私は現在、ヨーロッパに出張中で、ヨーロッパで見ることができるNetflixのフィリピン映画は日本とは違うのだろうか?と調べてみました。すると、(私が見つけることができた範囲ではですが)、日本では見ることができない2本のラブロマンスと3本のホラーが見つかりました。一方で、飛行機の中で見るためにタブレットに保存していたフィリピン映画の一部が、ヨーロッパではNot availableになっています。どうやら、少しだけ作品のラインナップが違うようです。本作は、その中の1本で、日本の佐賀県を舞台にしています。私が把握していない佐賀のフィルムコミッション映画がまだあったのですね。しかし、日本で撮影された映画だというのに、なぜヨーロッパのNetflixで見れて、日本のNetflixで見れないのでしょうか? 内容としては、人に触れるとその人が将来自分を傷つける人かとうかがわかる能力を持つ女性が、家族の問題から逃げて各国を転々としている男と出会い、愛することになるというお話です。ちなみに、なぜか「そばに抱きよせて」という日本語タイトルがありますが、日本での公開実績はなさそうです。

(Photo cited from IMDb)
「Hold me close」のストーリー
舞台は佐賀県の唐津です。男(ウッディ)は唐津に流れ着いたばかりで、新しい日本での生活をエンジョイしています。ある日、街を歩いているとき、イカの一夜干しを売っている女性(リンリン)とその兄弟に出会いました。すぐにウッディはリンリンを好きになり、フィリピン男らしい付きまといで、すぐに仲良くなりました。
実は、リンリンには特殊能力があり、人に触れると、その人が将来自分を傷つける人か、幸せにしてくれる人なのかがわかってしまいます。ネガティブな未来をもたらす人に触れると、リンリンは痛みを感じ、ポジティブな未来をもたらす人に触れると、快感を感じます。そこの演出がちょっとエロいです。この能力のため、リンリンはネガティブな反応を示した人と距離をとり、比較的ひきこもった生活をしているのです。
この秘密を、リンリンから聞かされ、自分にはポジティブな未来を見たのかと期待したウッディですが、リンリンは何も感じなかった、つまりニュートラルだと思ったと答えます。これには、あからさまにウッディはがっかりします。しかし、リンリンの方が積極的で、ある夜、ウッディを訪ねて、キスをしようとするのですが、ウッディは「自分が幸せをもたらすわけでもないのに、キスをするのは違うんじゃないか」と、少し待つことにしました。
ところが、その後も交際を続けていると、ウッディの体に触れるとポジティブな反応(快感)を感じるようになりました。そこからは、あっという間です。2人はできり限りの時間を共に過ごし、佐賀の街で楽しい時間を過ごします。そんな時、ウッディはリンリンに「どうやって、この能力を手にしたのか?」と質問します。リンリンによれば、日本に来てからのことで、森で妖怪に、この能力をもらったのだと答えます。
(そろそろネタバレ)しかし、ある日、ウッディに触れると痛みを感じるようになってしまいます。これには、2人とも絶望します。また、自分が受け入れられなかったと絶望して、他の場所に移動しようとするウッディをリンリンが引き止めました。2人が考えたのは、そうやってダメになったら逃げだす態度が問題なのではないか、そのためには逃げ出す原因となった家族問題と向き合う必要があるのではないかという結論に至ります。もっともな解釈で、ウッディは家族の問題に向き合いますが、どうしてもポジティブな反応に変わりません。しかし、一方で彼女も気づきます。相手が、自分を傷つけるからと言って逃げているのではだめなのではないかと。相手が自分を傷つけることがあっても、そのことに向き合える関係であればよいのではないか。人間関係には良い面と悪い面の両方があるのではないかということに気づきます。そして、彼女自身もこの能力を手にすることになった、苦い思い出に向き合い、ついに、この能力を手放すことに成功します。
(ネタバレ)ついに障害がなくなり、仲良く過ごす2人ですが、ウッディのもとに母から連絡がありました。ウッディは家族の問題を乗り越えるために、母との交流が復活したところ、母の健康状態が思わしくなく、母のもとに駆け付けた方が良いことがわかります。ウッディは後ろ髪を引かれる思いで、フィリピンに戻ります。そして、彼の帰国をまっているリンリンのもとにウッディの弁護士から、ウッディがトラックにひかれて亡くなったことを知らされます。リンリンが、ウッディからネガティブな印象を受けていた理由は、これだったのです。しかし、ウッディの最後の言葉も、この恋に対する感謝でした。リンリンも、ウッディとの恋のことは一生忘れることのない思い出となるでしょう。そしてエンディングです。
フィリピン映画ではよくあることですが、最後に誰かを殺してエンディングにするというのは、フィリピン映画の悪い癖ですね。それ以上の展開を考えなくてすみ、そこそこ感動が得られるという非常に安易な考えです。ちょっとファンタジックな要素を取り込み、愛について考えさせるという構造が良かっただけに、非常に残念なエンディングです。
ちなみに、佐賀のフィルムコミッションのサイトのあらすじによれば、触れたものではなく、1m以内に近づいた者との未来を予知する能力になっています。おそらく、これが申請時のプロットだったのでしょう。映画中では触れることでわかることに変わっており、恐る恐るETのシーンのように指を触れさせたりと、かわいらしいシーンになっておりました。
「Hold me close」の監督、出演者情報
本作品の監督を務めたJason Paul Laxamanaさんは、フィリピンらしい映画を撮る人と言えば良いのでしょうか? 良いのか悪いのかわかりませんが、日本人が撮るタイプの映画とは全然違うタイプの映画を撮る、いかにもフィリピン映画人という感じの人です。私にとってはもっと作品を見ていきたい監督さんです。この監督さんは、本作の主演カップルで「セックスの才能」という映画も撮っています。これは、私が「フィリピン映画で最初に見るべき10本」でも紹介している映画です。同じキャストでラブロマンスを撮るというのは、よっぽど主演の2人が気に入っているのでしょうね。ウッディを演じたCarlo Aquinoさんは、フィリピンを代表する国民的スターです。Julia Barrettoさんも大物女優です。滅茶苦茶美人というわけではありませんが、おかめ顔で、日本人には好かれるタイプの顔立ちです。仕草の一つ一つが可愛らしくていいですね。
「Hold me close」の作品情報
オリジナルタイトル:Hold me close
公開年 2024年
監督 Jason Paul Laxamana(Sosyal Climber)(セックスの才能)
主なキャスト Carlo Aquino (Bata bata paano ka ginawa?) (Love You Long Time)(Seasons:めぐりゆく季節の中で)(クロスポイント)(Third World Romance)(The Missing)(I love Lizzy)(GOYO 若き将軍)(セックスの才能)(Whispers in the Wind)
Julia Barretto(Block Z)(Un/Happy for You)(愛して星に)(セックスの才能)
視聴可能メディア Netflix(ヨーロッパ)(英語字幕)