フィリピンの怪物、アスワングをテーマにした映画はたくさんあり、最近では、アスワングの不死性を悲劇として描こうと言う作品も出てきていますが、私の知る限りは、いずれも中途半端になってしまい、最後は惨殺シーンで終わってしまっています。その点、本作は不死の怪物と、寿命がある人間のラブロマンスを主題に最後までブレずに描き切った作品と言えると思います。とは言え「葬送のフリーレン」のような新しくて、説得力のある描写があるわけではなく、平凡なラブロマンスになってしまっています。ただ、女性の立場になると、凶悪な怪物が主人公の女性を守るというのは、少女漫画では1つのジャンルと言って良いほど頻出のテーマなので、女性は楽しめるのではないかと思います。

(Photo cited from Filmarks)
「この時が果てるまで」のストーリー
老婆(リリア)が銃で腹を撃たれたようで、救命手術のシーンから始まります。リリアの家で4人が獣に切り裂かれたような死に方をしていたため、警察が事情聴取にやってきました。しかし、女性医師が気を利かせて、警察を追い返します。担当の老刑事は、数年間事件を解決できておらず、署内で馬鹿にされています。要領の良い刑事は、麻薬事件をでっちあげて解決するのだそうです。この老刑事は、40年前の事件との類似性に気づき、異常な熱心さで捜査にのめり込んでいきます。
リリアを病院に運んだ男(マティアス)は、リリアの息子を名乗りましたが、リリアによれば、それは彼女の恋人だと言います。リリアは80歳くらいに見えますし、マティアスは30代に見えるため、女医さんは「あら、素敵ね」という感じで、リリアの昔話に耳を傾けます。
リリアによれば、マティアスは猫でした。戦時中に疎開先で出会った猫がマティアスでした。確かに、序盤は猫の姿から人間の姿になるシーンが何度かありましたが、後半にはその設定は忘れられます。戦後、美人に育ったリリアは、地元の男たちにレイプされます。それを知った猫(マティアス)が、人間の姿になり、男たちを食い殺しました。ここで、この映画がアスワングものだということを知りました。この事件のため、リリアは魔女だとみなされ、住民に火あぶりにされそうになります。再びマティアスが、住民を皆殺しにして、リリアを救います。この事件を苦にした母親も自殺し、リリアと父は、故郷のバギオに戻りました。
さて、おばあさんのリリアですが、Rh(+)のA型で輸血が足りないことが発覚します。稀な血液型だからと、女医は家族としてマティアスを呼びました。なぜRh(+)のA型が稀なのかわかりませんでしたが、音でも「ポジティブ」と発音していたので、字幕の間違いではなさそうです。マティアスは、血液を手に入れるために、アスワング仲間の女を訪ねました。彼女はタトゥー屋を営んでいました。食事用に血液パックをたくさん所有しており、それを譲ってもらいました。
リリアの昔話が続きます。マティアスはバギオにもついてきて、彼ら2人は濃密な恋人関係を楽しむようになりました。マティアスは、リリアをアスワングすることで永遠の命を与えようとするのですが、リリアはそれを拒みます。マティアスによれば、彼は1570年生まれで、当時スペイン入植者と戦っていました。勇敢に戦った彼は、何者かにアスワング化されたとのことでした。もう500年近く生きており、多くの愛する人を見送ってきたと、マティアスは語ります。
輸血のかいもあり、リリアは退院しました。そのタイミングを狙って、老刑事が訪問します。彼はマティアスの顔を見て、50年前に自分の父親を殺した怪物であることを確かめました。
(ネタバレ)老刑事らは、マティアスが、血液パックの代金として麻薬をおさめるのを嗅ぎ付け、タトゥー屋とリリアの家を武装警官で捜索することとなりました。リリアの家は、武装警官に囲まれます。また、リリアは、退院したものの死期が近づいていることは明らかです。マティアスは、「自分はこれしか与えられない」と言って、リリアにアスワング化することを懇願しますが、リリアは「私は十分に与えてもらった」と拒み、そのまま亡くなりました。その時、すでに夜が明けていました。マティアスは、武装警官の前にあらわれ、太陽の光に焼かれて消滅しました。
その一部始終を見ていた女医が、リリスからもらったお金を持って、カナダへの移住のためバスに乗っているシーンで終わります。
実際はもっと込み入った話なのですが、細部にこだわると流れがわからなくなるので、細部は省略しています。アスワングものとしては珍しく、殺戮シーンは非常に限定的で、むしろ省略されたりしています。これは、延々残酷シーンを続けることが多い、フィリピン映画としては珍しいことです。また、アスワングものとしてはめずらしく、ホラー映画に分類されておらず、ダークファンタジーとロマンス映画に分類されています。
「この時が果てるまで」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたAdolfo Alix Jr.さんは、映画監督作品だけで50本以上を撮っていますが、代表作が思い浮かばない監督さんです。1本だけ撮ったドキュメンタリー作品「暗きは夜」を除けば、国際的に評価されたことはなく、国内でも映画祭の小さな部門で入賞する程度です。本作はそんなに悪くはありませんでしたが、これ以上の作品もなさそうです。アスワングを演じたCarlo Aquinoさんは、おそらくフィリピンで最も主役を演じている俳優さんです。
「この時が果てるまで」の作品情報
オリジナルタイトル:The Time That Remains
公開年 2025年
監督 Adolfo Alix Jr.
主なキャスト Carlo Aquino (Bata bata paano ka ginawa?) (Love You Long Time)(Seasons:めぐりゆく季節の中で)(クロスポイント)(セックスの才能)(Third World Romance)(The Missing)(GOYO 若き将軍)(Hold me close)(I love Lizzy)(Ulan)(Whispers in the Wind)
Bing Pimentel
Jasmine Curtis-Smith(アルター・ミー: 心に耳を傾けて)
視聴可能メディア Netflix(日本語字幕)

