表題がネタバレになっていますが、内容を知らずに、この映画を見て展開に驚く人は、私くらいだと思いますので、少々のネタバレは問題ないでしょう。本作は、ミカイル・レッド監督の父、レイモンド・レッド監督による作品で、2009年の東京国際映画祭でグランプリを受賞したほか、国内外の様々な映画祭で賞を獲得した作品です。内容としては、実際にあった驚くべき短絡的なハイジャック事件に至るまでの経緯と、その顛末を描いたものです。フィリピンには、実際の事件をベースに映画化された作品が多いですが、私の知る限り、全てが短絡的な犯罪ですね。貧困がはびこっている上に銃社会ですから、そうなってしまうのでしょう。オリジナルタイトルの「Himpapawid」は、「空」の意味です。

(Photo cited from IMDb)
「Himpapawid/マニラ・スカイ」のストーリー
中年男性が荒野を歩いているシーンから始まります。やがて、彼が子供2人の父であることがわかります。母は、子供たちに籠の織り方を教えています。そんな子供に、父はお金を出してやるからマニラで勉強するように、そして決して地元に戻ってこないようにと言いつけます。決して、地元に戻ってこないようにとは穏やかではありませんね。その理由は最後の最後にわかります。
シーンが変わり、本作の主人公(ラウル)が登場します。彼は30代(?)の男で、一時的に仕事を休むことが認められず、解雇されてしまいました。自分では、会社にずっと貢献してきたと言っていましたが、解雇されると聞いたあとの態度があまりに悪いので、元々人間関係を良好に保つことができない人だったのでしょう。
その後、自宅でフィリピンの労働者が劣悪な条件で働いているというニュースを見て腹を立てたり、飲み仲間と騒いで過ごします。どうやらラウルの父が病気らしく、仕事も解雇されたなら、なぜ地元に帰らないのかと、仲間に言われます。何か地元に帰れないわけでもあるのか? 最初のシーンで出てきた少年が大人になったのがラウルなのかな?と思いながら、見ていました。
結局、ラウルは職安で仕事を探すことにしたのですが、フィリピンの役場は仕事がのろく、理不尽です。また、書類のコピーを求められ、コピー屋に行くと女が本を1冊コピーしようとしています。1ページだけだから先にコピーさせてくれないかと聞くも、女は返事さえしません。ついに、ラウルのイライラは頂点に達しキレてしまいました。フィリピン人は優しいと言われますが、それは親族や知り合いに対してだけで、見知らぬ人には驚くほど冷淡ですよね。
結局、ラウルは飲み仲間たちの強盗計画に参加することとなりました。ちなみに、ここまでに映画の上映時間の半分の50分を使っています。フィリピン映画が日本で人気が出ないのは、この展開の遅さが大きな理由じゃないかと思います。
ラウルは、見張り役となったのですが、居眠りをしてしまいます。目を覚まし、現場を確認にいったところ、店に押し入った仲間たちは殺されており、1人が他の仲間の居場所を聞き出すために拷問を受けていました。これはやばいと、逃げ出した際に、死にかけの仲間から銃と手りゅう弾を得ました。
(ややネタバレ)その後、ようやく地元に帰ることを決めたようで、荷造りをして空港にいきます。そこで、ザルのようなセキュリティを突破し、離陸後に飛行機をハイジャックしてしまいます。まずは、乗客から金目のものを提供させ、その後、パイロットに自分の地元の島に向かうよう指示しました。ところが、地元の空港は滑走路が小さく、この飛行機では着陸できないと説明されます。やがて、男はキャビンからパラシュートを取り出し、扉を開けさせたのち、空に飛び出していきました。
(ネタバレ)ここで、最初に登場した父が登場します。どうやら、ラウルのパラシュートはうまく開かなかったようで、ラウルは死んでいました。その周囲に散らばった金品を、父は自分のものにしました。そして、最初のシーンに戻ります。父は「お金を出してやるから、マニラで勉強しなさい。そして、故郷に二度と戻ってきてはならない」と、子供に語ります。
ハイジャック事件自体は、非常に短絡的で深堀りが難しかったので、最初に登場する子供が、主人公の子供時代じゃないかと錯覚させることでドラマを引っ張ったわけですね。なかなか良くできた構成でした。最初の強盗計画が出てくるまで50分もかかるという展開の遅さが気になりますが、フィリピンと言う国を知らない外国人には、フィリピン社会を描く導入が必要ですし、映画館で見れば、そんなに気にならないかなと思いました。
「Himpapawid/マニラ・スカイ」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたRaymond Redさんは、冒頭でも述べたようにミカイル・レッド監督のお父さんです。本作を発表した時点で44歳。監督として、これからという年齢ですが、本作後に撮った長編映画は2本のみで、2015年を最後に監督業を引退しています。息子のレッド監督が神がかった最初の2本の作品を発表したのが、2013年と2015年ですから、「こりゃあ、息子とは才能が違い過ぎる」と引退を決意したのでしょうか? その後は、たまに映像監督などで映画には関わっているようです。
主役を演じたのは、Raul Arellanoさんです。主人公の名前は、彼の名前からそのまま取ったみたいですね。彼も、この作品を最後に芸能界を離れていたようですが、2024年に、15年ぶりに映画に復帰したようです。
「Himpapawid/マニラ・スカイ」の作品情報
オリジナルタイトル:Himpapawid
公開年 2009年
監督 Raymond Red
主なキャスト Raul Arellano
Ronnie Lazaro(義足のボクサー GENSAN PUNCH)
視聴可能メディア ロシア系の怪しいサイト(英語字幕のみ)


