ゆっくりと歩んでいくシニアの恋愛を丁寧に描く「Only We Know」

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若い人が多いフィリピンですが、少しずつシニアの人口は増えており、以前と違って、離婚(アナルメント)をしたシニアの恋愛を描く作品も増えてきました。とは言え、多くは、シニアの親が恋愛することに否定的な娘とのドタバタコメディとして描かれることが多いのですが、本作はゆっくりと、さりげなく、お互いの距離を詰めていきながら、過去を乗り越えるシニアの男女が丁寧に描かれています。最初のシーンで、大学教員である主人公が、ベケットの演劇を解説するシーンから始まり、「何も起こらないこと」「ただ待っているだけの物語」の意味が強調され、その暗示通り、本作は特別なことは起こりませんが、ただゆっくりと距離を詰めるシニアの男女が丁寧に描かれます。もう1つの見どころは、男の主役を演じたダンテさんです。彼の若いころは、脳みそまで筋肉といった感じの無頼漢を演じることが多かったのですが、年をとって、素朴な人生を生きてきた男の渋みが出てきて、意外にもラブロマンスにマッチするようになりました。子難しいことを考えることなく生きてきたんだろうなという素朴な雰囲気が、かえって恰好良く見えるようになりました。

(Photo cited from IMDb)

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「Only We Know」のストーリー

大学教員であるベティが、講義の中でベケットの演劇論について、学生とディスカッションするシーンから始まります。ベティは、ベケットの演劇の神髄は「特別なことは何も起こらないこと」「ただ待っていることがドラマになっている」であると語ります。私はもと劇作家・演出家で、若いころは劇団を率いていたので、懐かしいテーマでした。ちなみに、日本ではベケットの演劇は「不条理劇」と訳されている言葉の英語は「Absurdism」なんですね。「Absurd(バカ)」が語源だということに驚きました。このシーンから、本作では大きなことは起こらないことが暗示されます。

さて、ベティですが、既に大学教員を退職していました。最初のシーンは、暗示のためだけのシーンでしたね。彼女は、子供がおらず、弁護士である夫と離婚しているので、ひとりで生活しています。友達からは、シニアの男性を紹介されますが、しょぼくれたおじいさんたちで、若々しさを保っている彼女には、合いそうもありません。

一方で、ベティの向かいに住んでいる男(ライアン)は、さいきん妻を亡くしたばかりです。妻は脳腫瘍で、壮絶な最後だったものですから、彼はすっかり呆けて生きています。彼は、建築関係のエンジニアで、現場監督の姿が似合っています。2人は金持ち向けの住宅街に住んでいます。

2人の最初の出会いは、そんなに良いものではありませんでしたが、ご近所ですから、ちょくちょく出くわすようになります。そして、2人の関係は少しずつ確実に近づいていきます。この過程が、丁寧にじっくりと描かれるのが、本作の真骨頂です。

(ネタバレ)後半になって、ベティの乳がんが再発したことがわかります。ステージは3Aです。絶対死ぬというほどでない、微妙なラインですね。再発がわかって、落ち込んだり、苛立ったりしていたベティですが、ライアンに検査結果を伝えると、ライアンの方が激しく動揺します。彼は妻の死が乗り越えられておらず、妻のシーンが鮮烈に頭によみがえり、朦朧としたあたまで車を運転し始めました。自分自身よりも激しく動揺するライアンをみて、ベティは正気を取り戻しました。

そして、2人で話し合い、ライアンは妻の死を乗り越えるべく戦う、そしてベティは乳がんと戦うことを誓い合い、2人の結びつきは、何となく惹かれあう男女の関係を超えて、固く結ばれたものとなりました。ベティが、自分が死んでしまったときのことを語ったとき、ライアンは「もちろん泣きわめくだろうし、寂しがるだろう」と答えます。そこには、悲しみから逃げていたライアンの姿はもうありませんでした。ベティは涙ながらに「ありがとう」と答えます。

最後のシーンは、新年を迎える花火を2人で見るシーンです。ベティは「友情はもっともロマンティックな関係だ」と、彼に伝えました。

良い映画でした。2人の関係が近づいていく過程を、時間をかけて丁寧に描いていきます。また、シニアの恋愛というフィリピンでは新しいテーマですが、西洋や日本の作品のように見せようなどともせず、素朴にフィリピンらしく描き上げました。また、コメディ要素が全くなかったのも良かったと思います。

「Only We Know」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたIrene Villamorさんは、恋愛映画・TVドラマを専門としています。彼女の作品は、他に1本しか見たことがないので作風まではわからないのですが、フィリピンでは良くある恋愛コメディ路線ではなさそうです。主役の女性を演じたCharo Santos-Concioさんは、本作公開時に70歳(!)ということもあり、他の作品では母か祖母の役で見かけることが多い女優さんです。でも、70歳には見えないですね。役と同じく60歳を過ぎたくらいに見えます。一方、男の主人公のダンテさんは、公開時45歳(!)。実年齢の差は25歳もありますが、ダンテさんの渋さが増したため、普通にカップルに見えます。この実年齢の差が、女性の視聴者さんにとって楽しめる要素になりますね。

「Only We Know」の作品情報

オリジナルタイトル:Only We Know

公開年 2025年

監督 Irene Villamor(Ulan

主なキャスト Charo Santos-Concio(カトリックスクールの怪異)(たとえ嵐が来ないとしても)(立ち去った女

Dingdong Dantes(トランスバトラー)(バトル・オブ・モンスターズ)(One More Try)(Rewind)(ファンタスティカ

視聴可能メディア Netflix(英語字幕)

「Only We Know」のトレイラー

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