本作は新人刑務官が、殺人犯が満期で釈放(あるいは仮釈放)されるのを何としても阻止しようという個人的なモラルから始まり、様々な事実が明るみになりどんでん返しが起こり、最後は人間賛歌になるという大作的な作品です。とは言え、どんでん返しで明らかになった事実が、前半と矛盾が大きすぎて、さすがに無理があるでしょうという感想になってしまった残念な作品です。むしろ前半のサスペンス的な展開が素晴らしく、無理に人間賛歌にしなくても良かったんじゃないかと思いました。点数をつければ前半100点、後半30点くらいの作品です。フィリピン映画全体に言えることですが、ストーリーに矛盾が多すぎます。フィリピン人はそんなこと気にしないのでしょうが、フィリピン映画が世界で見られるようになるには、もっと脚本を練り上げる必要があると思います。本作も、世界に通用する大作になり損ねたもったいない作品でした。

(Photo cited from IMDb)
「Green Bones」のストーリー
姉と姪を殺した殺人犯が、警察に捕まり、離島の刑務所に送られるシーンから始まります。その刑務所に、新任の刑務官(ゴンザガ)が赴任することで、物語が動き出します。
後に回想シーンでわかることですが、ゴンザガは姉を殺されており、その犯人は未だ捕まっていません。そのため、ゴンザガの犯罪者に対する眼差しは厳しいです。また、彼の眼には、受刑者は規律がなく、獣のような奴らに見えます。その中で語られるのは、Green Bonesとは、善良な人を火葬したときに残る骨のことのようです。
そんなゴンザガに、刑務所長が間もなく釈放される受刑者にリストが渡されます。その中に、最初に逮捕された姉と姪殺しの男(ドム)が含まれていました。ゴンザガは、2人も殺した男を解き放って大丈夫なのか?と、ドムの行動に注目すると、怪しげな行動がみられます。所長に報告するも、この刑務所は罰を与えるのではない更生を促すのだと言われたり、同僚からは、私情を仕事に持ち込むなと注意されたりします。それでも、ドムと彼と同室の受刑者たちを観察していると、手でサインを送ったり、何かをこっそりと受け渡していたりと、怪しい素振りがいくらでも出てきます。また、ドムには耳が聞こえないという記録がないにも関わらず、刑務所では一切口を利かず、手話を使います。また、定期的にNGOのスタッフが訪問しており、こっそり尾行したところ、ドムは言葉を喋り、何かものを受け渡ししています。疑惑しかありません。
そのため、ゴンザガは抜き打ちの持ち物検査を実施しました。そして、受刑者がスマホを持っていたことを発見し、それを証拠として所長に提出しました。また、NGOのスタッフの女が来た際には、尾行をし、彼女の家を訪れました。そこで、耳が聞こえない若い女に出会います。そして、そこに住むNGOスタッフから真実を聞かされます。もうネタバレになってしまうのですが、作中の時間は半分くらいです。ネタバレが早すぎですね。
(ネタバレ)NGOのスタッフとドムは、兄妹なのかいとこの関係でした。そして、ドムの殺人事件は冤罪であることを知ります。というのは、ドムはもともと累犯の窃盗犯でした。しかし、姉の耳の聞こえない娘と出会って、人生が変わり、真っ当な人間として生きるようになっていたのです。ところが、姉の夫はひどいDV男で、姉と姪っ子は怯えて暮らしています。姉は、自分に何かあったら娘を守って欲しいと、ドムに語っていました。そんなある日、ドムの姉が夫に殺されていました。また、使用人に殺人犯だと思われてしまい、姪っ子を抱えて逃げ出します。そして、姪っ子をDV父から守るために、姪っ子を自分の姉(いとこ?)に託したのち、2人を殺したと言って殺人犯として逮捕されたというのです。ゴンザガは、自分が想定していたことと正反対の真実に驚愕します。
さっそく、所長に報告し、ドムは無実だから、姪っ子にあわせてあげて欲しいと進言します。しかし、驚いたことに更生を語っていた所長は、裏ではDV父と繋がっていたのです。
ゴンザガは、刑務所に戻ったところ、囚人の部屋から火の手があがっています。これは同僚で、所長の腹心の部下が火を放ったのです。というのも、囚人たちの怪しげな行動は、この男が囚人たちに陰で暴力を振るうので、自衛のためにカメラで証拠を残そうとしていたのです。その証拠を突きつけられた刑務官の男は、囚人たちを殴る蹴るしたのち、外側から鍵をかけ焼き殺そうとしたのです。そんな囚人たちを、ゴンザガはドムと共に助けたところ、ドムは刑務官の男に刺し殺されてしまいました。
ちょうどそのころ所長は、自分の腹心の部下を呼び出し、お前がしっかり指導しないからゴンザガが真実を突き止めてしまったじゃないかとなじります。苛立っていた腹心の男は、所長とDV父を射殺しました。彼はゴンザガや他の刑務官に取り押さえられました。
最後はエピローグです。ドムは死後に無罪が証明されました。ドムと同室の受刑者の何人かは刑期を満了して出所しました。ゴンザガは、同じ刑務所で働いています。そして、ドムが地中に埋めていたビンを掘り出してみました。瓶に詰められた紙には「良い人間になりたい」という彼の願い事が書かれていました。エンディングです。
前半部のドムや同室者たちの怪しい行動が、ゴンザガの疑念を強めるところは面白かったのですが、明かされた真実に無理がありました。さすがに、死体もあがっていない殺人が認められのはおかしいですし、そもそも姉の死も、日常的にDVをしていたことはお手伝いさんも知っているはずです。また、姉が殺された現場では、姪っ子は隠れていたので、真犯人を証明できるはずです。なぜ、姪っ子を守るために、2人の殺人犯として刑務所に行かなければならないのでしょうか? また、姪っ子の成長から推定するに、刑務所に入って10年程度です。さすがに2人殺した殺人犯が、わずか10年で出所できるとは思えません。レイプ1件で懲役40年が言い渡される国ですからね。また、刑務所の所長が、DV父とグルだったという設定も蛇足でした。DV父は、ドムが出所したら真実が明らかになることを恐れていましたが、ゴンザガがドムの怪しい行動を調べ上げ、出所できないように証拠を集めるのを諫めていた立場です。所長の腹心の刑務官が、所長とDV父を射殺してしまうのも無茶苦茶です。自分の銃で撃っておいて、誰のせいにしようと思ったのでしょうか? というか、その場で取り押さえられているので、近くに同僚がいたわけですし・・・。ちゃんと設定を見直して、脚本を整理すれば、凄い作品になるポテンシャルを秘めているだけに残念でした。
「Green Bones」の監督、出演者情報
本作で監督をつとめたZig Madamba Dulayさんは、中堅の監督さんです。彼の作品を見るのは本作が初めてなので評価が難しいですが、良い脚本に恵まれればブレイクしそうな感じがありますね。問題は、フィリピンにはちゃんとした脚本が少ないことです。ちなみに実家は農家で11人兄弟の10人目だそうです。恵まれた家庭出身の監督さんがほとんどなので、この点は好印象ですね。俳優の方では、ゴンザガどドムを演じた2人が、素晴らしい演技を披露していました。ドムは行動は疑わしいという目で見れば怪しく見え、善人だと思って見れば善人に見えます。バランスの取れた演技でした。また、ゴンザガの、時に行き過ぎる正義感と、偏見を抑え込もうとしているのがよくわかりました。2人の演技だけで前半を支えたほどでした。
「Green Bones」の作品情報
オリジナルタイトル:Green Bones
公開年 2024年
監督 Zig Madamba Dulay
主なキャスト Dennis Trillo(Sapi)
Ruru Madrid
Ronnie Lazaro(Himpapawid/マニラ・スカイ)(Yanggaw)(義足のボクサー GENSAN PUNCH)
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)

