おじさん世代にとって、若いイケメン男と綺麗な女性が、フワッとした設定で恋愛を繰り広げられても、それを楽しむのは困難です。しかし、男がブサメンだと、男のアプローチも控えめで好印象です。また、本作では、女はマニラで仕事をしているのですが、男は田舎暮らしで、素朴な仕事をしているというハンデも背負っています。このくらい不利な条件があると、結末にも興味が持てますね。ブサメン男には、様々な作品で頼りない雰囲気の脇役を演じているPepe Herreraさん。彼にとっても最初で最後の主演作品でしょう。彼の一世一代の作品を見届けてやりましょう。
さて、本作はフィリピン以外での公開実績がないようで、英語タイトルはないのですが、Netflixに収録されたときに「Only You」という英語タイトルが付けられたようです。こういう映画に関しては、タイトルにオリジナルタイトルとNetflixタイトルを併記することにしました。今までも、こうすべき作品はあったかもしれません。

(Photo cited from IMDb)
「Ikaw/Only You」のストーリー
オシャレなレストランで男とデートしていた主人公(ディー)が、デート中の男の失礼な態度に怒るシーンから始まります。気分転換に、ディーは祖母の住む、故郷であるBulusanに帰省することとなりました。Bulusanとはルソン島の南端に位置するエリアです。私は行ったことがありませんが、かなり美しいところですね。ちなみにマニラから車で14時間もかかるようです。渋滞もあるので、実際はもっとかかるでしょう。ただ、街から1時間くらいのところに空港はあるようなので、行くとすれば空路になるでしょう。
ディーは、当初、田舎の敬虔なクリスチャンの生活に戸惑いますが、やがて地元の人々とも打ち解けました。その中でも、中学校の同級生エドンは、当初より彼女に好意を示していました。しかし、彼はどう見ても持てないタイプの容姿ですし、ディーはやがてマニラに帰ることがわかっているので、そのアプローチも控え目です。エドンの兄弟たちと、ディーがBulusanの美しい海でマリンスポーツを楽しみます。
祖母は、近所のおばさんと一緒に、食堂を運営していましたが、ある日、祖母が倒れてしまいました。命に係わるものではなかったのですが、しばらく休養が必要ということで、食堂は閉鎖されてしまいました。しかし、食堂の閉鎖は、スタッフや近隣住民の気持ちに暗い影を落としました。その陰鬱な雰囲気に耐えられず、ディーは自分の手で食堂を再開することにしました。最初は美味しくないと不評でしたが、エドンや復帰した祖母らの協力を得て、徐々にお客さんの好評を得るようになりました。
(ややネタバレ)しかし、お別れが迫っていることを、エドンは知っています。ここで告白しなければ、一生後悔すると勇気をもって告白したところ、ディーはそれを受け入れました。しかし、一緒にレストランを運営していたおばさんが、昔の恋人と再会し、Bulusanを去ることになりました。また、ディーの祖母も体調面が不安だということで、ディーと一緒にマニラに行くことになりました。
中途半端な立場に置かれたエドンは、ディーに今後のことをどう考えているのかと、勇気をもって切り出します。自分としてはオフィシャルな関係になりたいと伝えます。オフィシャルというのは、結婚を前提に付き合うという意味でしょうか? この告白をディーは受け入れます。彼女も、Bulusanの生活を愛するようになっており、祖母をマニラに連れて行くことに疑問を感じていたのです。
(ネタバレ)すぐに、2人が結婚しているシーンに進み、2人が幸せそうにイチャイチャしているシーンのあと、急に暗い荒れた海のシーンに変わります。どうやら海難事故で誰かが亡くなったようです。エドンの弟が、自分をエドンが助けてくれたと語っています。結局、エドンの死体はあがりませんでしたが、彼は帰らぬ人となりました。最後のシーンでは、ディーがエドンからもらったラブレターをビンに入れて海に流しました。
最後のエドンが死ぬシーンが必要ありませんでしたね。物語を終わらせるために、安易に誰かを殺すというのはフィリピン映画の悪い癖です。ディーが田舎にとどまり、エドンと結婚したことは良い選択だったということがわかるシーンを用意するべきでした。これでは、監督自身も2人の幸せが長期に続くとは信じておらず、そのため幸せの絶頂で打ち切ったように見えてしまいます。
「Ikaw/Only You」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたMarla Anchetaさんは、「ドールハウス 〜想いをこめて〜」「母の面影が語ること」などで、海外を舞台にした味わい深いドラマを撮る監督さんという印象でしたが、「ワン・ヒット・ワンダー 君を想う歌」が凡作で、自分の中では評価を下げた監督さんです。今思えば、「ドールハウス 〜想いをこめて〜」「母の面影が語ること」も海外の雰囲気で押し切っただけのような気がしてきました。本作もBulusanの美しい風景とブサメン男を使ったラブストーリーというのは良かったものの、安易なラストを持ってきて監督としての評価を下げてしまいました。
本作で注目すべきは、エドンを演じたPepe Herreraさんでしょう。私は、作品情報をまとめるときにせいぜい主役の3人までを紹介するだけなので、彼の名前を紹介したことはありませんでしたが、彼の姿は多くの作品で見かけます。日本で言えば柄本明のようなポジションです。彼を主役にラブストーリーを作ったのは価値がありますね。
ヒロインを演じたJanine Gutierrezさんは、派手な顔にくっきりした眉毛が印象的な女優さんです。本作では、素直なヒロインを演じていましたが、他の作品では、癖のある役を演じている印象があります。
「Ikaw/Only You」の作品情報
オリジナルタイトル:Ikaw
公開年 2021年
監督 Marla Ancheta(ドールハウス 〜想いをこめて〜)(母の面影が語ること)(ワン・ヒット・ワンダー 君を想う歌)
主なキャスト Janine Gutierrez(Here and There)(女と銃)
Pepe Herrera
視聴可能メディア Netflix(英語字幕)