パッキャオ映画の中でも、評価の高い作品として気になっていた作品ですが、メジャーな配信サイトでは見つからず、諦めていた作品です。しかし、最近、ロシア系の怪しいサイトで見つけることができたので、さっそく見てみました。パッキャオ映画の中では「マニー」というアメリカ映画が良くできており、日本語字幕でも見られるのでお勧めですが、本作は少年時代をもっと深掘りしたいというボクシングファンにはお勧めです。タイトルの「Kid Kulafu」ですが、「Kulafu」は、ターザンに影響を受けたフィリピンのヒーローです。また、マニーが少年時代にビン集めの仕事をしていたのですが、その時に集めていた酒ビンのラベルに「Kulafu」と書いてありました。今もフィリピンでは同じ名前で売っているみたいですね。日本のアマゾンでは売っていませんでしたが、フィリピンの食料品店で探してみても面白いでしょう。

(Photo cited from IMDb)
「Kid Kulafu」のストーリー
嵐の夜に、男たちが広場で殴り合っています。特に意味はなく、雰囲気作りのシーンだと思いますが、ひょっとするとKulafuの物語と関係あるかもしれません。そんな中、エマヌエル(マニー)が産まれました。
すぐに少年時代にジャンプして、マニーやパッキャオ家の様子が描かれます。マニーは、その頃、ブルース・リーの映画にはまっていました。また、パッキャオの家庭は、かなり田舎にあり、宗教的な家庭です。また、父親は家畜の世話をする程度の仕事しかしておらず、現金収入が少ないため、妻に「街へ出よう、そうすれば自分も働けるから」と言われるも、「都会は嫌だ」といつまでもグズグズしています。しかし、家族の住む土地が、政府軍とゲリラの戦いの場になってしまったため、家族が近くのGeneral Santosに移住しました。ちなみにGeneral Santos、略してGensanは、義足の日本人ボクサーを描いたフィリピン映画「Gensan Punch」の舞台です。パッキャオが、ボクシングを始めたのがGensanだったのですね。そう思うと、「Gensan Punch」もさらに趣が増しますね。
Gensanでは、マニーは叔父の仕事を手伝い、ビン集めをして小遣いをもらっていました。その集めていたビンのラベルに書かれていたのが「Kulafu」の名前でした。叔父は、もともとボクシング経験者で、家でもテレビでボクシング中継を見ていました。叔父の家で、ボクシングを見るうちに、マニーもボクシングに興味を持つようになり、叔父にボクシングを教えてもらうようになります。
しかし、そのことに気づいた母は激怒し、マニーにボクシングに関わることを禁止します。母は、マニーに司祭になって欲しいと言います。マニーが「司祭になるためのお金がうちにはないよ」と言い返すと、母は何も言えません。
しかし、母親が過労のため心臓発作で倒れてしまいます。薬代を払おうにもお金がありません。父はちょうど出稼ぎに出ていました。結局、叔父からお金を借りたのですが、ちょうどその時に、ボクシングの試合で1人欠員が出たため、代わりにマニーがリングに立つこととなりました。その時のリングネームが「Kid Kulafu」です。
(ネタバレ)退院した母は、明らかにマニーが顔を腫らしていることに対しては何も言いませんでした。しかし、時が経つと、やはりボクシングには反対といいだします。そんな母の言葉を無視して、マニーはダバオに遠征し、そこで試合を重ねました。そして、Gensanのお祭りでも試合をして、マニラに行ってしまいました。その頃には、さすがに母親も応援するようになり、もともと喧嘩っぱやい性格ですから、母親が一番マニーを応援するようになります。
マニーは、マニラでボクシングにうちこみ、負ける日もないではありませんでしたが、また練習にうちこむことでメキメキと頭角をあらわしていきます。その頃には、地元の関係者は、マニーの活躍をテレビでみるようになっています。最後のシーンは、本人の映像でアメリカで誰かと試合が始まる前のシーンです。「さあ、これから試合」というところでエンドロールです。
両親や、叔父との関係が丁寧に描かれており、面白い作品でした。同じくパッキャオを描いた作品「マニー」はアメリカ映画なので、アメリカに渡ったあとの活躍が中心に描かれますが、本作ではフィリピン時代、特に子供時代がフォーカスされ、その試みは成功していたと思います。また、主人公を演じた役者が頑張っており、普通に才能豊かなボクサーに見えます。練習を繰り返して、キレのある動きを身に着けていく姿も、説得力がありました。
細かいことですが、「マニー」ではパッキャオたちは漁村に住んでいて、地引網を手伝っていたと語られていましたが、本作では明らかに山の中で、家畜に囲まれて過ごしていました。どっちが本当なのでしょうか? また、今もこんなやり方をしているのかわかりませんが、子供に安全対策を考えずに、いきなり試合をさせたりするやり方では、今の時代競技者が減ってしまうだろうなと思いました。今のフィリピンボクシングが弱いのは、時代に合っていないボクシングカルチャーにあるんじゃないかと考えました。
「Kid Kulafu」の監督、出演者情報
本作の監督を務めたPaul Sorianoさんは、監督としてよりもプロデューサーとしての作品の方が多い人です。プロデューサーらしく有名女優と結婚しており、奥さんはTono Gonzagaさんです。マニー少年を演じたBuboy Villarさんは、当時子役でしたが、順調にキャリアを重ね、現在では様々なテレビドラマや映画作品に出演しています。マニーの母を演じたAlessandra De Rossiさんは、個性派女優ですね。めんどくさい人を演じることを得意としています。本作でも、マニーに対する包容力などは見せず、怒りっぽく支配的な気難しい性格の母親を演じています。この女優さんは、ほとんどめんどくさい女性の役を演じるので、たまに素直な女性を演じても、裏があるんじゃないかと思ってしまうくらいです。
「Kid Kulafu」の作品情報
オリジナルタイトル:Kid Kulafu
公開年 2015年
監督 Paul Soriano(Siargao)
主なキャスト Buboy Villar
Alessandra De Rossi(僕のアマンダ)(What If?)(The Amazing Journey of the Letters)(Bambanti (scarecrow))(キタキタ)
視聴可能メディア IWantTFC、ロシア系の怪しいサイト(英語字幕)

