本作は予想外の作品でした。タイトルとポスターの写真、そして作品紹介の文章から、人の好さそうな配送ドライバーが事件に巻き込まれる作品かなと思い、実際その通りではあるのですが、主人公は幼少期から父親より総合格闘技を仕込まれており、中盤以降は容赦なしの総合格闘技バトルになります。注目すべきは、本作が映画初監督作品となった、Lester Pimentel監督さんの経歴です。彼は、若いころ東南アジア競技大会(東南アジアのオリンピック)で、カンフーのいくつかの部門でメダリストとなり、1995年の世界武術選手権では、拳術の部門で世界チャンピオンになっています。その後、ビジネスの世界では、チャーハンのファストフード店、ラーメン屋、シンガポール料理レストランなど、次々と飲食店ビジネスを成功させ、フィリピンに100以上の店舗を持つチェーン店の創業者です。驚くべきことに、ビジネスの傍らカンフーの経験を活かそうと、映画業界ではスタントマンやアクション監督としても頭角をあらわし、2021年には自身の映画制作会社Studio Three Sixtyを設立してしまいます。そして、満を持して自らメガホンをとった作品が本作というわけです。これまで、フィリピンのアクション映画は、正直なところノロくてパッとしないものが多かったのですが、この監督さんの登場によって、大きく変わるかもしれません。

(Photo cited from IMDb)
「The Delivery Rider」のストーリー
主人公は、バイク配達を仕事としている中年男(サント)です。彼は自閉症ですが、その善良な性格から、ドライバー仲間から愛されています。コロナになる前は、総合格闘技の選手、かつ掃除夫としてジムで働いており、試合に出せば最も期待できる選手とみなされていました。しかし、本人は、やはり総合格闘技の選手であった父親から護身術として教わっただけで、選手になろうという気持ちはありません。その父親は、もう亡くなっています。さらに、どういうわけか、小さい子供(ミロ)のいる人妻(ニシェル)と同居しています。初っ端から情報量が多すぎです!
サントは、ミロを溺愛しており、ミロもサントのことを「お父さん」と呼んでいます。実際のお父さんは、後半に登場しますが、子供よりも仕事を優先するタイプの男で、ニューヨークに、一家で移住する計画となっています。サントは、稼いだお金まで、二シェルたちに渡そうとしますが、二シェルは「自分たちは、もうすぐニューヨークに移住する。そのお金は自分のためにとっておいて欲しい」と断ります。
さて、いつものように配達にはげんでいましたが、もうすぐお別れとなるミロが、一緒に配達に行きたがったため、一緒に行くこととなりました。二シェルには、夕方の5時までには帰ると約束しました。無事、荷物を届けてお金をもらおうとするも、依頼人が着払いであることを理解しておらず、お金を取りに行くというので、勝手についていきました。慌てた依頼人は、サントたちを追い払うために、「おつりはいらないから」と言って大きなお金を渡すのですが、配達人は証拠写真を撮らなければなりません。嫌がる依頼人と一緒に写真を撮ったところで、銃声が聞こえました。
サントは、銃声などには興味なく、その場を去ろうとするのですが、証拠写真を撮られたとあわてたギャングの男たちがサントたちを追跡します。どうやら、金を横領した仲間を始末したところに、出くわしてしまったようです。
このあとは、ひたすらアクションシーンです。序盤は、配達用のバイクで、ギャングの男たちから逃げるバイクアクションです。この時は、ほのぼのした雰囲気が残っていました。バイクが、2階のテラスから転落したさい、サントらを追っていた男(ボスの弟)が、転落して何かが胸に刺さって死んでしまってからは、さらに過酷な追跡とアクションシーンになっていきます。また、ボスが到着してからは、1対1のタイマン総合格闘バトルとなり、血みどろファイトへとエスカレートします。
(ネタバレ)ギャングの中にも、子供を必死で守るサントを見逃そうとする者もおり、難を逃れたかと思いましたが、一度倒したと思ったボスが、フラフラであらわれ、サントとミロに銃をむけます。必死で、子供の命を助けてくれと懇願し、泣き叫ぶサントをみて、ボスは自分にも自閉症の娘がいたことを思い出しました。ボスは、銃をおろします。
サントが血みどろで戦っていたころ、二シェルは夫と対峙していました。時間になっても帰ってこない息子に、二シェルは苛立ち、自分と一緒にニューヨークに行きたくないんだろうと、二シェルをなじります。また、サントのことも気味が悪いと吐き捨てます。待ちきれなかった夫は、明日空港で待つと言って去っていきました。二シェルは、そのあと、テレビニュースでサントらが危機にあることを知ります。というのは、配達完了時に送った写真が、ギャングらの事件を映し出しており、メディアでも取り上げられていたのです。
結局、ギャングの一味は、警察に一網打尽とされ、無事にサントとミロは救出されました。二シェルは、現場にかけつけサントとミロを抱きしめます。結局、二シェルとミロは、ニューヨークに行きました。ミロはニューヨークから、サントはフィリピンからオンラインゲームを楽しみます。そして、サントは、今日も配達のためにバイクで走りだします。そして、エンディングです。
アクションシーンが半分を占めるので、膨大な設定シーンは矢継ぎ早に展開されます。なぜ、二シェルはサントの家に住んでいるのか? このギャングは何者なのか? と言った情報はすっ飛ばしていきます。このスピード感は嫌いじゃないですね。また、過酷なアクションシーンをどこかユーモラスにしているのが、サントの自閉症という設定です。どこかユーモラスな表情や動きが、あまりにハードになりすぎるフィリピンアクションと一線を画していました。ちなみに、ポスターがジグゾーパズル風になっているのは、サントが自閉症らしく、ジグソーパズルが好きなことから来ています。
「The Delivery Rider」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたLester Pimentelさんについては、導入部で紹介したので、主役のサントを演じたBaron Geislerさんを紹介すると、彼はアンヘレスの米軍基地に勤めていたドイツ系アメリカ人を父としてうまれ、子役からキャリアをスタートしています。私の知る限り、アクション俳優では全くなく、ダメ男を演じることがほとんどです。実際、彼自身がアル中であることを認めており、ダメなおじさん感が素晴らしい役者さんです。彼がこんなに動けることに驚くとともに、きっと、監督さんから、地獄のような特訓が与えられたんだろうなと想像すると楽しいですね。武闘家の監督さんからの愛のムチでしょう。
「The Delivery Rider」の作品情報
オリジナルタイトル:The Delivery Rider
公開年 2025年
監督 Lester Pimentel
主なキャスト Baron Geisler(Moro)(GG(Good Game))(ある官能小説 -迷宮の女‐)(ドールハウス 〜想いをこめて〜)(Sapi)(ローサは密告された)
Euwenn Mikaell
Jennica Garcia
視聴可能メディア Netflix(英語字幕)

