フィリピンの戦争映画は面白い「アントニオ・ルナ -不屈の将軍-」

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フィリピンの戦争映画を初めて見ましたが、かなり良いですね。どこかの国のようにありもしない英雄譚を作ることもなく、現代の価値観にあわせて歴史を歪めることもなく、当時のフィリピンならば、そうなっただろうという歴史を自然体で描いています。スペインに植民地化される前に、国家と言うものを持ったことのないフィリピンでは、国家のために戦うとか、愛国心という概念は、庶民にとっては全く想像を超えたものでしたから、庶民の兵隊を率いるルナ将軍は、必然的に恐怖で支配する暴君として振舞うしかありません。また、上層部も、大して根本がある政権ではありませんから、ルナ将軍に軍事の全権を与える覚悟さえ持つことができません。ルナ将軍自身も、この国を率いて戦争に勝てるとは思っていなかったでしょうが、最後まで自分のやり方を通したところに、男の格好良さを見ました。

本作は、かつてNetflixで日本語字幕付きで見ることができたらしいのですが、現在はNetflixのリストから外れています。私はYoutubeで見ましたが、残念ながら英語字幕のみです。一度Netflixから外れた作品が再収録されるとは、あまり期待できないので、英語字幕で頑張ってみるしかなさそうです。

本作を見るためには、フィリピンの独立革命を理解していた方が良いと思いますので、まとめたページのリンクを下に貼っておきます。

(Photo cited from Medium)

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「アントニオ・ルナ -不屈の将軍-」のストーリー

舞台はアギナルド政権の時代です。アメリカがスペインに宣戦布告して、スペインをマニラから追い払ったアギナルド政権でしたが、アメリカが退却する様子がありません。また、アメリカがスペインと交渉を行い、フィリピン群島の領有権を得たという話が聞こえてきます。アギナルド政権は、そんな交渉の蚊帳の外であり、政権内に不満がたまっています。政権内部では、アメリカは当時スペイン領だったキューバに戦争をしかけたが、キューバを支配しなかったので、フィリピンも大丈夫だという親アメリカ派と、現状のアメリカを見ていると信じられないという反アメリカ派が争っています。

そんな時、サンタ・メサで、アメリカ軍がフィリピン軍に発砲したというニュースが飛び込んできます。これにより、アギナルド政権は対スペイン戦争に続き、対アメリカ戦争を戦うこととなりました。アギナルドは、軍の最高司令官であるルナ将軍に、戦争の行方を託します。

しかし、始まってみると軍規と言うものが全くない兵士たちです。現場指揮官も女を連れ込んで昼間からセックスにふけっているありまさです。ルナは、兵士や現場指揮官を恐怖で支配して軍を引き締めようとします。ともかく、軍として機能させるために、ルナ将軍は危険な兵たちを作戦に巻き込んだりと、少しずつ手持ちの兵士たちを鍛えていきます。ルナ将軍によれば、人生で愛国心がある兵士には数人しか会ったことがないとのことです。まあ、当時のフィリピン人は国というものを持ったことがありませんから、国のために戦うというのは、ちょっと意味がわかりませんね。

アメリカの侵攻を食い止めるために、ルナ将軍は大規模な塹壕を掘ることが必要と判断しました。塹壕を掘るには2000人もの人を動員することが必要と見積もられましたが、大統領からの協力が得られる見込みがありません。ルナ将軍は、3日待てと残して、どこかへ出かけていきました。そして3日後、4000人もの民兵を連れて帰ってきました。驚く部下たちが、どうして来てくれたのかと聞いたところ、民兵たちは「どうしようもない、銃で脅されたのだから」と答えます。ルナ将軍の奮闘により、戦線は膠着し、アメリカはいったん兵を引きました。

アメリカはアギナルド政権に対して、アメリカの庇護のもとで自治政府を持つことを提案します。これには、再び政権内で意見がわかれましたが、ルナ将軍の主戦派が主導権を持つこととなりました。ルナ将軍は、「アメリカよりも巨大な敵が、自分たちの中にいる」と語ります。その後も、他の将軍が、部隊の侵攻よりも食事会を優先するような始末で、何ともなりません。その度に、強権的に相手を屈服させて、より多くの兵士を手中にしていくルナ将軍について、側近たちは恐怖を覚えます。

(そろそろネタバレ)アギナルド政権内で内輪もめをしている隙に、アメリカ軍が再び侵攻してきました。味方に足を引っ張られた形ではありますが、アメリカ軍を止めきれなかったルナ将軍は責任を感じて、大統領に司令官の立場を辞任すると伝えます。先ほどまで、ルナ将軍の排除について陰謀を巡らせていた側近たちですが、これには沈黙してしまい、大統領はルナ将軍を慰留することとなりました。しかし、側近たちは「大統領さえ、裏切者として排除することがある」とルナ将軍が言っていたと、大統領に囁きます。

(ネタバレ)これが決定打だったのでしょう。ルナ将軍は大統領から新内閣に入って欲しいという手紙を受け取り、おびき出されたところを暗殺されてしまいました。あとは、後日談です。アメリカは喚起し、アギナルド政権は悲痛な面持ちです。誰もがルナ将軍を殺したくなかったが、それでも「死に値した」と語ります。結局、その数年後にアギナルド政権は崩壊して、正式にアメリカの植民地となりました。

見てもらえるとわかるのですが、とにかくシャキッとした兵隊がおりません。指揮官クラスもだらけており、これでは戦争にならないと、ルナ将軍が思うのも無理はありません。ホセ・リサールと同時代にヨーロッパに留学して、国民国家という概念を知ったルナ将軍なりの、政権との向き合い方であり、彼なりに最後まで自分の哲学を貫いたと思いました。

しかし見ていて思ったのですが、ベトナムとフランスの戦いはどうだったのでしょうか? ベトナムは、中国の皇帝が代替わりするたびに100万人規模の侵攻を受け、その度に撃退していた国ですから、愛国心というものもあり、兵士たちや指揮官たちもやるべきことがわかっていたはずです。それでも、フランスに負けてしまったのだから、フィリピンの物語とは違った戦争の物語があったのだろうなと思いました。フィリピン映画の良いところは、そんなありもしない愛国心を持った英雄の話をつくらなかったことですね。ヨーロッパ帰りのルナ将軍だけが、国民国家を夢見て、自らが犠牲になろうとしていました。

「アントニオ・ルナ -不屈の将軍-」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたJerrold Tarogさんは、こんな予算のかかる歴史映画を任された割には、本作までヒット作のない監督さんです。本作のヒットに気を良くして、ルナ将軍のあとを継いだ「ゴーヨー将軍」の映画も撮り、ヒットさせています。多彩な人で作曲家として多くの作品に関わっています。本作でルナ将軍を演じたJohn Arcillaさんは、フィリピン映画を見ている人ならば頻繁に顔を見る俳優です。私は「汚職警官を演じればフィリピンNo.1」と呼んでいる人で、今回のような信念を貫く人を演じていても、どこかで信念を捨てる人になるのではないかと思ってしまいました。アギナルド大統領を演じたMon Confiadoさんも、マフィアのボスや腐敗した警察長官のような役をよく演じている人なので、(フィリピン映画なのでそんな役が多いのです!)これはアギナルド大統領のイメージにぴったりでした。盟友ボナファシオを裏切って大統領になった人ですからね。

「アントニオ・ルナ -不屈の将軍-」の作品情報

オリジナルタイトル:Heneral Luna

公開年 2015年

監督 Jerrold Tarog

主なキャスト John Arcilla(Fuchsia Libre)(Ten Little Mistresses)(メトロマニラ 世界で最も危険な街)(Birdshot

Mon Confiado (DitO)(アリサカ

Lorenz Martinez

視聴可能メディア Youtube(英語字幕のみ)

「アントニオ・ルナ -不屈の将軍-」のトレイラー

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