結婚するようにと、2人を引き離してしまいます。そして、姉は妹が従業員の男にレイプされたと噂を流したのです。しかも、姉は黒魔術にも通じており、住民を操り、従業員の男の家に火を放たせ殺害したのです。
(ネタバレ)その話を最後まで聞いて、エラが気づきます。この話を聞いた人が、舌を抜かれて殺されたということは、悪霊の正体は姉で、この録音を聞いてはいけなかったのでは・・・と。そこからは、残った学生と教員が殺されるシーンです。ひたすら逃げ惑う主人公ですが、これまで見ていた霊は、悪霊の行いと止めさせるために、彼女に語り掛けていたのだということに気づきます。あらためて、霊と対話して、姉の死体を墓から掘り起こして焼くことで、この黒魔術を止めることができることを知ります。生き残ったひとで、姉の死体を焼くことでようやく、この惨劇に終わりが訪れました。しかし、3か月後、エラは再び姉の悪霊に襲われます。危ういところでしたが、マリア像にかかっていたネックレスを悪霊にかけたところで、姉の悪霊は完全に燃えてなくなりました。ようやく、本当に平穏が訪れました。
結局、最初の男の子は誰だったのでしょう。従業員と付き合う中で妊娠したとは言っていましたが出産の話はありませんでした。それにすぐに自殺しているはずですし。また、最後にもう1度姉の悪霊が襲ってきたのも蛇足でしたね。しかし最も惜しいのは、エラが霊と交信できるということを、前半でもっと示しておくと良かったと思いました。それがなく、怪奇体験を余分にしているだけでは、後半の展開につながりませんからね。また、エラと交信して事態を終息させたいと思っているのは、焼かれた男だと思うのですが、彼があらわれるシーンと、姉が操っている悪霊の区別がつきません。そこが区別されていれば、ラストももっと説得力があったと思うのですが・・・。そこそこのホラーでしたが、ジュン・ラナ監督が撮るほどかな、というのが正直な感想です。
「Haunted Mansion」の監督、出演者情報
本作品で監督をつとめたジュン・ラナさんは、「ダイ・ビューティフル」「ある理髪師の物語」などで国際的評価も高い監督さんです。本作は10年前の作品で、まだ監督としての地位が確固とする前の時代の作品なので、平凡なホラーになってしまったのかもしれません。ヒロインを演じたJanella Salvadorさんは、私はがかつて見た「Under Parallel Skies」では、快活な女性を演じていましたが、ホラー映画中心に出ている女優さんのようです。確かにベラベラ喋るよりも、押し黙っているときのほうが魅力がある女優さんです。
「Haunted Mansion」の作品情報
オリジナルタイトル:Haunted Mansion
公開年 2015年
監督 Jun Lana(そして大黒柱は…)(ダイ・ビューティフル)(Ten Little Mistresses)
主なキャスト Janella Salvador(Under Parallel Skies)
Sharlene San Pedro
Marlo Mortel
視聴可能メディア Youtube(英語字幕のみ)