警察OB組織が囚人を殺し屋として用いた実話を映画化「牢獄処刑人」

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これはトンデモない映画でした。私が見たフィリピン映画でもアクション・スリラー系ではダントツのナンバー1です。「刑務所の囚人を殺し屋として使ったら、捜査も及ばないし、アリバイは完ぺきだし、失敗したら始末すればいいだけだから便利じゃない?」とは、フィリピン以外で思いつくこともできませんし、それを思いついたとしてもフィリピン以外では実行できません。しかも、実話をもとに映画化されたと言いますし、その殺し屋組織を運営しているのが、警察OBであり、利用しているのが政治家というのは、救いのない社会ですね。テーマ的にも、映画としての面白でも、フィリピンを代表する映画と言えるでしょう。しかも、DVDをレンタルする手間はかかりますが、日本語字幕で見れるのも嬉しいところです。これはぜひ見て欲しい作品です。

(Photo cited from IMDb)

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「牢獄処刑人」のストーリー

映画の導入からトンデモない気配が漂います。「この物語は事実に基づいている」とのテロップが表示されます。映画サイトでは、事実というより「噂」レベルの話をもとにしたというコメントもありましたが、実際はどうなのでしょう。しかし、このテロップが腐敗社会フィリピンの威厳を保っていますね。他の国の映画とは明確に線を引いてきました。

物語の導入は、お祭りのシーンです。人々は仮装をしたり、水を掛け合ったりしています。その中に2人の男が入っていきます。携帯電話で話している男に、年老いた方の男(タタン)はいきなり発砲。そして頭にとどめの1発をお見舞いしたのち逃走します。その後、2人はそれぞれ別れて、家族と団らんを過ごします。そして、翌日、彼らは刑務所に帰っていきました。刑務所の警備員も手慣れたものです。「昨日の事件、ニュースでみたぞ」と話しかけてきます。タタンは、無言で彼らに酒やタバコを渡します。刑務所に戻ると、懲罰を受けなければならないらしく、看守たちは彼らのおしりに段ボールをいれてやります。その後、彼らは看守からおしりをたたかれる懲罰を受けました。

今度は刑事の出番です。どうやら政治的な介入があったようで、この殺しの担当がPNP(フィリピン国家警察)からNBI(連邦警察)へと変わりました。NBIのイケメン刑事(フランシス)は、PNPの老刑事(アコスタ)から嫌味を言われながら、捜査資料を受け取ります。

そんなおり、タタンの仮釈放が決まります。タタンは、組織の案内人に釈放後も仕事を続けたいと言うのですが、案内人は「組織が囚人を殺し屋として使うのは、金のためならば何でもやるからだ。釈放されたら、他の選択肢ができる」と言って却下します。タタンは、引退に備えて相棒の若い男(ダニエル)を育ててやってくれと依頼されます。これが英語版タイトル「On the Job」の意味ですね。

(ややネタバレ)徐々にわかってくるのですが、殺し屋の組織は警察OBによって運営されています。彼らは政治家の依頼を受けて、政治家の不正に関わるものを次々殺していくのです。また、フランシスの義父は政治家であり、どうやらこの義父が組織を使って政敵を殺していることもわかってきました。フランシスは、義父を問い詰めるのですが、「お前もこちら側の人間になったのだから、理解しろ」と諭されます。また、NBIの老刑事アコスタは、その不正に関わっており、自分が次に殺されることを恐れて、アコスタに打ち明けました。アコスタは相棒の話を聞いて、その場を離れるのですが、彼と入れ替わりでタタンとダニエルがやってきます。ダニエルは、アコスタの相棒を撃ちましたが、完全に殺しきれませんでした。組織の案内人は、失敗を許しません。2人に、運ばれた病院を突き止めて、とどめをさすように指示します。

刑事が運ばれた病院ですから、警察官がたくさん詰めかけており、非常に困難なミッションでしたが、ダニエルの機転(関係ない人を撃つ)により、タタンはとどめをさすことができました。2人は別々に逃げます。タタンはアコスタを追い、フランシスはダニエルを追います。どちらも逃げ切りましたが、タタンは顔が割れてしまいました。そっくりな似顔絵が出回ります。

刑務所に戻ったあと、他の囚人に「お前の似顔絵が出回っているぞ」と冷やかされます。タタンは静かに「俺はここにずっと収監されている。俺なわけがない」としらを切ります。しかし、どこからかタレコミがあったようで、アコスタは刑務所でタタンと面会します。「もうすべてバレている。組織か俺に殺されたくなければ証言しろ」と脅されますが、タタンは口を割りません。一方、フランシスは、タタンの家族を訪問し、証言を引き出そうとしますが、妻も口を割りません。刑事らはどうすることもできず、フランシスが目撃したタタンの妻の不倫の現場を見たことを伝えました。タタンの目に暗い光が宿ります。

(ネタバレ)フランシスは、自分の父親が組織によって殺されたことを知り、義父に対する不信感が高まります。そんなおり、アコスタが組織について証言する決意をした同僚の話を、フランシスに打ち明けます。彼が殺されてはいけないから、護衛に行こうと誘います。しかし、フランシスはアコスタを捨てて、義父の元に走りました。フランシスは、義父と組織のボスに、この告発の件を伝えます。義父は、フランシスにPNPでもNBIのトップでも好きなポジションにつきなさいと、彼をねぎらいます。ついに、フランシスも悪の側に堕ちたかと思いきや、彼は会話を録音していたのです。

妻から義父のパーティに誘われたフランシスは、妻にパーティに行かないように助言します。訝しる妻に対して、フランシスは「義父らの犯罪が明らかにされるので」と答えます。妻は、フランシスを平手打ちします。フランシスは、告発のためアコスタと合流しようとするのですが、その際に、ダニエルと新しいサポーターの2人に殺されてしまいました。怒ったアコスタは、組織のボスやフランシスの義父を追跡し、銃を乱射するのですが、そこまででした。彼は逮捕されます。

無事、殺し屋としての仕事をこなし、意気揚々と帰ってきたダニエルをタタンは迎えます。ダニエルは、自分を一人前にしてくれたタタンに礼を述べ、出所するタタンを涙ながらに抱擁します。ところが、ダニエルの横腹にはナイフが突き立てられていました。タタンは、ダニエルを殺害したことで、刑務所に収監され続けることになり、殺し屋に復帰しました。映画の中での最後の殺しは、妻の不倫相手でした。突然、家に戻ったダニエルは男を撃ち殺し、妻や娘に罵声を浴びせられながら逃走用の車に乗り込みます。そしてエンドロールです。

主要登場人物の全員が殺害されるか、不幸な運命をたどり、悪党だけが生き延びるというフィリピンらしい映画でした。タタンがダニエルを殺したシーンに賛否両論ありましたが、どう考えても出所してしまうと、口封じのために殺されるのは明らかですから、タタンには選択肢はありませんでした。フランシスが、妻にさえ打ち明けなければ、悪が排除されたかもしれないと思うと、残念な気持ちになりますが、悪が排除されないのがフィリピン映画ですから、これはやむをえないですね。アメリカがリメイク件を獲得したと聞いています。アメリカ映画では、悪が排除されるエンディングになりかもしれませんね。また、フィリピンでは、本作続編「On the Job: The Missing 8」が2021年に公開されています。しかし、海外ではまだ公開されていないようです。日本でも公開されると思いますので、その時を楽しみに待ちましょう。

「牢獄処刑人」の監督、出演者情報

本作の監督をつとめたErik Mattiさんは、本作以前にも面白い映画を撮る監督として知られてはいましたが、本作で完全に一皮むけましたね!世界的にも名前を知られる監督になりました。といっても、フィリピン映画の監督を知っている人は、そんなにはいませんが・・・。彼の作品は集中的におっていきたいと思います。また、本作ではシナリオが秀逸ですが、シナリオを担当したのが、なんと、山本 美智子さんという女性です。彼女は、日本人の父を持つハーフのフィリピン人で、Erik Matti監督の奥さんでもあります。Erik Matti監督を陰で支える日本にルーツのある女性の作品にも、今後注目していきたいと思います。

キャスとも豪華です。イケメン刑事を演じたPiolo Pascualさんは、様々な映画やドラマに出演しています。タタンを演じたのは、フィリピン映画界の大御所Joel Torreさん。ダニエルを演じたGerald Andersonさんは、イギリス人とのハーフで、様々な作品で外国人やフィリピン人の役を演じています。

「牢獄処刑人」

オリジナルタイトル:On the Job

公開年 2013年

監督 Erik Matti(A Girl and a Guy)(バイバスト

主なキャスト Piolo Pascual(Moro)(僕のアマンダ

Joel Torre(ホセ・リサール)(ロロ・アンド・ザ・キッド

Gerald Anderson (アサルトー狙撃兵-)(Unravel: A Swiss Side Love Story

視聴可能メディア TSUTAYA DISCAS(日本語字幕)

「牢獄処刑人」のトレイラー

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