私は、「ワンカットで制作した」「監督の実体験に基づく」という本作品のウリを知らずに見始めたので、最初何が何やらさっぱりわかりませんでした。そうした基本情報を頭に入れて、インディーズ映画として新しいことに挑戦した作品として見れば、それなりに興味深い作品です。そういうことを知らずに見ると、子供を誘拐され、警察が部屋に張り込んでいる家族の隣の部屋で、赤ん坊の育てかたについて談笑している家族がカメラ移動だけで映し出されるため、まさか犯人たちの様子を映しているだなどと想像することもできず、意味がわからないまま後半に入ってしまいます。また、字幕の問題ですが、誘拐されたのを「息子(son)」とされていたので、小学生くらいをイメージしていたので、誘拐されたのが「あかちゃん」としてくれていれば、比較的早く、赤ちゃんの世話をしている家族が犯人グループだと見当がついたと思います。この特殊な撮影方法が、一般の視聴者には完全に裏目となってしまっています。マルコスシニア時代の迫害も暗示されていますが、直接は関係なく、この試みも不発という、実験性だけが話題になった作品じゃないかと思います。本作は、2015年の東京フィルメックスで、邦題「人質交換」として上映されたことがあるそうです。

(Photo cited from IMDb)
「人質交換/Swap」のストーリー
誘拐事件が起こり、警察が犯人からの会話を聞いているところから始まります。子供が誘拐され、すでに1週間経過しています。犯人の目的がわからず、時間だけ経過する事態に、両親と警察が疲弊しています。その後、赤ちゃんの育てかたについて井戸端会議している人たちの姿が描かれ、その中で政治に対する不満などが語られます。映像的には、警察が待機している隣の部屋の出来事ですから、これが犯人のグループであるなど、見ているときには想像もできませんでした。なぜ、誘拐事件が起こっているのに、同じ屋根の下に住む、この人たちはこんなにのんきなんだと思っていました。
その後も、赤ん坊と一緒にいる人たちの一家だんらんが描かれるばかりで、ストーリーは進展しません。いよいよ、表題の人質交換が犯人から提案されたのは、55分経ったところです。犯人によれば、誘拐した子供の家庭にはもともと興味がなかった。なので、被害者家族が仕事で仕える金持ち家族の子供と人質を交換して欲しいという申し出でした。警察も聞いているというのに、何という馬鹿な提案でしょうか。しかも、戸惑う父親に対して、「1人では無理だろうから、自分が送る2人と合流しろ」と言う始末です。
(ネタバレ)父親は意を決して、現場に行き2人の男と合流します。そこに警察が突入し、1人を射殺、もう1人も怪我をさせ、子供の居場所を白状させます。「知らない」という男に、警察は容赦なく、発砲し肩に弾丸を撃ち込みました。さすがに、これには観念して子供の場所を白状するしかありません。すぐに、警察は記者会見を用意し、まだ子供と再会していない両親をマスコミの前に引きずりだします。そして、犯人とも対面させます。不思議なのは、マスコミが「犯人を許しますか?」としつこく聞くことです。フィリピンは、間違いを犯した人、罪を犯した人を許すことが非常に重視される文化とは知っていましたが、子供の無事が確認できていない段階で、「犯人を許しますか?」と聞く文化には驚きました。そして、さらに驚くことに、母親は「許します」と答えました。その後、警察によって子供が連れてこられ、両親は歓喜の涙を流します。
最後は、そのシーンに袋を頭に被った人たちの集団があらわれます。その後、軍隊が逮捕した人々の頭に袋をかぶせ、連行する姿が描かれます。そして、新人の警官が「彼らは何なんだ?」と問います。それに、ベテラン警官が「彼らは抗議者だ」と答えます。そして、エンディングです。
まず、ワンカットで撮影する手法のため、カメラが隣の部屋に移動すれば、それは違う時間、場所を描いているかもしれないという考えがなければ、全くついていけなくなります。私はこれに気づくのに60分かかったので、赤ちゃんを誘拐した人たちの会話を、ただの市井の人の会話だと思って聞いており、全く印象にとどめることができませんでした。これが1つの大問題です。2つ目は、政治犯として連行される人々との類似を仄めかしていますが、これも無理があり過ぎると思われます。赤ちゃんを誘拐した人たちの考えは、前半の団らんのようなシーンで語られていたのでしょうが(私は注意して見てなかったので覚えていませんが)、それは個人的な動機だと思われ、国家として政府に反対する人を取り締まるのとは類似したものとは思えません。珍しいことをやろうという意気込みだけが空回りしている作品だったと思います。
「人質交換/Swap」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたRemton Siega Zuasolaさんは、4本の長編映画に監督として関わっており、本作が4本目です。その後、監督として関わった作品はなく、メイクやデザインで作品に関わっています。本作で映画監督としてのキャリアに見切りをつけたものと思われます。出演者は、そこまで有名な人は少ないと思いますが、刑事のリーダーは、様々な作品で刑事やギャング役で出演しているMon Confiadoさんが目に留まりました。彼は怖い顔をしているので、印象に残りますね。日本にいたら悪役同盟に入っていそうな俳優さんです。
「人質交換/Swap」の作品情報
オリジナルタイトル:Swap
公開年 2015年
監督 Remton Siega Zuasola
主なキャスト Matt Daclan
Dionne Monsanto
Mon Confiado (DitO)(アリサカ)(アントニオ・ルナ -不屈の将軍-)(GOYO 若き将軍)
視聴可能メディア Youtube(英語字幕のみ)

