ジュン・ラナ監督(ジュン・ロブレス・ラナと表記されることもあり)は、自分自身のゲイであることをオープンとしており、ゲイをテーマにした多くの作品を撮っている監督さんです。彼の作品は、日本でもいくつか上映されていますが、おそらくその全てがゲイをテーマにした作品だと思われます。多様性というテーマでわかりやすく、映画祭などで持ってきやすい作品だと思いますが、ジュン・ラナ監督自身は、もっと多様な作品を撮っています。脚本が破綻することの多いフィリピン映画では珍しく、もともと優秀な脚本家でもある監督の作品は、西洋的なきっちりとした構造を持っており、我々外国人にも楽しみやすいのが特徴です。
ジュン・ラナ(Jun Robles Lana)監督について

(Photo cited from Yahoo Singapore)
ジュン・ラナ監督は、マカティで生まれ、10代のころから戯曲執筆に興味を持ち、当時からペンネームとして「ジュン・ラナ」を使い始めています。19歳の時、戯曲「Eksodo」で、パランカ賞部門において「佳作」を受賞。翌年、同部門で「Churchill」により3位に入賞しています。その後、映画脚本とテレビドラマ脚本で9つのパランカ賞を受賞し、脚本家として順調なキャリアを築きました。脚本家としての最初の国際的な受賞は、ディアス・アバヤ監督の「Sa Pusod ng Dagat(海の底で)」(1998年)の脚本で、1998年のブリュッセル国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞しています。
映画監督としては、2006年の「Gigil」によってデビューしています。その後、2006年から2014年までGMAネットワークに在籍し、ドラマ部門のクリエイティブ・コンサルタントを務めるとともに、番組の主任脚本家を兼任しています。GMA時代は、テレビドラマが中心で、そんなに映画作品は多くないのですが、GMAを退社後は、テレビドラマの脚本・監督をつとめながらも、映画作品が増えるようになり、2016年からはテレビドラマの監督をすることはなくなり、映画を中心に活動するようになりました。監督として初めて国際的な評価を得たのは、第29回東京国際映画祭で「ダイ・ビューティフル」(2016)が観客賞を、主演のパオロ・バレステロスが最優秀男優賞を受賞したことです。「ダイ・ビューティフル」は、2016年のフィリピン映画で最も興行収入を上げた作品のひとつになり、国内外で名前を知られる監督になりました。その後も順調にキャリアを重ね、海外でも評価されるフィリピン人映画監督の1人とみなされています。
ジュン・ラナ(Jun Robles Lana)監督の全映画作品紹介
ここからは、ジュン・ラナ監督の長編映画作品を新しいものから順番に紹介していきます。作品内容の紹介と、視聴できるサイト、おすすめ度なども書いていきたいと思います。私が視聴済み作品については、タイトルをクリックすることで、作品の詳しいレビューに飛ぶことができます。
1 Call Me Mother, 2025
2025年のマニラ映画祭で公開された作品で、すでに日本の映画館でも上映された作品です。個人的には、主演をつとめるヴァイス・ガンダさんの映画の中で最高傑作だと思っています。美人コンテスト業界という華やかな舞台で、「産みの親か、育ての親か」が問われ、後半は涙涙の展開になります。笑いあり、涙ありのエンタメ作品として、非常におすすめできる作品です。
視聴サイト 現在のところなし(おそらく2026年中にNetflixに収録されると予想しています)
言語 未定
おすすめ度 ★★★★★
2 Sisa, 2025
本作は、2025年にエストニアの第29回 Tallinn Black Nights Film Festival で上映され、2026年にフィリピン国内で、プレミア上映されている段階の作品です。そのため、現時点では、我々がアクセスするのは難しい作品です。トレイラーを見るとホラーのように見えますが、歴史を舞台にしたスリラー作品らしいです。ぜひ日本にも入ってきて欲しいですね。
3 そして大黒柱は…/And the Breadwinner Is…
本作は、フィリピンの喜劇王、ヴァイス・ガンダさんと、ジュン・ラナ監督が、初めてコラボした作品です。本作まで、ナンセンスドタバタコメディだったヴァイス・ガンダさんの映画に、社会的なテーマを与え、コメディとしても面白みが増した記念碑的な作品です。個人的に質問したときに、ジュン・ラナ監督自身も言っていましたが、しばらくヴァイス・ガンダさんとのタッグは継続していくとのことなので、その最初の作品は見逃せませんね。
視聴サイト Netflix
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★
4 Becky and Badette
本作は、フィリピンを代表するコメディ女優2人を起用した、コメディ作品です。追っていた夢にも破れ、容姿も良くない仲良し2人が、同窓会でやぶれかぶれに、「自分たちはレズカップルだ」と言ったら、なんだかウケてしまって、あれよあれよと、レズを代表するインフルエンサーになってしまいます。その後、男をめぐってトラブり、化けの皮がはがれてしまうという他愛もないコメディです。フィリピンらしい明るいコメディを求めている人におすすめです。
視聴サイト Netflix
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★
5 Your Mother’s Son
社会的なテーマを扱うも娯楽性の高い作品を作ることが多いジュン・ラナ監督ですが、本作は娯楽性は全くない作品です。中年女性の性的欲望がテーマで、ちょっとグロテスクな作品です。驚くべき展開になりますので、怖いもの見たさで見るのが良いと思います。
視聴サイト Dailymotion
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★
6 Ten Little Mistresses
フィリピン映画で、ほとんど見かけないジャンルと言えば、推理ミステリーです。私もフィリピン映画を400本ほど見てきましたが、推理ミステリーは2本しか見たことがありません。本作は、その貴重な1本です。しかも、殺人事件は、金持ち男が10人の愛人の中から、1人の正妻を選ぶためのパーティで起こったため、女たちの欲望が渦巻き、エンタメ要素も非常に高い作品です。非常によくできたシナリオなので、翻訳して日本で舞台化したいなと思うほどの作品です。
視聴サイト Amazon Prime Video
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★★
7 About Us But Not About Us
本作は、私が初めて見たジュン・ラナ監督の作品です。大学生と教授が、亡くなった教授の話をするだけの物語ですが、2人の力関係が目まぐるしく入れ替わり、初め可愛らしく見えた大学生が、どこまで腹黒なのが怖くなるという一種のスリラー作品です。この作品を見て、ジュン・ラナ監督のとてつもない才能に驚愕したことを思い出します。私が、フィリピン映画を継続的に見るようになったきっかけの1つとなった作品です。2026年2月に東京の映画館で上映されました。その時に、日本語字幕が作られたので、ひょっとすると、日本のどこかの映画館で上映される可能性もあると思います。
視聴サイト なし
言語 未定
おすすめ度 ★★★★★
8 Big Night!
本作は、私がジュン・ラナ監督に「一番好きな映画」とお伝えした作品です。何の手違いか、行政の「ドラッグ依存症者リスト」に載ってしまい、殺し屋に狙われることを恐れる男の物語です。なぜ、「ドラッグ依存症者リスト」に載ることが、殺されることにつながるのか、日本人にはピンとこないと思いますが、そこがフィリピンの闇の部分です。しかし、本人の必死さと裏腹に、全体的にユーモラスで、とぼけた感じに進行していくので、非常に面白い作品です。
視聴サイト ロシアの怪しいサイト
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★★
9 Kalel, 15
本作は、HIVに感染した15歳の少年を描いたものです。HIV感染者への偏見を描いた映画と考えられているようですが、15歳の少年が、そんな重たい秘密を隠していくストレスを描いたものだと思われます。「まあ、そうなるだろうな・・・」と重たい気持ちになることは間違いありません。
視聴サイト Bili Bili
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★
10 Unforgettable
本作の動画は、様々なところで見つかるのですが、英語字幕のあるものをまだ見つけられていません。評価が高い作品なので残念です。トレイラーを見るかぎり、若い女性と犬の友情を描いたもののようです。フィリピン人は、日本のハチ公のような、動物ものの映画が好きですが、意外とフィリピン映画に動物ものはありません。貴重な作品だと思われます。
11 The Panti Sisters
ふざけたタイトルですが、遺産相続のためのゲームから、家族を持つことの意味を問うドラマへと発展する愉快な家族ドラマです。金持ちの父親が、亡くなる前にせめて孫の顔を見たいと、3人ともみんなゲイになってしまった息子に、子供を作った者に、すべての財産を相続させると宣言したことから、バカバカしいドラマが始まります。バカバカしさの中から、愛や家族というものが浮かび上がってくる、秀逸な脚本です。
視聴サイト Youtube
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★
12 The Girl Allergic to WiFi
電波のあるところで体調が悪くなる病気というオカルト医学から始まるので、どうなることかと思いましたが、電波のないところに引っ越し、昔ながらの生活、文通による恋愛というノスタルジックで可愛らしい恋愛を描いた作品でした。昨今の慌ただしい恋愛映画にはついていけないと言う人でも、本作は楽しめると思います。
視聴サイト Bili Bili
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★
13 Ang Dalawang Mrs. Reyes
夫がゲイカップルになってしまい捨てられた2人の妻の物語です。結構ひどい目に遭っている妻たちですが、夫を追う中で、思った以上にゲイカップルが社会に受容されていることを知り、なんだか、自分たちの方が偏狭な考えを持っているのではないかと思い始める、逆転現象がおきる脚本が秀逸です。夫に捨てられた妻たちの話とはいえ、全体的に陽気な印象を受ける作品で、そんなに深刻にならずに見ることができます。
視聴サイト Youtube
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★
14 ダイ・ビューティフル
本作は、ジュン・ラナ監督の代表作、出世作です。配信では見ることができませんが、DVD化されており、オンラインレンタルで借りてみることができます。また、ジュン・ラナ監督の作品の中で、現在、日本語字幕で見ることができる唯一の作品です。ゲイだった主人公が、死んだあと7日間の通夜のあいだ、毎日ド派手なメイクや演出をして、ゲイとしての自分の人生を、そしてゲイとしての覚悟を、多くの人へ知らしめるという常人では思いつかないアイデアの作品です。
視聴サイト DVD
言語 日本語字幕
おすすめ度 ★★★★★
15 Bakit lahat ng gwapo may boyfriend?!
本作は、他愛もないラブコメです。ウエディングプランナーの女が、関わった結婚式の準備の家庭で、新郎と恋愛関係になるという倫理的にどうなの?というお話です。コメディとしても、そこまで冴えた作品ではありません。
視聴サイト ロシアの怪しいサイト
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★
16 Haunted Mansion
私の知る限り、ジュン・ラナ監督の数少ないホラー映画作品の中で唯一、英語字幕付きで見ることができる作品です。霊と対話できる能力を用いて、主人公が事件を解決しようとする要素があるのが特徴です。しかし、脚本の力がウリのジュン・ラナ監督にしては、平凡なホラーにおさまっています。悪くないホラー映画ですが、ジュン・ラナ監督がわざわざ撮るほどの作品かな、というのが正直な感想です。
視聴サイト Youtube
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★
17 The Prenup
本作は格差婚を扱った作品です。フィリピンは、日本より階級意識が強い国ですから、貧乏な女が、金持ち家庭の嫁に入るのは大変なことです。金持ち家庭から、見下され、意地悪な条件を突き付けられたりします。そこで、貧乏な嫁側の家庭が反撃的な条件を突きつけ、両家の条件合戦がエスカレートするというコメディになっています。実際は、金持ち家庭に条件を突きつけるようなことはできないと思いますが、そこが一般庶民のカタルシスになっている作品と思われます。
視聴サイト Facebook
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★
18 Anino sa likod ng buwan
本作は、フィリピン共産党とフィリピン軍の戦闘を描いた作品のようです。ジュン・ラナ監督は、政治的な題材を扱うことはありますが、直接的に描くというのは珍しいですね。しかし、現在のところ、本作を見ることができるサイトは見つかっておりません。
19 So It’s You
普通の男と女のラブロマンスのようです。あまりに平凡な作品だからか、フィリピン国内から出たことがないのではないかと思います。本作の動画は見つかるのですが、英語字幕が付いているものを見つけることができませんでした。
20 Barber’s Tales
本作もジュン・ラナ監督の代表作です。マルコスシニア大統領時代の迫害を、亡くなった夫から理容院を引き継いだ女の視点で描かれます。とにかく脚本が秀逸で、大義に殉じる若者、若者を死なせたくない家族、都合の悪いことを何でもゲリラがやったことにする政治家、関りを恐れて距離を取る一般大衆と、主人公と様々な人々との関りを通して、多面的に描いていきます。
視聴サイト Youtube
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★★★
21 Bwakaw
不思議なテーマの作品です。犬と2人で住む60歳の孤独な男の物語ですが、この年になって、自分がゲイであることをようやく認めます。そこで、今まで抑圧されていたゲイとしての欲望が時々表面化するというグロテスクさがあります。また、そんなことどうても良いのに・・・と思うのですが、若いころに付き合っていた彼女に、自分はゲイだから、あなたを本当には愛していなかったと伝えに行きます。自分には理解不能でしたが、それが年をとってゲイを認めるということなのでしょうか?? 不思議な味わい深さがある作品です。
視聴サイト Bili Bili
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★★
22 Yesterday Today Tomorrow
本作は、お昼のメロドラマ的な家族ドラマなのだと思います。おそらく海外に出ることがなかった作品なのか、動画自体はYoutubeで見れるのですが、英語字幕がついたものを見つけることができませんでした。
23 Tarot
本作は、私が見れていないジュン・ラナ監督の作品の中で、私が一番見たいと思っている作品です。ジュン・ラナ監督の作品の中でも数少ないホラー映画です。英語字幕がないバージョンは、Youtubeに公開されているのですが、英語字幕付きのものを見つけることができていません。
24 Mag-ingat ka sa… Kulam
本作もホラー映画です。近年は、ホラー映画のイメージが全くないジュン・ラナ監督ですが、初期には、他のフィリピン映画監督と同じように、ホラー映画を撮らされていたんですね。当時は、ジュン・ラナ監督も有名ではありませんでしたので、フィリピン国内でしか上映されていないのではないかと思います。英語字幕の無いバージョンはYoutubeで見る借りますが、英語字幕付きの動画は見つかっていません。トレイラーが見つからなかったので、全編動画のリンクを貼ります。
25 Roxxxanne
ジュン・ラナ監督の映画監督2作目が本作です。ジュン・ラナ監督の作品の中で、初めてゲイを主人公にした作品でもあります。とは言え、ロクサンヌという名の非常にセクシーな女性の比重が高く、少しセクシー系エンタメの要素もあります。現在アクセスできる動画では、英語字幕が完全ではないという致命的な問題があります。
視聴サイト Youtube
言語 英語字幕
おすすめ度 ★
26 Gigil
本作がジュン・ラナ監督の映画監督デビュー作です。内容はと言うと、他愛もないラブコメです。結婚式直前までいったのに、恋人がゲイを告白して逃げたというトラウマを持つ女が、ビーチリゾートで恋をするという物語です。ただ、いい男はみんなゲイに見えてしまい、なかなか一歩踏み出すことができない様子をコミカルに描きます。
視聴サイト Dailymotion
言語 英語字幕
おすすめ度 ★★
まとめ
ジュン・ラナ監督は、恋愛映画とコメディ映画を中心に撮る監督さんです。そこにゲイ要素が入っており、時に政治的なテーマの作品や、トンデモないアイデアの作品、ホラー映画を撮るという多様な作品を撮る監督さんです。まず、最初にお勧めするのは、日本語字幕で見ることができる「ダイ・ビューティフル」。そして、英語字幕では「Big Night!」「Ten Little Mistresses」「Barber’s Tales」。そして、おそらく今年中にNetflixに入ってくる「Call Me Mother」になってくると思います。「Call Me Mother」に、日本語字幕が付けば、多くの人がフィリピン映画に触れるきっかけになると思うのですが、果たして日本語字幕が付くでしょうか?
