家父長制を残すフィリピン社会が悪魔と結びついてしまう「存在するもの/The Entity」

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娯楽性の高いアクション映画で、日本でも良く知られているエリック・マッティさん撮った唯一のホラー映画です。フィリピンでは、ほとんどの監督さんが、キャリアの中で1本はホラーを撮りますね。一種の通過儀礼、徴兵制みたいなものなのでしょうか? 本作は、2019年に東京国際映画祭で上映されたことがあるため、日本語のタイトルを持っています。英語タイトルは「The Entity」、オリジナルタイトルは「Kuwaresma(四旬節)」です。四旬節とは、復活祭の前の期間みたいですね。内容とどういう関りがあるのかわかりません。下のポスターも内容との関りがわからないですね。ホラー映画として、おそろしい体験をさせるだけでなく、家父長制の残る古いフィリピン社会、そこで虐げられながらも黙認する女性たちと言った闇が積み重ねられたことで、悪魔を呼び寄せてしまったというプロットが徐々に浮かび上がり、悪魔なのか、父なのか、あるいは母に対して何か、次々と恐怖の対象が変わるところが秀逸な作品となっています。

(Photo cited from IMDb)

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「存在するもの/The Entity」のストーリー

過去のシーンから始まります。斧を持った父親に家族が惨殺されるシーンを経て、メインストーリーへと移行します。主人公のルイスは、大学生だと思われます。ある日、妹が「家に帰ってきて」と頼みに来るのですが、その直後、家から「双子の妹が死んだから家に帰ってきなさい」と電話がかかってきました。ルイスを訪れた妹はもう見えません。

ルイスは、実家に帰るのですが、両親は妹の死の原因について何も語りません。ただ、5年も家に帰ってこなかったことを非難されるだけです。また、(時々見えるのですが)妹の姿が見えないにも関わらず、明らかに家に存在して様々なことをするので、ルイスとしても原因を調べないわけにはいきません。おそらく、この頃の妹の亡霊がタイトルの由来でしょう。

妹の亡霊(?)にも、実家に帰ってこなかったことを非難されるので、どうやら権威的な父親が怪しいということで、父に詰め寄ります。ところが、父親はなぜか「やかましい」と日本語で反応し、家族の血統と社会での勝利が重要であるとルイスを説き伏せます。また、過去の一族の写真では、女の子2人が写っています。この頃から妹以外の亡霊も出現するようになり、話の方向性が見えなくなってきます。

(ややネタバレ)ともかく、ルイスは地元の除霊師に話を聞きに行きます。除霊師は、同じ家の以前の住人に起きた事件について語ります。それが最初のシーンのことですが、父親が斧で家族を皆殺しにしたという事件です。除霊師は、あの家には悪魔が憑りついているので祓う必要があると語ります。

’(ネタバレ)次のシーンでは、ルイスは父親によって、椅子に縛り付けられています。そして、「男は強くなければならない」と言われ、身体に電気を流され、鞭で打たれ、最後にはメリケンサックで顔面を殴られます。完全に悪魔の正体をあらわした父親に対して、遅れて入ってきた母親と除霊師が悪魔祓いを行います。悪魔は、フランス語や日本語で呻き、うまく言ったように見えましたが、やはり悪魔の方が一枚上で、除霊師は返り討ちになってしまいました。その時に、悪魔はアザゼルの息子、アザエルだと名乗ります。どうやら堕天使の名前のようですね。

それでも、母親が父親を刺し殺し、なんとか悪魔を払えたかのように見えましたが、今度はルイスが悪魔に憑りつかれてしまいました。ルイスは悪魔に憑りつかれながらも、妹をむざむざ殺させた母親の罪を責めます。ところが、今度は母親が強気です。そして、母親は家を焼くと選択をして、ルイスと一緒に逃れることができたのです。そしてエンディングです。

ラストに至るまでに、ルイスは実は女の子であり、父の「強くあれ」というプレッシャーによって男として振舞うようになったのです。殺されのはルイスの方で、ルイスと名乗っていた兄がルイーズであることが明かされますが、何の意味があるのかわかりませんでした。ともかく、日本軍時代から続く、権威的な父親の歴史が悪魔を呼び寄せ、それを女たちが乗り越えるという物語だったのではないかと思います。だから、ルイスが女でなければならなかったのでしょう。

「存在するもの/The Entity」の監督、出演者情報

本作品の監督をつとめたエリック・マッティさんは、フィリピンを代表する監督さんの1人で、お勧め作品は断然「牢獄処刑人」です。これは日本語字幕で見れるのでぜひ見てもらいたい作品です。主役のルイスを演じたのは、本作がデビューのKent Gonzalesさん。作中の妹は、彼の妹だそうです。双子と言う設定なので似た女の子を探したらしいのですが見つからず、彼の妹をキャスティングしたという話を聞きました。両親を演じた2人は、どちらも大ベテランです。母親を演じたSharon Cunetaさんの全盛期は90年代なので、彼女を見たのは自分にとって初めてでした。

「存在するもの/The Entity」の作品情報

オリジナルタイトル:Kuwaresma

公開年 2019年

監督 Erik Matti(A Girl and a Guy)(バイバスト)(牢獄処刑人)(バトル・オブ・モンスターズ)(スパイダー・ボーイ ゴキブリンの逆襲

主なキャスト Kent Gonzales

John Arcilla(Fuchsia Libre)(Ten Little Mistresses)(メトロマニラ 世界で最も危険な街)(Birdshot)(アントニオ・ルナ -不屈の将軍-

Sharon Cuneta

視聴可能メディア Bili Bili(英語字幕)

「存在するもの/The Entity」のトレイラー

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