怪物になってしまった娘を持つ父親は驚くべき行動に出る「Yanggaw」

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本作はいわゆるアスワン映画という、フィリピンの伝統的な怪物をテーマにした作品です。アスワンは、ゾンビのような不死の怪物として描かれることが多いですが、本作では悪霊が体内に入ってアスワン化するという悪霊映画との折衷案でした。本作の見どころは、アスワン化した娘が、夜な夜な人を殺して生き血を吸っていることを知った父親が、しばらく娘を監禁したのち、あまりに苦しむ娘を不憫に思い、家族に手を出さないことを言い聞かせて、夜の森に解き放つところです。この発想は、日本人には出てこないですね。さすが、毎年数十本のホラー映画を作っているフィリピンだからこそできる変化球だと思います。また、家族を社会よりも優位に置く、フィリピンだからこそギリギリ成立する物語ですね。そして、この結末がどうなってしまうのか、ハラハラしながら見ることになります。タイトルの「Yanggaw」はビサヤ語で、「絆」みたいな意味だそうです。

(Photo cited from IMDb)

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「Yanggaw」のストーリー

若い女性が、伝統的な治療師の診断を受けているシーンから始まります。治療師は、彼女に何か異変を感じたようですが、家に連れて帰りなさいという程度の指示でした。

その後、辺鄙な村の日常が描かれます。家族で食事をするシーンや、村の男たちがバレーボールに興じるシーンが描かれます。しかし、フィリピンではバスケットボールの次にバレーボールが人気があるのはなぜなのでしょうね? バスケットボールはアメリカの影響だとしても、バレーボールはどこの影響なのでしょうか? どちらも、身長が高い方が有利なスポーツというのが、フィリピン人にとって不利ですね。

そんなある日、主人公家族の父親と息子が、夜中に家の前をうろついていた男を、泥棒だと思って撲殺してしまいました。娘が怪物になることが予想できるオープニングなだけに、意外な物語の幕開けです。翌日、警察官が父親を訪れ、何か異変を感じなかったかと問うのですが、父はしらばっくれて、やり過ごしました。警察は、家族は復讐すると言っているので十分に気を付けるようにと言い残します。さらに翌日、被害者の家族がやってきました。再びしらばっくれてやり過ごすのですが、ヤカラ系の男たちは明らかに不信感を持っており、ただでは済まない気配が漂います。

また、娘の状態は徐々に悪化していき、苦しそうです。そこで、家族は再び伝統的治療師を呼びました。彼女は、夜にタケノコをそのままにしているとアスワンが寄ってくるので危ないと言って、悪霊を寄せ付けいないためのお守りを渡します。父親は銅のナイフがあるから大丈夫。アスワンはこれを恐れるからだと言っていました。この治療師は、陽気でたよりない感じのおばちゃんで、治療費としてビンゴゲームをおごってくれと言いました。

ちゃんとした治療を受けさせたい父は、隣人にお金を借りようとしますが、みなにそんな余裕があるはずもなく、お金がない父親は、別の伝統的治療師に娘を見せることにしました。この治療師は、前の治療師と異なり、怪しい感じを漂わせています。彼は、娘の身体の中には霊毒(Poison of spirits)が入り込んでいると語ります。とは言え、具体的な治療法は示されず、異常があれば3日後に、娘を連れてくるようにとだけ指示します。家族は、娘は魔法をかけられた(bewithced)という言葉を使っていました。

しかし、息も絶え絶えという娘が、夜中にいなくなってしまいました。翌朝、血まみれになった娘を発見した父親は、泥棒(だと思っている)家族が復讐したのだと考え、憤ります。血まみれの状態ですから、お金がどうのとは言っていられません。父親は娘を医師のもとに連れて行きます。医師は、血液検査をしないとはっきりとはわからないが、血を吐いているので感染性胃腸炎じゃないかと意見を述べます。その診療所には検査機械がなく、とりあえず抗生剤が処方されました。

娘が意識を取り戻しました。父親は昨夜のことを聞き出そうとしますが、娘ははっきり覚えていないようです。そして、警察が再び家族を訪れた際、例の復讐を誓っていた家族の2人が殺されたことがわかりました。現場確認に連れていかれた父親は明らかに動揺し、警察官たちを振り切って自宅に戻りました。

自宅に戻った父親を待ち受けていたのは、怪物化した娘でした。しかし、会話が通じないわけではなく、ともかく娘をしばりつけて、これからのことについて家族会議が始まりました。母は、娘を殺すべきと主張しますが、父親には受け入れられません。とりあえず、見よう見まねで、枝で娘を打ち、悪魔を払おうとしますが、当然効果はありません。そして、2人目の治療師を呼びますが、彼は「もうアスワンになっている。何もできない」と言って逃げだしてしまいます。

(ネタバレ)苦しむ娘に対して何もできない父親は、家族に手を出さないことを約束させ、夜の森に、娘を解き放ってしまいました。これには、家族はドン引きです。「これ以上人を殺すならば、家で娘が死んだ方がまし」「家族の安全を考えて欲しい」と言って、父親だけを残して、家族は家を去りました。その後、娘が殺したのでしょう、さらに死体が発見され、警察官は、父親に対して明らかに疑いの眼差しをむけています。そして、ついに警察が怪物化した娘を発見し、発砲しました。娘は被弾し、ほうほうの体で逃げていきます。それを追う警察官が、ついに怪物化した娘を殺そうとするときに、父親が割って入り、なんと警察官を殺してしまいます。

父親は、深手を負った娘を連れ帰ると、家族たちも家に戻ってきました。娘は「お願いだから、私を殺して」と父親に懇願します。そして、ついに父親は娘に手をかけました。泣きながら、娘の遺体を埋めるところで物語は終わります。

実は、最初に娘が怪物化するまでに、作品の半分の時間を費やし、長々と大したことが起こらない家族ドラマを演じてたので、展開の遅い作品だなと思っていましたが、父親が村民の命よりも娘を優先するという判断に説得力を与えるためだったのですね。そんな前半の遅い展開にスパイスを与えるために、泥棒あつかいされて殺される男と、その後娘に殺される彼の家族は可哀そうな役回りでした。日本では作ることができない、フィリピンらしいホラー映画だったと思います。

「Yanggaw」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたRichard Somesさんは、ノンストップ・アクション映画「ネバー・ダイ」で有名な監督さんです。本作は、彼の作品の2本目の映画作品です。本作の前半があまりに緩慢だったので、どういうことかと思っていましたが、後半で後にアクション監督となる片りんを見せてくれました。

主役のお父さんを演じたRonnie Lazaroさんは、ビサヤを舞台にした作品によく出ている俳優さんです。前頭部の薄毛が良い味を出していますね。本作でもっとも注目すべきは、2人目の伝統的治療師を演じたのは、フィリピン映画界では、アクション映画監督としてレジェンドでもあるエリック・マッティさんでした。いい感じの怪しさと、もう手の施しようがないと言って退散する姿も滑稽で良かったですね。本作の監督さんと友達だったのでしょうか?

「Yanggaw」の作品情報

オリジナルタイトル:Yanggaw

公開年 2008年

監督 Richard Somes(ネバー・ダイ

主なキャスト Ronnie Lazaro(義足のボクサー GENSAN PUNCH)(Himpapawid/マニラ・スカイ

Aleera Montalla

Tetchie Agbayani

視聴可能メディア 怪しいFBページ(英語字幕のみ)

「Yanggaw」のトレイラー

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