2011年に起きた東北大震災と津波による被害は、同じく地震列島であるフィリピン人には大きなインパクトを残したようで、日本の大震災に関わる映画が何本も作られています。特に、フィリピン人の女性2人が犠牲になったというのは、フィリピンでは有名な話で、本作は、その実話にインスパイアされたものだと思われます。また、被災地には「風の電話」という電話線に繋がれていない黒電話を置いた電話ボックスがあり、亡くなった人に伝えられなかったメッセージを伝える場所とされているそうです。その「風の電話」を用いたセンチメンタルなドラマが展開されます。

(Photo cited from IMDb)
「Whispers in the Wind」のストーリー
日本の津波のシーンから始まります。目の前で恋人を無くしたフィリピン女性(ハンナ)は、フィリピンから来た男(レン)に出会います。レンは、自分を捨てた母を探しに来たのです。と言うのも、レンの父が亡くなったため、母が行ったという東北が被災地であったため、生死を確かめに来たという意味もありました。ハンナは学校の先生で、目の前で亡くした恋人の死体が上がらないため、いつまでも彼を探し続けています。
ハンナは、レンに被災者のリストを見に行ったらどうかと提案します。なるほどと思ったレンは、ハンナと一緒に見に行きますが、母の名前は見当たりませんでした。次は、地域のお坊さんを訪ねます。お坊さんは、お坊さんらしいことを語ってくれましたが、母に関する手掛かりはありません。
それでは、隣町の陸前高田に一緒にリストを見に行こうと、レンがハンナに提案すると、ハンナは躊躇します。それでもレンの説得により、一緒に陸前高田に行くこととなりました。そこで、7万本もあった松の林の中で1本だけ生き残った松を見ました。レンは、密かにFBで在日フィリピン人から情報を集め、母の住所を突き止めていました。しかし、土壇場になっていく勇気がくじけてしまい、チャイムを鳴らしても不在だったのを言い訳に、さっさと帰ってしまいました。
ハンナは、自分は恋人の死をはっきりさせたいが、レンは母がどうして自分たちを捨てたのかを知るのをはっきりさせたくないと思っていると、レンを非難します。また、ハンナは恋人からプロポーズされいたのに、ずっと決断できずに引き延ばしていたこと、ようやく覚悟ができたと思ったから彼を呼んだのに、結局決断できなかったこと、そのためもう1度会うことになり、その日に彼が津波にさらわれたことを、苦しそうに回想します。自分には、彼を探すことを諦められない、諦める資格がないと語ります。
(ネタバレ)しかし、ハンナはレンと会ったことで、前に進む勇気を取り戻しました。そこで、「風の電話」で亡くなった恋人へ、自分の後悔や恋人への思いを伝えました。そして、レンも母との再会を果たします。母は、レンに謝罪しました。しかし、ここから話は奇妙な展開を見せます。母によれば、津波で亡くなったのは2人のフィリピン人女性で、1人は学校の先生だったというのです。つまり、亡くなったのはハンナの恋人ではなく、ハンナであったと。そしてもう1人はハンナの友達であったということがわかります。
彼は、今までのハンナとの行動を思い返したところ、誰もがハンナの方を見ていなかったこと、自分だけに語り掛けていたことに思い当たります。ということになっていますが、出演している日本人がアマチュアなため、演技がいろいろ不自然過ぎて、そんなところに違和感を持つのは不可能でした。
レアは、ハンナに自分が知ったことを伝えます。最初、ハンナは認めませんでしたが、最後には認めざるをえませんでした。レアは、ハンナのために、ハンナの恋人に「風の電話」に来るよう頼みました。恋人から、震災時の顛末を聞いたハンナは納得したのか、その後あらわれることはありませんでした。
それから6か月後、レアは再び、被災地を訪れました。「風の電話」で、自分のハンナへの恋心を伝えました。その場を離れたとき、電話が鳴りました。そしてエンディングです。
ハンナの方が死んでいたという設定は必要でしたかね・・・。主役の2人の関係をラブロマンスにして、さらに「風の電話」の設定を使うためには、どちらかが亡くなっていなければならないので、最後の最後に無理やりハンナを死んでいたことにしたように感じてしまいました。しかし、こうしたセンチメンタルなゴーストストーリーは、フィリピン人の好みじゃないかと思います。
「Whispers in the Wind」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたRC Delos Reyesさんは、本作の1年前に全く同じ2人の主役でラブロマンスを撮っています。とにかく制作スピードが速く、毎回それなりに印象を残す作品を作ってくれる監督さんです。ただ、「これが彼の代表作だ」というのはないんですよね。そろそろ、代表作となる作品を作って欲しいものです。
「Whispers in the Wind」の作品情報
オリジナルタイトル:Whispers in the Wind
公開年 2024年
監督 RC Delos Reyes(Unravel: A Swiss Side Love Story)(霊媒は恋の始まり)(アルター・ミー: 心に耳を傾けて)(旅の先に)(Fuchsia Libre)(I love Lizzy)
主なキャスト Carlo Aquino (Bata bata paano ka ginawa?) (Love You Long Time)(Seasons:めぐりゆく季節の中で)(クロスポイント)(セックスの才能)(Third World Romance)(The Missing)(GOYO 若き将軍)(Hold me close)(I love Lizzy)
Barbie Imperial(I love Lizzy)
視聴可能メディア Netflix(英語字幕のみ)