フィリピン映画界で、現在最も国際的に評価の高い監督さんであるブリランテ・メンドーサ監督の最新作が、いつの間にかNetflixで公開されていました。メンドーサ監督と言えば、非常に緊張感の高い状況でギリギリに生きる人々を描くのを得意としている監督さんですが、本作は、仕事にかまけて娘に関心を示さない両親と娘の確執、かつての同性愛の恋人に再会を果たした祖母の物語という、いつもと異なるテーマを扱っています。また、主人公の少女には、ドラマで人気女優のバービーを据えて、いつもとは違う、彼女の魅力を見せてくれます。とは言え、全体的には、肝心の祖母の同性愛の恋人との再会の部分が、シナリオ的に無理があるように思われ、メンドーサ監督の作品の中ではおすすめ度の低い作品になると思います。

(Photo cited from IMDb)
「Until She Remembers」のストーリー
女子高生のエンジェルが主人公です。彼女は裕福な家庭の1人娘ですが、両親は仕事に夢中で、自分に関心がありません。また、成績が悪く補講を受けることになったことから両親は責任の押し付け合いをしているのを目撃し、すっかりしょげ込んでしまいます。
そこで、彼女は幼少期に自分を育ててくれた祖母の家に住むことにしました。祖母は、曾祖母と一緒に住んでいます。3人で、楽しい田舎生活を楽しむのですが、祖母が膵臓がんであることが判明します。落ち込むエンジェルに、祖母は、若き日に自分が愛した同性の恋人の恋人の話をします。すっかり感銘を受けたエンジェルは、祖母のために、元恋人を探し出すことを決意します。
様々なツテを使ってたどり着いた祖母の恋人は、認知症で施設に入所していました。祖母は、元恋人と感動の再会を果たすのですが、元恋人は何も思い出すことができません。それどころか、発語もほとんどないレベルです。そこからの展開が驚くべき展開になるのですが、なぜか祖母は、元恋人の家族と交渉して、自分が彼女を引き取ることにしてしまいました。膵臓癌って、ほとんど助からない病気じゃないですか? 自分の余命も短いのに、認知症の元恋人を引き取る?? 意味がわかりません。
元恋人は、うなり声をあげる程度でコミュニケーションが取れそうにもありません。介護への抵抗も強く、大変な介護が始まります。また、祖母自身も健康ではありませんから、時には自分自身も痛みでのたうち回るほどです。しかし、そんな祖母の献身的な介護が通じたのか、祖母は正気を取り戻し、何と普通に会話できるようになります! いやいや、あのレベルの認知症が正気を取り戻すとかないから、と思いましたが、何というご都合主義でしょうか? しかも、世界のメンドーサ監督ですよ。
(ネタバレ)祖母は、かつての恋人と別れるに至った経緯を、元恋人に涙ながらに語り、元恋人も祖母への愛を語ります。しばらく、2人は夢のような時間を過ごし、若いときの輝かしい時代を取り戻したようでした。しかし、ある朝、祖母は亡くなっているところが発見されます。祖母を亡くし、すっかりしょげ込んだエンジェルは、自分が祖母の元恋人の介護をすることを誓います。それは、彼女にとっては、犠牲ではなく、真の愛を見せてくれた2人へのお礼でした。しかし、祖母も元恋人も間もなく他界します。エンジェルは、両親の元に戻ることになりました。嫌でしょうがなかった両親も、これまでとは異なったように見えるようになり、彼女はリラックスしているように見えます。学校でも、先生が語っていることが、前とは異なって聞こえてきて、自然に涙が溢れます。そして、エンディングです。
若い主人公が、祖母の献身と愛の深さを目の当たりにして、これまでとは世界が違って見えると言う基本構成は成功していて、胸を打つものがありました。しかし、死期が近づいている祖母が、元恋人とは言え、他人を引き取って介護をするという設定や、認知症が一時的に治るという展開に無理があり過ぎでした。女子高生を演じたバービーは、少し演技がワンパターン化していましたが、本作ではインディーらしい撮り方(セリフが決まっていない等)だったため、演技の質が全く変わっており、それが非常に良かったです。テレビドラマ出身の女優が、舞台に挑戦して大物女優に脱皮するような感じでしょうか? 日本で言えば一昔前のつかこうへいの舞台のような機会になっていたと思います。
「Until She Remembers」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたブリランテ・メンドーサは、フィリピン映画界の当代ナンバーワンの巨匠と言える監督さんです。下のリンクでは、彼の経歴や全映画作品を紹介しています。女子高生を演じたバービー・フォルテーザさんは、当代の人気トップ女優と言えるでしょう。童顔で、本作でも普通に女子高生に見えますが、作品公開時に29歳!です。もう10年以上女子高生の役を演じていますし、超売れっ子ですから、さすがに女子高生役はフィリピン人観客からもツッコミが入るのではないでしょうか? しかし、童顔なぶん、大人の女性の役も難しく、これからのキャリアが気になります。
「Until She Remembers」の作品情報
オリジナルタイトル Until She Remembers
公開年 2026年
監督 Brillante Mendoza
主なキャスト Charo Santos-Concio(カトリックスクールの怪異)(たとえ嵐が来ないとしても)(立ち去った女)(Only We Know)
Barbie Forteza(悪キャラ養成アカデミー)(ザ・アブノーマル)(That Kind of Love)
Boots Anson-Roa
視聴可能メディア Netflix(英語字幕)


