私はフィリピン映画には詳しいほうだと思いますが、映画全体についてはオタク的なアプローチをして見てきたわけではないので、クリストファー・ドイルさんを存じ上げませんでした。彼は、「恋する惑星」(94)や「花様年華」(00)などウォン・カーウァイ監督作の撮影、チェン・カイコー監督作「花の影」(96)などでも撮影を担当した有名な撮影監督さんなのですね。本作はDVDをレンタルしてみたのですが、どうりで、浅野忠信の名前のあとに、この人の名前があったわけです。監督さんは、フィリピン人のKhavnさん。どちらかと言えば、ミュージシャンだと思われます。本作のオリジナルタイトルで検索すると、12分の短編映画が見つかるので、おそらくそれを長編映画として撮りなおしたのが本作だろうと思います。ほとんどセリフがなく、ミュージックビデオのようなつくりです。評判も芳しくありません。

「壊れた心」のストーリー
なんせ、ほとんどセリフがなく、ミュージックビデオのように、意味深なシーンをつなげるような作りなので、ストーリーははっきりしません。それでも、詳しいことはわからないものの、少しだけ展開があるので、それを紹介します。
最初のシーンは自己紹介です。5人の登場人物が1人ずつカメラの前にあらわれます。そして、「愛人」「殺し屋」「友達」「娼婦」「ピアニスト」という役割が表示されました。なぜ、役割紹介からはじまるのだろうと思いましたが、その後セリフがほとんどないからなんですね。役割紹介もなければ、まったく何が起こっているのか想像することもできませんから。
その後は、スラムの様子を中心に映し出されます。子供たちの様子、奇妙な演奏会、愛人とのセックスシーン、時にお仕事でしょうか? 殴り合いのシーンなどが映し出されます。しかし、日本人がフィリピンで殺し屋というのは無理がありますね。2万ペソ払えば、殺しを請け負ってくれる人がたくさんいる社会で、外国人が殺し屋をやる理由がありません。
(一応ネタバレ)半分を過ぎたころ、部屋に押し入った男に女が撃たれました。どうも愛人が撃たれたようです。どういう理由か、殺し屋は娼婦を連れて逃走します、たぶん。愛人と娼婦が逆かもしれません。なぜなら、セリフがないので、2人の女性の区別がつきずらいのです。ジプニーを盗んで、しばらく逃避行しましたが、結局、娼婦も殺された姿で発見されました。そして、殺し屋も友達に殺されて、ジエンドです。
内容としては、本当にこれだけです。クリストファー・ドイルさんが撮ったマニラの映像を音楽にあわせて見る映画だと思います。あと、浅野忠信さんのファンにも良いと思います。フィリピン人が監督ではありますが、フィリピン映画として見る必要はないんじゃないかと思います。
「壊れた心」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたKhavnさんは、インディー系の監督さんなのでしょう。短編映画が中心で、少し長い作品を見てもスタッフ情報などがほとんどありません。おそらく個人活動で、自分の撮りたい作品を好きなように撮っている人なのだと思います。クリストファー・ドイルさんは、オーストラリア人ですが、主に中国文化圏で撮影監督として活躍した人のようです。あまりにたくさんの有名作品に関わっています。そして主演の浅野忠信さんです。娼婦を演じたNathalia Acevedoさんの方が格上女優のようでメキシコ人、愛人を演じたElena Kazanさんはロシア人です。フィリピン人をもっと使っても良かったのでは?
「壊れた心」の作品情報
オリジナルタイトル:PUSONG WAZAK: Isa Na Namang Kwento Ng Pag-ibig Sa Pagitan Ng Puta At Kriminal
公開年 2017年
監督 Khavn
主なキャスト 浅野忠信
Nathalia Acevedo
Elena Kazan
視聴可能メディア TSUTAYA DISCAS(日本語字幕)