本作は、1つの家族を通して、フィリピンの70年代を描いた作品です。見て驚きましたが、安保闘争に始まり、共産主義運動、そして原発反対運動へと学生運動が過激化していきます。日本と違うのは、その後、マルコス政権が取った行動です。政府は、不当な逮捕、拷問、殺害へと、市民のへの弾圧へと進んでいきます。日本は、敗戦の影響で、政府が強靭な態度を取れなかっただけで、そうでなければ、フィリピンと同じような道を辿ったかもしれないと思うと、震えるものがありました。また、政治だけでなく、当時の夫婦関係、特に社会における女性の役割も描かれ、それが政府によって抑圧される市民の姿とシンクロする構成も見事でした。作品自体は、2002年公開ですが、かつてのフィリピンを知る貴重なフィルムだと思います。ちなみに、本作は英語字幕付きのバージョンがYoutubeで無料公開されているのですが、3分に1回CMが入るので非常に見ずらいです。元々長い作品ですが、CMのせいで、実質30分増しているようなものなので、そのつもりで見なければなりません。ABC-CBNは、Youtubeで多くの作品を無料公開していますが、全くCMが入らないものから、本作のように、視聴体験を損ねるものまでバラバラです。おそらく、動画をあげる人によって適当に設定されているのだと思います。

(Photo cited from IMDB)
「Dekada ’70」のストーリー
物語は69年から始まります。米軍がフィリピンに滞在することの賛否を問う安保問題が、学生のあいだで論じられ、原発反対運動が起こります。そんな世相の中、アッパーミドル階級のバルトロメ家が描かれます。普通に見ているだけだと、誰が誰だかわからないのですが、家族には両親と、5人の息子がいます。途中、アメリカから帰国した女性が、母親に「おかあさん」と言って抱擁したので、娘とその夫だと思っていましたが、夫の方が息子で、この女性は嫁だったようです。フィリピン映画全般に言えることですが、家族の人数も多く、親戚や友達、恋人などが同居していることもあり、非常にわかりずらいのに、視聴者にわかりやすく理解させるようなシーンがないため、非常に混乱します。
ついでに、子供たちの立ち位置を整理すると、長男(ジュルーズ)は作中で学生運動にのめり込んでいきます。次男(ガニ)は、アメリカでアメリカ兵として働くことになります。三男(エム)は、やはり学生運動寄りの立場ですが、直接運動には参加せず、学生運動を支援する文章を書いています。四男(ジェイソン)は、女の子を追い回している特に思想の無い男です。そして、五男はまだ子供です。ちなみに、父の名前はジュリアンで、本作で大きな役割を果たす父と長男と四男は、すべてJから始まるスペルなので非常にわかりずらいです。もっと言えば、父のフルネームが、ジュリアン・バルトロメ。長男のフルネームが、ジュリアン・“ジュールズ”・バルトロメ・ジュニアであるため、ジュリアンが父と長男のどちらを指すのかさえわかりません。そういう訳で、普通に作品を見るだけで、登場人物の関係を理解するのは相当難しいです。
当初、父親は長男や三男が、学生運動に参加することに対して、「そんなことで逮捕されたり、誘拐されたらどうするんだ」と激怒します。しかし、やがて政府が夜間外出禁止令を発してから、家族の中にも不安がよぎります。そんなおり、次男が恋人を妊娠させてしまい、結婚してアメリカの海兵隊として働くことを決断します。また、学生運動仲間が殺され、長男は深く絶望します。
徐々に父親の態度も政府よりから、学生寄りへと変わってきて、「男たるものは、自分の主義のために生きて死ななければならない」と言うようになります。妻は、社会に貢献するために働きたいと夫の言うのですが、夫はそれを許しません。
そんな頃、長男が怪我をした学生を家に連れ込みました。警察の摘発を恐れる家族ですが、学生たちを追い返すわけにもいかず、しばらく匿うことになりました。その時、学生たちから政府の非道な行動について聞くこととなり、家族の不安はますます高まります。
そして、時代は75年、76年へと飛びます。ある日、警官隊がバルトロメ家に押し入ります。警察が言うには、長男が反政府運動で重要な役割を果たしているから家宅捜索を行うというのです。どうすることもできず、警官たちに滅茶苦茶にされた我が家を見て、両親は茫然とします。この時、警官は密告があったと言って、密告した男の顔が映るのですが、誰だったのかわかりません。わざわざ顔を映したということは、バルトロメ家で匿われた学生の誰かだったのでしょうか?
(ネタバレ)さらに、長男がついに警察に逮捕されたという情報が入ってきました。警察に面会のため訪れると、顔を腫らし、足を引きずる長男と会うことができました。その後、拷問の回想シーンも挿入されます。両親は、教会やアムネスティの力を借りて、長男の保釈のために行動します。そして、その時初めてわかったのですが、長男は学生運動仲間の女と結婚しており、子供も産まれていました。
そんなとき、四男も逮捕されたことがわかります。容疑は、マリファナで、数時間前に解放されたと聞きますが、殺されていました。長男と四男は名前が似ているので、私は長男が獄中死したものと思っていました。マリファナ使用が本当だったのか、なぜ殺されたのかは、最後までわかりませんでした。
四男の葬儀のときに、ついに解放された長男があらわれます。長男は、妻と子供のために、その後活動家らは足を洗いますが、今度は殺された四男の復讐をするのだと、父親が過激思想に傾倒していきます。妻は、子供たちを守るので精一杯で、そんな夫に不安しかありません。ついには、子供たちに対する考え方の違いで、衝突し、離婚の話まででます。妻の想いを聞いた夫はショックを受けるばかりです。とは言え、離婚ができるような状況でもなく、子供たちはやがて結婚していき、夫婦はいつしかヨリを戻しました。
最後は83年にジャンプして、ベニグノ・アキノの葬儀に家族が参列するシーン。ピープル革命に身を撮叔父る家族が写されて、エンディングです。
家族内で起こっていることが非常にわかりずらいという問題はありますが、そこは深入りせずに表面だけ見ていても良いのかなと思います。ともなく、安保闘争から共産主義運動へと過激化する学生運動に対して、マルコス政権が強靭な態度を取るようになり、それが結局、市民全体の怒りへとつながり、マルコス政権が妥当されるという流れがよくわかりました。当初、政府よりだった両親の態度が変わっていく様子を見せることで、当時のフィリピン人の考えがどう変わったかが良くわかりました。フィリピンの歴史を知るうえで、教科書的な作品じゃないかと思います。
「Dekada ’70」の監督、出演者情報
本作の監督をつとめたChito S. Roñoさんは、80年代から映画監督として多くの作品を残している監督さんです。ホラー映画の「Feng Shui」で有名ですが、本作が最も重要な作品として知られているようです。母親を演じたVilma Santosさんは、私が「フィリピンの大竹しのぶ」と呼んでいる大物女優。長男を演じたのは、フィリピンを代表するイケメン俳優のPiolo Pascualさんです。彼の若いころの姿が見られるのは、ファンにとっては嬉しいですね。
「Dekada ’70」の作品情報
オリジナルタイトル:Dekada ’70
公開年 2002年
監督 Chito S. Roño(Scarecrow)(Feng Shui 2)(Bata, Bata. Paano Ka Ginawa?)(La Vida Rosa)
主なキャスト Vilma Santos(Uninvited)(Bata, Bata. Paano Ka Ginawa?)
Christopher De Leon(Kakabakaba Ka Ba?)(Weighed But Found Wanting)
Piolo Pascual(Moro)(牢獄処刑人)(僕のアマンダ)(The Ride)(Manila’s Finest)(もう一度あなたと)(The Kingdom)(Meet, Greet & Bye)(GomBurZa)(Last Night)
視聴可能メディア Youtube(英語字幕)

