本作は、フィリピン映画界の巨匠、ブリランテ・メンドーサ監督が、2009年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品です。前年に、同監督が「サービス」でカンヌ国際映画祭に正式招待されたのも、フィリピン映画としては初の快挙でした。そして、翌年に監督賞を受賞するまでに至ったのです。カンヌ以外の小さな国際映画祭でも監督賞や作品賞をいくつも受賞しており、フィリピン映画を語る上で決して欠かせない作品です。とは言え、残酷シーンもあるため、フィリピン国内での商業上映が禁止されているほどで、配信などで見る方法がありませんでした。しかし、TSUTAYA DISCASで、日本語字幕付きのDVDを借りれることを知り、今回ついに見ることができました。
内容としては、映画の前半部で結婚の手続きを行ったばかりの若い警察学校学生が、その夜、警察学校の先輩から軽い仕事のような感じで誘われ、娼婦を誘拐後、殺害してバラバラにしたのち遺体を放棄する手伝いをさせられるという話です。軽く誘われて車に乗ったのち、何の説明もなく延々車に乗せられる中で緊張感が高まっていく主人公の姿が見どころです。TSUTAYAにあるDVDが傷ついてしまいレンタルできなくなると、見れる可能性がほとんどなくなってしまいますので、早いうちに視聴することをお勧めします。タイトルの「Kinatay」は屠殺(とさつ)の意味です。

「キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-」のストーリー
主人公のぺピンは、スラムとまでは言えないものの貧しそうな界隈に住んでいる20歳の男です。すでに子供がおり、警察学校の学生です。この日、付き合っている女性と裁判所で結婚の手続きを行うこととなっています。親族が続々と集まってきて、裁判所で手続きを行います。フィリピンでは裁判所で結婚手続きを行うんですね。書類だけで簡素にやればいいのにと思いましたが、役所もいい加減ですから、親族や証人を集めて行うスタイルがフィリピンには合っているのでしょう。裁判所職員のジョークが傑作です。妻が19歳で学校は中退したと聞くと、「勉強は大事だぞ」と諭したり、夫は「ハンサムだから学校でモテモテだろうから、別れたら教えてくれ」などと、めでたい席にそぐわないブラックジョークを連発します。フィリピンでは、あれはセーフなのでしょうか?
その後、家族で食事をしたのち、学校の授業に出席します。学生たちの授業態度はひどくて、誰もちゃんと授業を聞いていません。先生も学生の注目を集めるために、「この問いに答えられたら100ペソやるぞ」と言って学生の注意を惹くくらいです。日本の警察学校を知りませんが、こんな学校を出ても腐敗した警察官にしかなれないなとも思いました。
放課後、先輩からちょっとしたバイトに声をかけられます。ピペンは誘われるまま、バンに乗ってしまいました。しかし、その後ずっと車の中で誰も口を開きません。とても、自分から仕事について聞ける雰囲気ではなく、緊張した面持ちでピペンは押し黙っています。やがて、ゴーゴーバーの前で車は止まり、マドンナと呼ばれる娼婦が連れて来られました。車にいれられるや否や、彼女はボコボコにされ、ビニールテープで手足を縛られ、口を塞がれます。ピペンは、トンデモない事件に巻き込まれてしまったと気づきますが、もはや後戻りすることができません。そこから、またひたすら長いドライブです。押し黙った車の中で、ピペンにとっても視聴者にとってもあまりに長い、緊張を強いられる30分が過ぎます。
(そろそろネタバレ)ようやくたどり着いたのは郊外の廃屋でした。女は、地下室に連れていかれます。ピペンは、先輩らとともに買い出しにいくよう指示されます。途中、ピペンはひとりになり逃げる機会もあったのですが、逃げる勇気もなく流れにしたがうばかりです。自分ならどうするかと思いましたが、やはり逃げないだろうなと思いました。積極的に犯罪に手を染めないように、それでいて役立っている感を出すように、見張りに積極的に立つなどしかできないんじゃないかと思いながら見ていました。買い出しの時に、女はドラッグの代金未払い(10万ペソ)があったことを、ようやく先輩から聞くことができました。25万円か・・・フィリピンなら殺されるに値すり金額ですかね・・・。
(ネタバレ)その後、女は水をかけられて起こされます。「何でもするから殺さないで」と懇願する女ですが、男は「俺は何度も忠告した」と冷たく答えます。結局、彼女は犯されたのち、殺されます。そして、彼女の身体をバラバラにしていきます。さすがにピペンは解体には携わるよう命じられませんでしたが、解体した部屋の掃除と身体の部位を麻袋に詰める作業をさせられます。帰りの道すがら、男たちは女の体の一部を捨てながらマニラに戻ります。マニラについたときには朝になっていました。ボスらは、一緒に朝ご飯を食べて、ピペンはいくばくのお金を受け取りました。ボスは「はやく、この仕事に慣れるように」とピペンに声をかけます。ピペンは、タクシーを拾って家を目指します。妻は、チャーハンを作りながら夫を待っています。そしてエンドロールです。
おそろしい映画でした。残虐シーンだけならば、フィリピン映画ならば拷問シーンや殺戮シーンなどいくらでもありますが、本作は何をさせられるかわからない状態で、ずっと車に乗っていなければならないこと、きっと大変な事件に巻き込まれたことがわかっても逃れる方法がなく、したがうしかないという心理的恐怖でした。
「キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-」の監督、出演者情報
導入部でも述べましたが、監督はブリランテ・メンドーサさん。本作でフィリピン映画界で名監督の地位を確定させました。2000年ごろから本作が受賞するまでの期間は、フィリピン映画不振の時代で、本作が大きな賞を取ったインパクトで、フィリピンでも数々の社会派インディペンデント映画が制作されるようになり、現代のフィリピン映画のながれが形成されたのことです。主役のピペンを演じたCoco Martinさん。メンドーサ監督の作品には、当時は端役でも律儀に出演していました。現在では、売れっ子になっており、刑事ドラマや恋愛映画への出演が中心になっています。
「キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-」の作品情報
オリジナルタイトル:Kinatay
公開年 2009年
監督 Brillante Mendoza(GENSAN PUNCH)(ローサは密告された)(Feast-狂宴-)(アルファ、殺しの権利)(リプレイス 絡みあう欲望)(囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件)(あの夏の欲望)(ヴァージンフォレスト 愛欲の奴隷)(汝が子宮)(罠~被災地に生きる)(サービス)(ミンダナオ)(Red/Pula)
主なキャスト Coco Martin(サービス)(Red/Pula)(Love or Money)(You’re My Boss)
視聴可能メディア TSUTAYA DISCAS(日本語字幕)